作成日
:2022.10.04
2023.11.01 12:40
仮想通貨(暗号資産)市場では、2021年頃からNFT投資がブームとなっていました。価格が急騰したため、バブル的な状況だとも囁かれていました。しかし、NFTの取引量は最盛期から大幅に減少しており、NFTブームは終了したとの声も見られます。
当記事では、NFTの現状や取引量が激減した要因、長期的に見たNFT市場の可能性などについて解説します。
NFTは日本語で非代替性トークンと呼ばれる技術です。主にデジタルアートやブロックチェーンゲームのアイテムで使用され、NFTマーケットプレイスで取引されています。
また、複製不可という特徴を持っており、唯一無二の価値を持っています。例えば、猫育成ゲーム「クリプトキティ」内の猫はNFTで作成されており、固有の外見や価値を持つため、ある猫を別の猫で代替することはできません。
画像引用:CryptoKitties
そのため、それぞれのNFTは希少性が担保されています。このような特性から投資対象として認識され始め、多くの人々がNFT市場に参加してきました。
NFT市場には個人投資家だけでなく、ベンチャーキャピタルや投資目的のDAO(分散型自立組織)なども数多く参入しています。加えて、複数のNFTマーケットプレイスが台頭してきており、OpenSeaやBlur、LooksRareを筆頭に市場規模の拡大に貢献しています。
DAOは、Decentralized Autonomous Organizationの略で、日本語で「分散型自立組織」と訳されます。つまり、中央管理者が存在しなくとも、参加者の活動によって機能する組織を指します。中央集権型の組織と比較して民主的で透明性が高いと見なされており、ブロックチェーンの普及で広く採用されています。
このような背景からNFT取引が活発となり、NFT元年と呼ばれる2021年には取引量が飛躍的に増加しました。2021年末の月間取引量は約170億ドルとなっており、前年の200倍以上の値を記録しています。
同様に、NFTを取引しているアクティブウォレット数も急増しており、2020年の約9万件から2021年には約250万件にまで増加したと報告されています。
NFT市場では、数百万円から数億円の高額なデジタルアートも登場しています。例としては、イーサリアム(ETH)で最初のNFTコレクション「CryptoPunks」 (クリプトパンクス)、猿のイラストで有名な「BAYC」(Bored Ape Yacht Club)などが挙げられます。
これらのNFTは2Dのドット絵でシンプルなデジタルアートですが、コミュニティでのステータスシンボルとして高値が付いています。まさに、NFTバブルの象徴的な存在だといえるでしょう。
仮想通貨(暗号資産)市場ではNFTと時を同じくして、Play to Earnのブロックチェーンゲームが流行しました。
Play to Earnとは、遊んでお金を稼ぐことを指します。すなわち、ブロックチェーンゲームで遊ぶと、NFTや独自仮想通貨などの報酬を得られます。Play to Earnから派生したMove to Earn(運動して稼ぐ)なども、流行しています。
代表的なものとしては、モンスターを育成してバトルするアクシー・インフィニティや、人気メタバースゲームのディセントラランドなどが成功を収めています。
結果的にPlay to Earnのプロジェクトが乱立しており、ゲームプレイで必要なNFTが大量に流通するようになりました。Play to Earn分野は、NFTブームの拡大に大きく貢献したと考えられます。
ブロックチェーン調査データを公開するDuneによると、2022年に入ってからNFT取引は急減し、9月末までに年初比で97%減少しました。すなわち、約170億ドルあった月間取引量が約4億5,000万ドルにまで急激に低下しました。
画像引用:Dune
その主な要因としては、市場環境の変化が挙げられます。これまで世界各国は金融緩和政策を継続してきました。これを受けて潤沢な資金が仮想通貨(暗号資産)市場にも流れ込んでいましたが、米国を始めとする国々が金融引き締めの方針を明確にしたことで、その図式が崩れました。
結果として、仮想通貨市場全体が低迷しています。その影響でNFT市場も鈍化しており、投資家の関心が薄れている模様です。2022年第2四半期には、取引数が前期比で約40%低下しています。
2022年第1四半期までは、NFTの買い手の数が売り手の数を上回っていました。しかし、リターンを生むことが難しい中で、その数は完全に逆転しています。バブルが崩壊して、NFTブームの熱が冷めつつあるかもしれません。
