作成日
:2022.08.17
2023.03.16 15:30
2022年8月8日、米OFAC(財務省外国資産管理室)が、ミキシングサービスの「トルネードキャッシュ(Tornado Cash)」を制裁対象者リストに加えたことが明らかになりました。
ミキシングサービスは、より高いプライバシー水準を保ちながら仮想通貨(暗号資産)を送金することを可能にするサービスです。ユーザーにとってメリットもありますが、仮想通貨を使った犯罪を取り締まる規制当局にとっては悩みの種となっています。
今回、OFACはトルネードキャッシュを制裁対象とすることに踏み切りましたが、仮想通貨コミュニティではこれに反発する声が上がっています。
トルネードキャッシュは、イーサリアム(ETH)のブロックチェーン上で動作するミキシングサービスです。ミキシングサービスとは、複数の送金を混ぜ合わせて、仮想通貨(暗号資産)の出所を分かりにくくするサービスです。
ビットコイン(BTC)などのパブリックブロックチェーンでは、取引額やウォレットアドレスなどの取引情報が台帳に記録・公開されています。これらの情報だけで個人を特定することは難しいですが、仮想通貨での決済にはプライバシー侵害のリスクがある、と懸念されています。
ミキシングサービスでは、送金する仮想通貨を集約して再分配することで、入出金の紐付けを断ちながらの取引が可能です。例えば、1ETHをミキシングサービスを通じて送金すると、受取側は他のユーザーが送金した同額分のイーサリアムをランダムに受け取ることになります。
トルネードキャッシュは、仮想通貨市場で主要なミキシングサービスとして利用されています。ユーザーはイーサリアムとERC-20のトークン規格を採用する仮想通貨の送金で、ミキシングサービスを利用できます。
OFACは外交政策や安全保障上の観点から、特定の国や地域、個人や企業などに対して、取引禁止や資産凍結などの措置を講じることができる政府機関です。以前からOFACは犯罪に加担した仮想通貨(暗号資産)関連サービスなどに、厳しい姿勢を示してきました。
そして今回、OFACはマネーロンダリングを含む犯罪の温床になっているとして、トルネードキャッシュを制裁対象者リストに加えました。OFACはトルネードキャッシュに関連する38件のイーサリアムアドレスと、6件のUSDコインのアドレスも対象としています。
USDコイン(USDC)は、米国の仮想通貨関連企業Circle社と仮想通貨取引所コインベースが共同開発した、米ドルの価格とペッグ(価格の固定)するステーブルコインです。数あるステーブルコインの中でも、USDCの信頼性は比較的高いといえます。開発元であるCircle社はゴールドマン・サックスによる支援を受けており、ニューヨーク証券取引所への上場を予定しているためです。
トルネードキャッシュには、多数のハッキング事件で利用されてきた経緯があります。最近では、北朝鮮政府を支援するハッキンググループが、トルネードキャッシュをマネーロンダリングに利用していると報告されています。
Harmony(ONE)のクロスチェーンブリッジである「Horizon Bridge」から盗み出された9,600万ドルや、同じくクロスチェーンブリッジの「Nomad」から流出した780万ドルが、そのケースに該当すると見られています。
クロスチェーンブリッジとは、複数のブロックチェーンを繋いで、規格の異なる仮想通貨を利用可能にする技術です。この技術が普及すれば、ブロックチェーンを跨いで仮想通貨をやり取りできます。ブロックチェーンが乱立している現在、クロスチェーンブリッジは仮想通貨市場で重要な存在です。
OFACの決定を受け、各サービスがこの措置に対応する動きを見せています。
USDコインを発行するサークル社は、OFACが規制対象とするウォレットアドレスをブラックリストに追加しました。結果的に少なくとも、7万5,000USDCが凍結されています。サークル社が凍結したアドレスの中には、トルネードキャッシュのプール(資金を預け入れるウォレット)も含まれているので、同サービスから仮想通貨を引き出せなくなった人も存在すると考えられます。
その他、開発者コミュニティGitHubも、トルネードキャッシュの開発に携わる開発者のアカウントを削除しています。トルネードキャッシュに関与すれば、コンプライアンス上のリスクとなるため、今後も多くのサービスが同様の動きに出ると予想されます。
オランダ当局は「調査の結果、トルネードキャッシュは2019年以来、70億ドル相当の仮想通貨を処理しており、その内少なくとも10億ドル相当が犯罪に関与していると分かった」と記述しています。
オランダでは金融犯罪やマネーロンダリングを助長したとして、トルネードキャッシュの開発者が逮捕されたとの情報も出てきています。この人物が誰であるかなどの詳細は公開されていませんが、トルネードキャッシュ開発者のAlexey Pertsev氏の可能性があると報道されています。
この決定に対して、仮想通貨(暗号資産)コミュニティは強く反発しています。仮想通貨市場の未来を左右する出来事だけに、日本国内でも関心が高まっている模様です。
