作成日
:2019.01.10
2022.01.27 15:35
欧州証券市場監督局(The European Securities and Markets Authority)【以下、ESMAと称す】は1月9日、仮想通貨の新規公開プロセスであるICO(イニシャルコインオファリング)及び仮想通貨に関する報告書を公表した。
報告書では、ESMAが各国の規制当局(National Competent Authorities)【以下、NCAsと称す】と協働する形で行った調査に基づく見解が述べられており、仮想通貨の様々なビジネスモデル分析や、仮想通貨に対し現行の規制枠組みを如何に適用していくかの判断が示されている。ESMAはこの度の報告書で仮想通貨を2つのカテゴリーに分類しており、1つ目はMiFID(金融商品市場指令)規制枠組みのもと管理・監督がなされ、金融商品に該当し得る仮想通貨となっている。ただし、これらの仮想通貨も、引き続き解釈の仕方を見直したり、特別な規制措置を講ずる必要があるか否か再検討する余地があるとしている。ESMAとNCAsがこれまでに実施してきた調査によると、NCAsでは概ね、利益を得ることを目的にトレーディングを行う仮想通貨の一部は、投資信託などの譲渡可能証券のようにMiFID規制下の金融商品に該当するであろうとの見方をしている模様だ。
続けて仮想通貨の2つ目のカテゴリーとして、金融商品と見なされないデジタル資産が挙げられている。ESMAでは、これらのデジタル資産に関しては、投資家保護の観点から、少なくともアンチマネーロンダリングの法規制を課す必要があるとの見解を示している。なお、これまでの分析・調査に基づく仮想通貨規制における問題点や課題を踏まえ、ESMAではEU(欧州連合)域内の投資家を十分に保護するために、各国レベルでそれぞれが規制を行うのではなく、欧州全域での規制を行うべきであると主張している。
仮想通貨規制に関し、ESMAの局長を務めるSteven Maijoor氏は、以下のようにコメントしている。
NCAsと協働で行ってきた調査では、複数の仮想通貨がMiFID規制下の金融商品に該当し、EUの金融規制が全面適用できるであろうという判断に至りました。しかしながら、現行の規制枠組みは、仮想通貨を規制することを想定したものではないため、NCAsでは現行の規制策をいかに仮想通貨へ適用させるか、また仮想通貨の特性からいかなる規制が適用されないか否か判断に窮しているのも事実であります。そして、いくつかの仮想通貨に関しては、現行の金融規制枠組みから外れていることから、十分な投資家保護策が整備されていない中、仮想通貨へ投資することは非常にリスクが高いと認識しております。
Steven Maijoor, the Chair of ESMA - ESMAより引用
またESMAでは、ICOに関しても、適切な投資家保護策が機能する限りにおいては、有益性を確保できると見ている。更に、全ての仮想通貨及び仮想通貨関連事業は、FXやCFDのリスク警告に似たような形で、適切にリスク開示を行うよう求めている。投資家が実際に仮想通貨へ資金を注ぎ込む前にリスク警告を適切に行うことは、仮想通貨投資が抱えるリスクを認識する一定の効果が望めると見ているようだ。
加えてESMAは、仮想通貨が金融市場に非常に多くの問題・課題をもたらすものの、市場としての歴史が浅く、市場規模もさほど大きなものではないため、現状においては、金融システム不安をもたらすことはないと認識している。ただし、投資家にリスクをもたらすことには変わりなく、場合によっては、ESMAが2018年より導入及び再延長しているバイナリーオプション取引禁止措置やCFDレバレッジ規制などのように、仮想通貨を厳格に規制する可能性は残ろう。なお、ESMAでは、仮想通貨が投資家に及ぼす可能性のある甚大なリスクとして、詐欺とサイバー攻撃、マネーロンダリング、市場操作を挙げている。
仮想通貨市場においては、2019年に入って、コインベースがイーサリアムクラシックへの51%攻撃でサービスを停止していることからも、仮想通貨が依然犯罪の格好の標的となっていると読み取れる。一方、仮想通貨への理解を促すべくニューヨーク州が仮想通貨タスクフォースを発足させ、当局がその動向を注視してもいる。仮想通貨を取り巻く環境は目まぐるしく変化しており、投資家保護の機運が更に高まれば、この度のESMAによる欧州全域への規制だけでなく、世界的に仮想通貨規制を強化する荒波が訪れるかもしれない。
release date 2019.01.10
昨今、仮想通貨取引所においては、詐欺的なトラブルや、顧客から預かった仮想通貨が流出するなどのハッキング事件が相次いで報告されている。仮想通貨規制については各機関で検討されているが、G20サミットでも度々取り上げられており、昨年末にはG20が仮想通貨規制に関する声明を発表している。具体的には、国際基準に基づく金融システムは重要であるとの見解のもと、金融活動作業部会(Financial Action Task Force on Money Laundering)に従い仮想通貨を規制するとともに、資金洗浄やテロ資金供与の防止、また投資家を保護する規制強化が必要としている。2019年は日本でG20の開催が予定されているが、この度のESMAによる欧州全域への規制の方針を受け、一層の規制強化は避けられないだろう。世界経済を激動させる可能性も高い仮想通貨だけに、今後も規制に関する見解や決定に注目していきたい。
作成日
:2019.01.10
最終更新
:2022.01.27
米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。
大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。
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