作成日
:2022.08.09
2023.03.16 15:30
イーサリアム(ETH)のブロックチェーンが、ハードフォークを経て分裂するかもしれません。2022年9月に大型アップグレードを控え、従来のシステムを維持したい勢力が登場しています。
イーサリアムは、時価総額でビットコイン(BTC)に次ぐ第2位の規模を誇ります。分裂すれば、仮想通貨市場全体に影響が及ぶかもしれません。既に分裂を想定した取引も可能ですので、その様子などを紹介します。
前々からイーサリアムは、現行のPoW(プルーフ・オブ・ワーク)からPoS(プルーフ・オブ・ステーク)への移行を宣言していました。PoSのイーサリアムはETH2.0と呼ばれ、アップグレードはマージ(Merge)と呼ばれます。
マージにより、ETH2.0のテストネットワーク「ビーコンチェーン」とメインブロックチェーンが統合されます。このアップグレードは、開発の遅れにより、スケジュールが後ろ倒しになっていました。しかし、2022年9月に実行されることが決まりました。
イーサリアムは、手数料の高騰や取引の遅延などに苦しめられています。PoSへの移行は、その解決策のひとつです。その送金能力は、現行の1秒あたり約15件に対して、最大10万件にまで向上すると見込まれています。
フォークとは、ブロックチェーンの仕様変更を指します。その中でも、ハードフォークは永続的な分岐が伴うものであり、旧ルールのブロックチェーンと新ルールのブロックチェーンに分かれます。
なお、ハードフォークは、コミュニティの総意で実行される場合と、コミュニティが分裂することで起こる場合があります。総意で実行される場合は、旧ルールのブロックチェーンは誰も使わず、事実上捨てられます。
コミュニティが分裂する場合は、それぞれが独自の開発活動を展開します。過去には、ビットコインやイーサリアムなどでも分裂騒動が幾度となく発生しました。有名なものとしては、ビットコインキャッシュ(BCH)のハッシュ戦争などが挙げられます。
ハッシュ戦争とは、Bitcoin ABCとBitcoin SVの2つの陣営が対立して、2018年に起きたビットコインキャッシュの分裂騒動です。マイニング事業者やインフルエンサー、開発者などが両陣営に分かれて、ティッカーシンボルやブランドの継承権が争われ、最終的に和解しています。
ブロックチェーンが分裂すると、仮想通貨やエコシステム、コミュニティが別々のものになります。今回、イーサリアムもPoSの採用を機に、PoWの維持を望む勢力との分裂騒動に発展するリスクにさらされています。
実際には、イーサリアムのETH2.0移行が主流です。しかし、マイニング事業者は、これまでマイニング機器に大金を投じており、一部事業者は現行システムの継続を希望している模様です。このような背景から、著名な中国のマイナーであるチャンドラー・グオ氏が、分裂させようとしています。
しかし、マイニング事業者は、ETHのマイニング機器を転用して、イーサリアムクラシック(ETC)などでマイニングが可能です。従って、マイニング事業者の協力が得られず、グオ氏の試みは失敗するかもしれません。
あくまでも現段階では、イーサリアムの分裂は可能性としての話になっています。
グオ氏の試みに対して、大手取引所のポロニエックスが協力的な姿勢を見せています。
具体的には、分裂を前提に、「ETHW」と「ETHS」のティッカーシンボルで新しい仮想通貨を上場させました。ETHWはPoWベースのイーサリアム、ETHSはPoSベースのイーサリアムを示します。
ポロニエックスでは、2022年8月8日からマージが完了するまで、既存のETHとETHWおよびETHSを等価で交換することが可能です。加えて、ETHWとETHSの板取引も開始しています。
なお、ETHWとETHSは、IOUトークンとして上場しています。IOUトークンは、現物の仮想通貨ではないので、それ自体に価値はありません。しかし、後々、現物の仮想通貨と交換することができます。
ETHWは、イーサリアムのハードフォーク後に取引可能になる仮想通貨です。ただし、ETHWが取引可能になるには、マージが成功し、かつ、PoWベースのブロックチェーンが存続する場合という条件があります。また、PoSベースの仮想通貨ETHSとは異なる、別の仮想通貨です。
正式な発行が決定すれば、ポロニエックス以外の取引所でも売買可能になる見込みです。ETHWを支持する「EthereumPoW」と呼ばれるコミュニティが立ち上げられており、パートナーも集まりつつある模様です。
マージ実行前のETHWとETHSの価格は、合計でETHと1対1の比率になるように設定されています。当記事執筆時点(2022年9月)で、イーサリアム価格は220,000円弱、そしてETHWは6,000円程度となっています。すなわち、ETHSは214,000円程度となっています。チャートを見ますと、直近のETHW価格はレンジで推移しつつも、全体としては徐々に下落している様子が分かります。すなわち、一般ユーザーの支持は広がっていないことが分かります。
画像引用:CoinMarketCap
画像引用:CoinMarketCap
ポロニエックスでは、マージが完了するとEHTSが新しいETHと自動的に交換される予定です。また、ETHWも上場を継続する見込みです。
エアドロップとは、仮想通貨の無料配布を指します。新しい仮想通貨が発行された際の初期配布や、プロモーション目的などで実施されます。
ETHWについては、ETH保有者にエアドロップされます。ただし、マージによるハードフォークが完了する前に、ETHW対応のウォレットにETHを保有していることが条件となります。
また、ETHWに対応する取引所であれば、取引所のウォレット内のETHを対象に、ETHWがエアドロップされる見通しです。詳しくは、各取引所の対応を確認しましょう。
なお、以下のETHなどは、エアドロップの対象にならない可能性がありますので、注意が必要です。例えば、DeFi(分散型金融)関連サービスに預け入れられているETH、互換性を持つラップド・イーサリアム、イーサリアムメインネット以外で保有されるETHなどです。