低迷しているNFT市場ですが、Twitter(ツイッター)などでは、徐々にNFT市況が回復しているとの声も見られます。2023年10月31日現在、直近1ヶ月間の価格推移を見ると、BAYC(Bored Ape Yacht Club)やCryptoPunks(クリプトパンクス)、Moonbird(ムーンバード)といったNFTコレクションのフロアプライスは若干の回復傾向にあります。
以下は、2023年10月以降のBAYCのフロアプライスを示した画像です。
画像引用:OpenSea
また、下記の画像は2023年8月〜10月における、1日あたりのNFT取引量を示したものです。2023年10月中旬以降、NFTの取引量が徐々に回復している傾向が見られます。
画像引用:Dune
しかし、NFTの取引が活発だった2021年頃と比較すると、依然として市場は低迷している状況です。下記の画像は、過去2年間における、NFTの週間取引量を示した画像です。
画像引用:Dune
短期的にはNFT市場が回復しているようにも見えますが、長期的にはまだまだ低迷していることには変わりありません。これからNFT市場がどのように回復を見せていくのか注目です。
市場を取り巻く環境の変化以外にも、投資家がNFT投資に慎重にならざるを得ない理由があります。取引が鈍化している要因として、以下のような事柄も影響していると考えられます。
Play to Earnは、NFTの主要な利用例となっています。多くのプレイヤーが収益目的でNFT投資をしていますが、ほとんどのPlay to Earnはそれが叶わないような状況となっています。
例として、STEPNがあります。STEPNは、プレイするために高額なNFTを必要とするMove to Earnです。しかし、報酬となる独自仮想通貨(暗号資産)の暴落でエコシステムが崩壊しており、それに伴ってNFTの価値も激減しています。
画像引用:CoinMarketCap
Move to Earnは「運動して稼ぐ」をコンセプトにしたブロックチェーンゲームです。歩いたり走ったりすると仮想通貨を得られます。STEPNの流行もあり多数のMove to Earnゲームがリリースされています。
中には、投資した金額を回収できずに損失を抱えているプレイヤーも存在します。このような現象はSTEPNだけでなく、NFT販売以外の収入源を持たないPlay to Earn全般で発生しています。
バブルでNFT市場全体が上昇していた時期とは異なり、Play to EarnのNFTは必ずしも利益につながらないことが徐々に明確になってきています。従来型のPlay to Earnは、勢いを失っているといえるでしょう。
NFTは仮想通貨市場でも新しい分野です。このため、投資家のリテラシー向上が追いつかず、それを狙った詐欺が蔓延しています。
Play to Earn界隈では、ジェネシスNFTの買い煽りが多発しています。あたかも必ず儲かるような文言で、NFTのトークンセールに誘導する詐欺が発生している模様です。
ジェネシスNFTは、あるプロジェクトにおいて初期に配布されるNFTを指します。特にPlay to Earnのプロジェクトが発行するジェネシスNFTは、お得な特典が付与されるため人気となっています。
その他には、有名プロジェクトを偽装したり、エアドロップ(仮想通貨による報酬配布)を装ってウォレットからNFTを盗み出したり、初期投資を募ってラグプル(出口詐欺)のような形で資金を持ち逃げしたりと、様々な詐欺が横行しています。
このような詐欺被害も、投資家を遠ざける一因となっていることは間違いないでしょう。
ラグプルは、英語でRug Pullと書きます。日本語では出口詐欺と訳されます。開発チームが資金を集めた後にプロジェクトを放棄したり、資金を持ち逃げしたりする行為です。仮想通貨市場では、Play to EarnやDeFi(分散型金融)、NFTなどの分野で度々発生しています。
以上の通り、短期的にはバブルが崩壊した格好ですが、長期的には成長を続ける可能性があります。
NFTの取引量は急落しましたが、バブル前の2021年7月時点よりも高い水準にあります。2021年以前、NFT市場はほぼ無いに等しかったので、成長率自体は大幅なプラスです。
加えて、バブル期に過大評価されたNFTプロジェクトが乱立しています。バブルの崩壊は、プロジェクトを淘汰して正常化するために必要なプロセスだとの見方もあります。今後、仮想通貨(暗号資産)市場が再び盛り上がりを見せるタイミングで、NFT市場も更に良い形で再浮上する可能性もあります。
プラットフォームに関しても、OpenSea一強だった頃と比べると多様化が進んでおり、より市場メカニズムが適切に働くようになっていることも好材料です。
