作成日
:2023.05.22
2024.06.14 16:07
2023年2月、金融庁はトラベルルールに関する方針を公開しました。2023年6月1日に施行開始され、取引所からの送金が制限されるため仮想通貨コミュニティから不満が出ています。
メタマスクやグローバル展開する海外取引所を経由させれば、自由に送金できるものの、ユーザーに取っては煩わしいルールでしょう。また、グローバル展開する取引所の経由については、国内取引所ごとに異なる可能性があり不明確な状況です。
当記事では、トラベルルールを解説した上で、その影響の回避策などを解説します。
トラベルルールとは、取引所の顧客が仮想通貨を送金する際、送金元の取引所が送金先の取引所に一定の情報を通知するというルールです。
このルールは、FATF(金融活動作業部会)が定める国際基準です。マネーロンダリングやテロ資金対策を目的としており、日本もこの基準に準拠して法整備を進めています。
FATFは、国際基準の規制を推進する国際組織です。米国や欧州各国など、合計39の国と地域で構成されています。各国の規制を相互審査し、基準に則しているかを判断します。
FATFの基準を受けて、金融庁は関連法制の改正案を公表しました。
これを受けて、国内各取引所は特定の取引所に仮想通貨を送金する際に、一定の情報を送金先の取引所に通知します。それ以外の場合は送金先への通知義務はありませんが、マネーロンダリングなどのリスクを評価するために情報収集します。
トラベルルールは国際基準であり各国で導入されているものの、全ての取引所が対応しているわけではありません。
海外取引所では、CoinbaseやKrakenなど大手取引所がトラベルルールに対応しています。しかし、オフショア取引所を中心に、トラベルルールに準拠していない海外取引所も多数あります。
オフショア取引所とは、規制が緩い第三国で設立された取引所を指します。各国の規制当局の許可を得ずにグローバルに事業を展開できること、厳しい規制に縛られないこと、有利な税制を享受できることがメリットです。
日本国内では、日本暗号資産取引業協会(JVCEA)が中心となって、トラベルルールの導入が進められています。
日本暗号資産取引業協会は、金融庁が承認した自主規制団体です。日本国内で仮想通貨取引業のライセンスを取得するには、協会に加盟すると同時に、定められた規則に従う必要があります。
取引所は、トラベルルールに対応するために情報通知システムを導入しています。
通知システムはTrustとSYGNAが2大勢力となっており、国内取引所はいずれかのシステムを採用しています。しかし、互換性がなく、トラベルルールに沿った相互間の送金ができません。
このためトラベルルール対応開始以降、取引所グループが二分される事態になっています。
画像引用:coinbase
TRUSTはTravel Rule Universal Solution Technologyの略称で、米コインベースなどによって開発されました。海外取引所が広く採用しており、日本国内でもbitFlyerとCoincheckが導入しています。TRUSTを採用する主な取引所は以下の通りです。
画像引用:Sygna
SYGNAは台湾のCoolBitXが開発しており、多くの国内取引所が採用しています。SYGNAを採用する主な取引所は以下の通りです。
グループ間で相互に送金できないことに対して、仮想通貨コミュニティからは不満が噴出しています。また、オフショア取引所との入出金が可能なのか、あいまいなままになっており、状況によってはさらに不便になる可能性もあります。
トラベルルールが実施されて以降、Twitter(ツイッター)を中心に送金手続きの遅さに対する不満が投稿されています。中には、トラベルルール対象外となる「メタマスクなどの非カストディアルウォレットへの送金でも、丸一日かかった」といった投稿が見られました。
