作成日
:2020.05.06
2022.01.13 13:33
欧州証券市場監督局【以下、ESMAと称す】と欧州銀行監督機構(EBA)及び欧州保険年金監督機構(EIOPA)の3つの欧州監督当局【以下、ESAと称す】は、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大により、証拠金規制(UMR)における当初証拠金授受の2つのフェーズの実施期限が1年延期されたことを受け、欧州市場インフラ規則【以下、EMIRと称す】に基づく中央清算機関【以下、CCPと称す】で清算されない店頭デリバティブ取引のリスク軽減基準に関する委任規則(Delegated Regulation)の修正を目的とした規制技術基準【以下、RTSと称す】の共同草案を公表した。
バーゼル銀行監督委員会(Basel Committee on Banking Supervision)【以下、BCBSと称す】及び証券監督者国際機構(International Organization of Securities Commissions)【以下、IOSCOと称す】は4月3日、新型コロナウイルスの感染拡大による影響に鑑み、実務対応に適切な猶予をもたらすべく、当初証拠金授受の最終フェーズとその1つ前のフェーズの実施期限を1年延期する決定を下していた。具体的には、想定元本が500億ユーロ以上及び80億ユーロ以上の中央清算されない店頭デリバティブ取引に係る当初証拠金規制の実施時期を、それぞれ2021年9月、2022年9月1日以降に延期した。ESAはBCBS及びIOSCOの決定を受け、同規制を適切に実施すべく、RTS草案を修正し、国際的に協調したアプローチを推進していく意向だ。
ESAはEMIRに基づいたRTSを策定しており、2019年12月5日にCCPで清算されない店頭デリバティブ取引に関連した最初のRTS草案を公表していた。同草案の中には現物決済を伴う外為フォワードやスワップ、グループ内取引、株式オプション取引、当初証拠金規制の実施に関する内容が含まれている。一方で新型コロナウイルスの感染拡大を受け、最終報告書及びRTS草案は、BCBSとIOSCOによる決定を反映する形でアップデートされたとのことだ。
ESAは、欧州連合(European Union)【以下、EUと称す】に加盟する全ての国が法的義務を負うことになる欧州委員会委任規則(Commission Delegated Regulation)としての承認を得るべく、修正版のRTS草案を欧州委員会(European Commission, EC)に提出した。承認され次第、欧州議会及び欧州理事会による手続きを経る流れとなる。ESAは欧州の各国規制当局【以下、NCAsと称す】や他の市場を管轄する規制当局と協調し、新型コロナウイルス危機下において必要とされる適切な規制策を講じる方針だ。
release date 2020.05.06
EUでは2008年のリーマンショックに端を発した世界的な金融危機を教訓として、2011年にESAが始動し、ミクロ・マクロ双方の観点から金融システムの安定化を目指す欧州金融監督制度(ESFS)が整備された。ESAは欧州27か国を対象にした汎欧州の金融規制を司る規制当局として、欧州全域で調和のとれた統一的な規制策を導入すべく、NCAsと積極的に協調したアプローチ手法を用いている。今回の店頭デリバティブの証拠金規制関連以外にも、ESAはAML及びCFTのガイドラインを公表し、欧州初となるAMLとCFT専門の監督カレッジの創設を目指している状況だ。尚、2020年1月31日にEUを離脱した英国は、移行期間に当たる同年12月31日まではEU法が引き続き適用される。ESMAが22年までの戦略プランを公表した際には、ブレグジット後の経済を見据えつつ、英国を拠点とする第三国CCPやクリティカルベンチマーク、取引情報蓄積機関(TR)などを重点監督領域としている。また、ESMAはASICと覚書を締結するなど、グローバル規制当局と協調したベンチマークの活用を推進している。今後も健全な金融市場の形成に向け、ESA及びNCAsが連携して効果的な規制策を導入することを期待したい。
作成日
:2020.05.06
最終更新
:2022.01.13
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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