作成日
:2018.10.09
2022.01.27 17:39
キプロス証券取引委員会(The Cyprus Securities and Exchange Commission)【以下、CySECと称す】は、CySEC所管で、取引にレバレッジを採用する海外FXブローカーに対し、マーケットメイカー・ライセンスへのアップグレードを求める申請期限を、当初の9月14日から10月末までに延長したことを明らかとした。マーケットメイカーとは、売呼値・買呼値を提示するもしくは流動性供給を行う業者のことをいう。
昨年9月に、CySECはゼロカット規定をブローカーへ各口座毎に適用することを求めており、これはブローカーの十分な資本増強と適格なライセンス取得という流れにつなげようとしていることが目的だと考えられる。CySECが導入した規制により、各ブローカーは資本増強を求めるマーケットメイカー・ライセンスへのアップグレードを行うか、顧客の口座ごとにゼロカット規定を設ける必要がある。規制の導入後、ライセンスのアップグレードを検討するブローカーが多く見受けられたものの、ブローカーは手続きに時間を費やすほか、追加の資本増強を要するため、期限内の申請書提出が間に合わないブローカーが多数見られた。そのためCySECはこの度申請期限の延長を決定したようだ。
一方、主要プライムブローカーの中には、顧客口座にゼロカット規定を設けるところが出てきている。ゼロカット規定を設ける際には、リスク管理をより効果的なものにするために各顧客の口座をモニタリングできるようにするとともに、企業努力によりブローカーが顧客のマイナス分をカバーすることになるため、ある程度の顧客数と出来高の規模を要し、ブローカーのバックエンドにアクセス可能なAPIを利用する必要があろう。
英国の動向を探ると、英国金融行動監視機構(The UK Financial Conduct Authority)【以下、FCAと称す】は、投資家保護の観点からブローカーの取り組み状況を注視している。依然正式な規制要件とはなっていないものの、ここ数カ月にわたり、ブローカー各社にマーケットメイカー・ライセンスへのアップグレードを推奨しているのが現状だ。そして実際に、英国を拠点とする複数のブローカーが、IFPRU 730Kライセンスにアップグレードを行い、マーケットメイク業務を営んでいる。
なお、このIFPRU 730Kライセンスを取得する英国拠点の企業は、730,000ユーロ(850,000ドル)の自己資金を要し、欧州証券市場監督局(The European Securities and Markets Authority, ESMA)が主導する第2次金融商品市場指令(Markets in Financial Instruments Directive, Mifid Ⅱ)とFCAの規制を遵守した経営を行うこととなるため、顧客保護の観点からは高品質のサービスを期待することができそうだ。一方で、強固な資本基盤を求められる現在の環境下では、マーケットメイク業務は資本集約型ビジネスといえる。そのため、リスク管理を怠るブローカーがマーケットメイク業務を営むことは、多額の資本を要することから、まさにブローカー自身が高いリスクを内包しているといえよう。
release date 2018.10.9
CySECやFCA、ESMAといった欧州当局により矢継ぎ早に放たれる規制策を受け、米国最大のFXブローカーでForex.comを運営するGAINの業績が低迷を続けているように、一部のブローカーでは業績への影響が色濃く出始めている。また、利益・損失発生口座割合に関するデータの開示など、ブローカー各社にとって、少なくとも規制策への対応に追われているのが現状だ。そうはいっても、ブローカー各社もただ手をこまねていているだけではなく、新たな顧客獲得戦略を積極的に実行に移してもいる。例えば、EuropeFXがヘルタ・ベルリンとパートナーシップ契約を結んだように、マーケティング戦略にスポットを当てグローバルに顧客基盤の拡大を図るブローカーもあれば、CMCのように、プロ向けサービスとなるCMC Proと名付けたプロトレーダーの階層を設け、引き続きハイレバレッジな高付加価値サービスを提供することで収益の拡大を図るブローカーもいる。欧州全域で規制が強化される環境下で、顧客もオフショアブローカーへシフトしている兆しも見受けられることから、危機感を抱いたブローカー各社から、今後も顧客サービスの向上に主眼を当てた革新的な顧客獲得戦略が打ち出されることが期待される。
作成日
:2018.10.09
最終更新
:2022.01.27
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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