非カストディアルウォレットは取引所のウォレットなどと異なり、特定の管理者の承認なく利用可能です。仮想通貨の保管だけでなく、DeFi(分散型金融)・ブロックチェーンゲーム・NFTマーケットプレイスなどのDApp(分散型アプリ)にアクセスできます。
各取引所は、非カストディアルウォレットへの送金であっても、ウォレットの所有者情報などを収集しています。送金が遅れている明確な理由は不明ですが、こういった事務手続きが遅延の原因になっている可能性があるでしょう。
前述の通り、TRUSTとSYGNAには互換性がないため、相互間の直接送金はできません。しかし、以下のような回避策もあります。
ただし、オフショア取引所を経由できるかどうかの状況は、使う国内取引所によって異なる可能性があります。ここでは6月20日時点に確認できる国内大手取引所の状況を引用しながら記載します。
メタマスクなどの非カストディアルウォレットを経由すれば、トラベルルールの影響を受けずに入出金できます。例えば、TURSTの取引所Aから自分のメタマスクに送金し、そこからSYGNAの取引所Bに送金します。
非カストディアルウォレットの代わりに、Bybitなどのオフショア取引所を使って、仮想通貨を送金できます。
ただし、オフショア取引所に送金できるかどうかは、使う国内取引所によって違いがあるようです。参考として、国内の大手取引所がどのように説明しているかを引用します。なお以下は、6月20日時点で確認できた情報です。
コインチェック(TRUSTを採用)は、2023年5月31日からトラベルルール対応を開始しました。
トラベルルール対応開始日以降は、
・日本と通知対象国の暗号資産交換業者が提供するサービスのうち、「TRUST」を導入しているサービス
・通知対象国以外の暗号資産交換業者や、プライベートウォレット(例:Metamaskなど)に送金が可能です。
上記の「通知対象国」について、コインチェックは以下のように説明しています。
アメリカ合衆国、 アルバニア、 イスラエル、 カナダ、 ケイマン諸島、 ジブラルタル、 シンガポール、スイス、 セルビア、 大韓民国、 ドイツ、 バハマ、 バミューダ諸島、 フィリピン、 ベネズエラ、 香港、マレーシア、 モーリシャス、 リヒテンシュタイン、 ルクセンブルク
上記のような説明がされておりますが、所在地が分かりづらいオフショア取引所も存在しており、この点もユーザーの不安感や不明確さにつながっていると考えられます。
そこで5月26日、コインチェックは公式ページで以下の表を公開し、具体的にどの海外取引所に送れる予定かを示しています。
画像引用:コインチェック
コインチェックは、通知対象国以外の交換業者へは送金可能と説明しています。
BybitやBinanceはその「通知対象国以外の交換業者」に含まれておりますので、コインチェックから出金ができると考えられます。また逆に、BybitやBinanceからコインチェックに送金することも可能だといえるでしょう。
次に、bitFlyer(TRUSTを採用)の説明を紹介します。
bitFlyerによる説明は以下のとおりです。なおbitFlyerは、2023年5月30日(火)15:00頃をトラベルルール対応開始時としており、既に対応が開始されています。
画像引用:bitFlyer
なお VASPとは、暗号資産交換業者のことです。
画像引用:bitFlyer
上記の通知対象国以外の地域にある海外取引所へは、bitFlyerから送金できることになります。
続いて、bitbank(SYGNAを採用)の説明を見てみましょう。
Q.海外の取引所へ送金できなくなるの?