仮想通貨コミュニティでは、抗議活動が展開されています。何者かによって、トルネードキャッシュから著名人に少額のイーサリアム(ETH)が送金されています。
イーサリアム送金の標的とされたのは、以下のような人たちです。
ルール的には、トルネードキャッシュに関与したウォレットアドレスを制裁対象に加えなければならないため、同人は半ば当局への当て付けのような形で無関係な著名人に送金を行ったと考えられます。
ミキシングサービスが犯罪に利用されていることは事実です。しかし、合法的な用途でも利用できます。そのため、トルネードキャッシュの利用を一方的に制限した当局の方針に、批判が集中しています。
例えば、ロシアからの攻撃を受けるウクライナを支援するために、匿名で仮想通貨を送金して寄付することは合点がいく使い道です。身元を明かせば、送金者や受金者が反対勢力から不利益を被る可能性があるので、トルネードキャッシュの利用は有効だといえるでしょう。
イーサリアムの考案者であるヴィタリック・ブテリン氏も、個人のTwitter(ツイッター)アカウントを通じて、ウクライナ支援でトルネードキャッシュを利用したと告白しています。ロシア系であるブテリン氏は、自身の安全よりも受金者の安全を案じてトルネードキャッシュを利用したと説明しています。
I'll out myself as someone who has used TC to donate to this exact cause.
— vitalik.eth (@VitalikButerin) August 9, 2022
シンクタンクのCoin Centerは、当局が人ではなく、技術を禁止することで問題の解決を図ろうとしている姿勢に疑問を投げかけています。
Coin Centerは発表の中で、「制裁を受けているのは特定の悪者でなく、プライバシーを守るために自動化されたツールを使おうと考える全てのアメリカ人です」と言及しています。また、当局の決定が憲法に反する可能性があることを示唆しました。
一方、GitHubのアカウントが停止されたトルネードキャッシュ開発者のRoman Semenov氏は、「オープンソースのコードを書くことは違法になったのですか?」と、皮肉を込めて当局の判断を批判しています。
My @GitHub account was just suspended ?
— Roman Semenov ?️ ?? (@semenov_roman_) August 8, 2022
Is writing an open source code illegal now?
日本国内の仮想通貨界隈でインフルエンサーとして認知されているManabu氏は、トルネードキャッシュを禁止すべきではないとの意見を投稿しています。
Manabu氏は、電子メールというツールがフィッシング詐欺にも使われることを引き合いに、ツール利用の禁止が合理的でないとの議論を展開しています。また、イノベーションを阻害する可能性があることに触れて、開発活動が減退する可能性があるとの懸念を示しました。
トルネードキャッシュは、独自仮想通貨(暗号資産)としてTORNを発行しています。TORNはBinanceやGate.ioなどの海外取引所で取引可能となっています。その時価総額は当記事執筆時点(2022年8月)で、18億円を超えて仮想通貨市場全体の700位程度に位置しています。
2021年、TORN価格は3万円付近から4万円を超える水準にまで高騰して史上最高値を記録しました。そこから、一気に急落して5,000円を下回るところで反発しましたが、2022年半ば頃まで緩やかな下落相場を経験しています。
画像引用:CoinMarketCap
規制当局の発表があった直前まで、TORN価格は3,000円前後を維持していました。しかし、発表を受けて2,000円以下の価格帯にまで急落しました。当記事執筆時点のTORNの価格は、約1,700円です。
仮想通貨(暗号資産)市場には多数のミキシングサービスが存在します。加えて、主要な仮想通貨の中にも、プライバシー機能の開発に注力する「プライバシーコイン」と呼ばれるものもあります。例えば、ジーキャッシュ(ZEC)、モネロ(XMR)、ダッシュ(DASH)などが該当します。
もし、OFACが仮想通貨の匿名性に反対する姿勢を貫けば、トルネードキャッシュや他のミキシングサービスだけでなく、これらのプロジェクトにも影響が波及するかもしれません。仮想通貨コミュニティが反発していますが、この騒動はどのように収束するのでしょうか。
ミキシングサービスの利用やプライバシーコインへの投資を考えているのであれば、OFACの動きを注視する必要があるといえるでしょう。
作成日
:2022.08.17
最終更新
:2023.03.16
米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。
大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。
金融ライターとして独立後は、暗号資産およびブロックチェーン、フィンテック、株式市場などに関する記事を中心に毎年500本以上執筆。
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