作成日
:2019.07.02
2021.08.31 15:26
国際決済銀行(Bank for International Settlements)【以下、BISと称す】は、先日公開した年次報告書の中で、Facebook, Inc.(本社:1 Hacker Way, Menlo Park, California 94025
)【以下、Facebookと称す】が開発を進める仮想通貨のリブラ(Libra)やその他大手テクノロジー企業が手がける金融サービスがグローバル市場で急速に普及する可能性があると言及した。今年6月、リブラに関するホワイトペーパーが公開されて以来、Facebook(フェイスブック)は規制当局や政府関係者から様々な批判を受けており、同プロジェクトの調査を目的に米国議会はリブラに対する公聴会を開催するという。先進国の米国でさえ、ICチップなどを利用した手軽な決済システムの整備が遅れている世界の現状を考慮すると、リブラのような迅速かつ効率的なソリューションの需要が高まっていることは必然的だと言えるが、それ以上に各国政府はその影響力の強さを警戒しているようだ。これに対してBISのゼネラルマネージャーであるAgustin Carstens氏は、リブラが普及する前に各国が独自仮想通貨の開発を真剣に検討しなければならないとの見解を示した。
Carstens氏は、その詳細について以下のようにコメントしている。
仮想通貨市場の拡大は我々が考えるよりも早く、各国政府は自前の仮想通貨を立ち上げる必要に迫られるかもしれません。多くの中央銀行は既にこの問題に着手しており、我々も支援を行なっております。中央銀行は仮想通貨の需要が存在することの確証を求めているが、まだ明確にそれがあるとは言い切れないでしょう。既に銀行やフィンテック企業が提供するウォレットが利用可能となっているが、その実質的な利用は決済システムの普及度合いに依存しています。
Agustin Carstens, General Manager of BIS - Bloombergより引用
既にスウェーデンのe-Krona、シンガポールのProject Udin、デンマークのe-Kroneなど、一部の国では独自仮想通貨プロジェクトが推進されているものの、中にはエストニアのEstcoin(エストコイン)のように欧州中央銀行の圧力で阻止されたプロジェクトも存在する。これに対してCarstens氏およびBISは、仮想通貨を取り巻く環境の整備が必要なことを指摘し、各国政府にある種の構造改革に取り組むことを求めているようだ。
最終的にこのような政府主導の仮想通貨プロジェクトが成功しなくとも、政策次第ではリブラの普及を防ぐことができるが、それ以前にFacebookは数百から数千に上る世界各国のライセンスを取得しなければならない。ベンチャーキャピタルのAnthemisの創設者兼CIO(Chief Investment Officer)であるSean Park氏は、Facebookが自由にリブラを普及させることはできないと可能性を否定しているが、同社はどのような対応を見せるのか、今後の展開にも注目していきたい。
release date 2019.07.02
仮想通貨に熱心な欧州諸国や一部の都市では、公的な仮想通貨の開発プロジェクトが推し進められており、ブロックチェーンおよび仮想通貨関連企業がその試みに協力する動きを見せている。最近では、人気仮想通貨であるエイダコイン(ADA)の開発チームが、エチオピア政府と同国初となる国営仮想通貨の立ち上げを目的に契約を結び、首都アディスアベバで利用可能な仮想通貨の誕生が現実味を帯びてきているという。また、地方自治体レベルでは、韓国の慶尚北道(地方の名称)が9つの市町村で利用できる慶北コインの発行を計画、加えて日本の岡山県西粟倉村と長崎県平戸市も仮想通貨関連企業の協力を背景にICO(イニシャルコインオファリング)の実施を宣言している状況だ。過去には、ベネズエラのペトロ(Petro)やエストニアのエストコインなど、計画が頓挫した国営仮想通貨も存在するが、政府主導の仮想通貨プロジェクトは各地で着実に芽を出しつつあるようだ。
作成日
:2019.07.02
最終更新
:2021.08.31
米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。
大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。
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