法改正後は、一部の海外取引所に暗号資産の直接送金ができなくなります。
それら取引所が判明しましたら順次、以下のFAQに追記いたします。
トラベルルールについてのよくあるご質問 - より引用
該当する取引所に対しては、2023年6月9日以降、暗号資産の直接送付ができなくなると説明されております。当記事現在(2023年6月20日)、bitbankから直接送金できない取引所としては、国内取引所のみが挙げられています。
・株式会社bitFlyer
・コインチェック株式会社
・株式会社Crypto Garage
暗号資産の直接送付ができない暗号資産交換業者 - より引用
しかし、bitbankでは直接送金ができない取引所として、以下の条件を示しています。
通知を行う際、下記理由により一部の暗号資産交換業者には暗号資産を直接送付することができなくなります。
・ビットバンクとは異なる通知システムを採用している場合
・法令等で定められた通知を正確に行えない可能性がある場合
暗号資産の直接送付ができない暗号資産交換業者 - より引用
つまり、異なる通知システム(TRUST)を採用する海外取引所への送金は不可能と考えられます。しかし、リストには国内取引所しか記載されていません。オフショア取引所を含め、bitbankから直接送金ができる・できない海外取引所は現在のところ不明確です。
すでにトラベルルールの対応は開始されているため、早急なリストの追加が期待されています。
最後に、GMOコインの(SYGNAを採用)説明を記載します。GMOコインは、2023年5月31日からトラベルール対応を開始するし、それ以降は以下の1~3の宛先への送付が可能としています。
1. Sygna Hub(またはSygna Bridge)を利用する以下の国内暗号資産交換業者
(中略)
2. 金融庁が指定する国・地域に属しない外国暗号資産交換業者
金融庁が指定する国・地域は以下のウェブサイトをご参照ください。
https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20230203-2/04.pdf
3. Metamaskなどのプライベートウォレット
※上記の内容は2023年5月25日時点の情報で、今後変更の可能性があります。
トラベルルール対応についてのお知らせ - より引用
上記の発表後の5月26日、GMOコインは補足情報を公開しております。その情報の中には、海外の取引所に関する情報もあります。
具体的には、トラベルルール対応後、以下の取引所にも送金ができないことが明示されています。
3.金融庁が指定する以下の20の国・地域に所在する外国暗号資産交換業者
・アメリカ合衆国
・アルバニア
・イスラエル
・カナダ
・ケイマン諸島
・ジブラルタル
・シンガポール
・スイス
・セルビア
・大韓民国
・ドイツ
・バハマ
・バミューダ諸島
・フィリピン
・ベネズエラ
・香港
・マレーシア
・モーリシャス
・リヒテンシュタイン
・ルクセンブルク
トラベルルールについてよくあるご質問 - より引用
ここまでの情報をふまえると、海外取引所への送金ルールについて、現状はまだ不明確な部分も残されております。そのため、各取引所の公式発表を待つべきでしょう。ただし、いずれの取引所もメタマスクなどの個人ウォレットへは送金可能、との見通しです。
トラベルルールの規制が強すぎると、仮想通貨市場に悪影響を及ぼす可能性があります。
日本暗号資産取引業協会は、アンホステッド・ウォレットへの送金に関して情報通知義務はないとしています。ただし、各種リスクを評価するために情報収集します。
アンホステッド・ウォレットとは、非カストディアル・ウォレットのほか、無登録業者のウォレット、トラベルルールに準拠していない国の取引所のウォレットなど、通知義務の対象とならないウォレットを指します。
つまり、オフショア取引所や非カストディアルウォレットが危険だと判断されれば、送金が制限される可能性があります。基準は明らかではなく、仮想通貨コミュニティの懸念となっています。
これまで日本はDeFi関連サービスを規制してきませんでしたが、リスク評価によっては規制が強化される可能性があります。過去には、米国でトルネードキャッシュが規制された例もあります。
ミキシングサービスは、複数の送金を混ぜ合わせて、仮想通貨の出所を分かりにくくするサービスです。ミキシングサービスを利用すれば、送金する仮想通貨を集約・再分配し、入出金の紐付けを断ちながらの取引が可能です。
仮想通貨は犯罪利用の可能性があるとされ、国際的な規制が議論されてきました。その結果、KYCの導入やオフショア取引所の排除など、世界各国で仮想通貨市場の規制が強まっています。日本でも規制強化が進んでいますが、この流れはどこまで続くでしょうか。
作成日
:2023.05.22
最終更新
:2024.06.14
米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。
大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。
金融ライターとして独立後は、暗号資産およびブロックチェーン、フィンテック、株式市場などに関する記事を中心に毎年500本以上執筆。
投資のヒントになり得る国内外の最新動向をお届けします。
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