当記事執筆時点(2022年9月)で、日本国内ではFTX Japanが、ETHWが発行された場合にエアドロップを行う方針を示しています。その他の国内取引所は、ハードフォークの状況や新規仮想通貨上場の申請の可否を見て検討するとしています。
海外取引所では、ポロニエックスの他に、BinanceやMEXC Global、Gate.ioなどの取引所がETHWをサポートし、エアドロップへの対応を表明しています。
これらの取引所は、ETHWの上場も視野に入れています。上場されれば、売買も可能になると予想されています。
ETHWは、イーサリアムからのハードフォークで誕生する仮想通貨です。しかし、それだけで長期的な価値が生まれるわけではありません。
ETHWは、PoWのブロックチェーンを基礎にしています。つまり、十分な数のマイナーを確保する必要があります。また、マイナーは、利益を上げられなければ撤退してしまいます。そこで、収益を上げられる環境を整えなければなりません。
PoWのイーサリアムはディフィカルティボムの発動を控えており、まずはそれを解除してマイニング事業者が活動できるようにすることが絶対条件です。その上で、仮想通貨価格が上昇するような施策を考慮する必要があります。
ディフィカルティボムとは、イーサリアムブロックチェーンのマイニング難易度を意図的に大幅上昇させるプログラムです。これが実行されるとマイニング難易度が徐々に高まり、ネットワークに参加するマイナーの収益を圧迫します。
なお、イーサリアムは、DApp(分散型アプリ)プラットフォームとして機能しています。それぞれのDAppが、分裂後のブロックチェーンに対応するかどうかは不明です。
仮想通貨デリバティブなどの取引サービスを提供するBitMEXは、ETHWに一定の評価を与えつつも、新しいクライアントソフトが必要なことや、DeFi(分散型金融)関連サービスを構築するための環境が整っていないことを指摘しています。
その他、Chainlinkのコミュニティアンバサダー「ChainLinkGod.eth」氏は、「全てのオフチェーンの関係が崩れて評価が下落し、完全に使えないエコシステムになってしまいます」とコメントしています。
加えて、中心的な役割を担っているグオ氏が、過去にビットコインゴッド(GOD)と呼ばれるほぼ無価値のハードフォークコインに関与していたことから、懐疑的な見方をする投資家もいます。下のチャートは、ビットコインゴッドの価格推移です。
画像引用:CoinMarketCap
イーサリアムは、仮想通貨市場で屈指の規模のコミュニティを誇り、開発活動も活発です。ビットコイン(BTC)の座を脅かす存在と考えられています。また、イーサリアムの将来性に関して、以下のような前向きな動きがあります。
長年、イーサリアムはスケーラビリティ問題に悩まされてきました。トランザクションの増加に対応できず、高すぎる手数料や長すぎるブロック承認時間が問題でした。このため、イーサリアムキラーの台頭を許してきました。
イーサリアムキラーとは、将来的にイーサリアムに取って代わる可能性がある仮想通貨を指します。その特徴として、スケーラビリティ問題をある程度解決しており、また、新しい技術を取り入れていることが挙げられます。
イーサリアムは、マージによるアップグレードを経て、スケーラビリティ問題の改善が期待されています。利用しやすい環境が整えば、一般ユーザーだけでなく、開発者や企業などの利用も増えていき、イーサリアムのエコシステムはさらに拡大していくでしょう。
近年、米国では仮想通貨ETF(上場投資信託)誕生の機運が高まりつつあります。
ETFは、日本語で上場投資信託と呼ばれます。その名の通り、投資信託のように投資でき、そして、上場株式のように売買できます。一般的に信託報酬が安いのも特徴で、投資信託と現物株投資のいいとこ取りのような商品になっています。
大手資産運用会社が、ビットコインETFやイーサリアムETFの上場を目指しています。これらのETFの誕生は、時間の問題だと考えられています。
カナダやスイスなどの株式市場では、既に仮想通貨ETFが上場しています。米国が仮想通貨ETFを承認すると、巨額の資金が仮想通貨市場に流入する可能性があります。
中でも人気の高いビットコインやイーサリアムには、買いが集中する可能性があります。この場合、ETH価格にとっても好影響です。
イーサリアムには、イーサリアム企業連合会(EEA)が存在します。業界標準や仕様を策定して、イーサリアムの普及を目指す団体です。また、企業によるブロックチェーン採用を後押ししています。加盟企業は、マイクロソフトやJPモルガンなどの著名な企業です。
イーサリアム企業連合会による後押しは、エコシステムの飛躍的な拡大を促す可能性があります。
仮想通貨関連企業Galois Capitalのアンケート(2022年7月末に実施)では、半数以上がETH2.0への移行がスムーズに進むと回答しています。一方、ブロックチェーンが2つ以上に分岐すると答えた割合も、45%以上に達しています。
今後、更に多くの取引所やマイニング事業者、インフルエンサーなどが関与するかもしれません。マージの完了まで何が起こるか分からないだけに、イーサリアム関連の話題は注目度が高まってくるでしょう。
作成日
:2022.08.09
最終更新
:2023.03.16
米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。
大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。
金融ライターとして独立後は、暗号資産およびブロックチェーン、フィンテック、株式市場などに関する記事を中心に毎年500本以上執筆。
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