このような観点から、取引量の激減を過度に悲観しなくても良いかもしれません。NFT市場の時価総額は2022年までに350億ドル、2025年までに800億ドル以上に到達すると予想する調査もあります。
仮想通貨(暗号資産)市場では、NFTの新しい利用例が次々と生まれています。これらの利用例が主流となれば、NFT市場の活性化につながると考えられます。
SoulBound Token (SBT)は譲渡不可のNFTです。イーサリアム(ETH)の共同創設者であるヴィタリック・ブテリン氏らが発表したアイディアで、Web3.0時代のデジタルIDとして機能する可能性があります。
Web3.0とは、分権化された次世代のインターネット環境を指します。現代の中央集権型インターネット環境(Web2.0)は、大手IT企業が強い影響力を持っています。その一方、Web3.0では個々のユーザーが重要な役割を担います。
既に大手取引所のBinanceが実用化しており、特定の条件を満たしたユーザーに独自のSoulBound Token「Binance Account Bound Token」(BAB)を発行しています。BABを保有するユーザーは、BNBチェーン上のサービスで様々な特典を得られます。
NFTは現実世界でも利用されています。その利用例がNFTチケットです。その名の通り、イベントやコンサートなどの入場チケットをNFTで発行します。
NFTチケットはウォレットでいつまでも保管できるので、記念として取っておくことも可能です。紙のチケットの半券をコレクションする要領です。加えて、オンラインコミュニティを形成したり、特典を付与したり、ファンとのエンゲージメントを高めることも可能です。
米4大スポーツや欧州サッカー界では、NFTが積極的に活用されており、一部ではNFTチケットが実用化されています。先日開催されたパリ・サンジェルマンのジャパンツアーでも、最高1,000万円のNFTチケットが話題となりました。
NFTの波はファッション業界にも波及しています。世界的なファッションブランドでは、ドルチェ&ガッバーナやルイ・ヴィトンなどがNFTのファッションアイテムを発行しています。
これらのアイテムは、現実の商品と同じように高値で取引されています。メタバースゲーム内でアバターに着用することもできます。
メタバースが一般的に普及すれば、アバターのNFTファッションアイテムが重要な価値を持つようになるかもしれません。
現在、仮想通貨市場でトレンドとなっているのが、RWA(現実資産)のトークン化です。不動産や株式、国債、ゴールドといった現実資産をトークン化し、ブロックチェーン上で取引する動きが注目されています。
RWA(Real World Asset)とは、現実世界に存在する資産全般を指す言葉です。具体的には、不動産や国債、ゴールド、美術品などが挙げられます。仮想通貨市場では、RWAをトークン化して活用するのが、ひとつのトレンドとなっています。
現実資産をトークン化する際に、NFTも活用されています。日本国内でも、Courtyardというポケモンカードなどの収集品(コレクタブル)をNFT化し、取引できるプロジェクトが注目を集めました。
大手コンサルティングファームBoston Consulting Groupが発表したレポートによると、RWA市場は2030年までに16兆ドルに達する可能性があるとしています。今後、RWAの市場規模が拡大することで、NFTの活用場面がさらに増える可能性があります。
NFT市場は2017年頃から存在が確認されています。しかし、それまでの取引量は数万ドルから数十万ドル程度で、投資家の間で取引が本格化したのは2021年からとなっています。従って、しっかりとした市場として機能し始めたのは、ここ3年程度だといえるでしょう。
現在、取引量が低下していることは事実ですが、NFT市場が終わりを迎えたと判断するのは時期尚早です。課題を抱えていますが新しい利用例も出てきており、今後もNFT市場の動向には注目です。
作成日
:2022.10.04
最終更新
:2023.11.01
米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。
大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。
金融ライターとして独立後は、暗号資産およびブロックチェーン、フィンテック、株式市場などに関する記事を中心に毎年500本以上執筆。
投資のヒントになり得る国内外の最新動向をお届けします。
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