作成日
:2020.06.22
2021.08.31 15:32
国際決済銀行(Bank for International Settlements)【以下、BISと称す】が事務局を務めるグローバル金融システム委員会(Committee on the Global Financial System)【以下、CGFSと称す】は6月18日、「US dollar funding: an international perspective(ドルファンディング:国際的な視点)」と題したレポート内で、市場の構造が劇的に変化する中にあっても、依然として米ドルが主要な国際資金調達通貨としての地位を占めていることを明らかにした。
米ドルの資金調達はグローバル経済規模との対比でみると、10年前のピークを下回っているものの、国際資金調達市場における市場シェアでは依然として主要な役割を担っているという。米ドルの資金調達は欧州市場で減少する一方で、新興国を含む他の市場で増加しているとのことだ。また、債券やミディアムタームノート(Medium Term Note, MTN)、マネーマーケット商品などの市場性金融商品が、過去5年において名目ベースの米ドル資金調達増加額の4分の3を占め、銀行以外の企業が米ドル調達主体として重要な役割を担い始めている模様である。米ドル建ての取引拡大は市場参加者に多くのメリットをもたらす一方で、構造変化によって市場の複雑性が増し、各国市場が繋がりを強める中では、金融危機が世界中に伝搬・増幅する可能性もあるため、グローバル金融システムの脆弱性にも繋がり得るという。
CGFSの委員長兼オーストラリア準備銀行(Reserve Bank of Australia, RBA)の総裁を務めるPhilip Lowe氏によると、米ドルを基軸通貨とするグローバル資金調達市場からメリットを享受するため、我々は強固な金融仲介機能を構築しなければならないとのことだ。また、グローバル金融危機後にBISは銀行と協働して市場の発展に努めてきたが、ノンバンクによる取引の透明性は十分ではないと指摘している。
同レポート内では、その他にも公的セクターによる効率的なデータ収集やノンバンクを対象にした規制強化、強固なセーフティネットの構築により、米ドルの資金調達に関連したリスクの軽減やモニタリングシステムの向上に繋がり得るという。また、BISは新型コロナウイルス(COVID-19)危機が米ドルの資金調達に大きな影響を及ぼしている中、市場のボラティリティが拡大すると共に、流動性リスクも高まり、金融仲介に関する様々な課題も生じていると指摘している。
尚、BISは年次報告書でFacebookのリブラについて言及したほか、BISは店頭デリバティブ統計を公表するなど、金融市場の多岐にわたる分野で積極的な情報提供を行っている。そして今回、同行は米ドル資金調達に関連したレポートを公表したが、足元の新型コロナ禍において、米ドルが優位性を保つグローバル資金調達市場に如何なる変化が起きるのか、今後もその動向を見守っていきたい。
release date 2020.06.22
米ドルはグローバル各国市場で流通し、国際貿易や資本取引の際に決済通貨として利用されるほか、各国通貨の価値基準としての機能も果たす現在の基軸通貨だ。新型コロナウイルスが猛威を振るい、実体経済や金融市場が混乱をきたした3月には、期末決算や支払いを控えた世界中の企業が基軸通貨である同通貨の確保を急いだことを受け、米ドルの調達コストが跳ね上がり、日本においても同コストがリーマンショック以来の高水準に達した。主要中央銀行は米ドルの需給不均衡が生じている金融市場の安定化を図るべく、協調して米ドル資金供給の拡充に乗り出したほか、韓国はFX流動性供給問題への追加対応措置を講じる方針を明らかにしていた。新型コロナ禍においては、世界中の企業が有事のドル買いに動き、米ドルの基軸通貨としての地位が維持された格好だ。他方で、世界最大のヘッジファンド会社であるブリッジウォーター・アソシエイツ(Bridgewater Associates)の創業者レイ・ダリオ(Ray Dalio)氏は、オランダ、英国に続き米国と準備通貨としての米ドルの覇権は終焉し、中国が台頭するシナリオを描いている。ポストコロナの時代においては、激しく対立する米中の覇権争いや各国が主導するデジタル通貨の開発競争などに市場の注目が集まりそうだ。
作成日
:2020.06.22
最終更新
:2021.08.31
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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