作成日
:2022.06.13
2022.08.09 00:32
現在のイーサリアム(ETH)は、送金速度が低いという問題を抱えています。そこで、より効率的なブロックチェーンへの転換を目指して、ETH2.0の開発が進められています。ETH2.0はブロック生成方式としてPoS(プルーフ・オブ・ステーク)を採用しているのが特徴で、省電力で高い送金能力が実現すると期待されています。
2022年、ETH2.0への完全移行が近づいてきました。しかし同時に、ディフィカルティボム問題も現実味を帯びてきています。すなわち、既に送金速度低下の兆候が出ています。
ディフィカルティボムとは、イーサリアムブロックチェーンのマイニング難易度を意図的に大幅上昇させるプログラムです。これが実行されるとマイニング難易度が徐々に高まり、ネットワークに参加するマイナーの収益を圧迫します。
現行のイーサリアムは、PoW(プルーフ・オブ・ワーク)を採用しています。すなわち、マイニング難易度が上昇すると、ブロックを生成するための消費電力やコンピュータリソースが増加します。その結果、マイナーは利益を得づらくなります。マイニング難易度が極端に上昇すれば、あまりにコストが大きくなるため、誰もマイニングしなくなると想定されています。
この仕組みが採用された理由は、ETH2.0移行後に従来のETHを確実に停止させるためです。ディフィカルティボムが発動してマイニング難易度が極端に上昇すると、従来のETHでマイニングしてもコストが高すぎて損します。結果として、マイナーは全員ETH2.0に移行します。
イーサリアムは、手数料の高騰や取引の遅延などに苦しめられています。PoSへの移行は、その解決策のひとつだと考えられています。ETH2.0はPoSを採用しており、その送金能力は、現行の1秒あたり約15件から最大10万件にまで向上すると見込まれています。
しかし、イーサリアムは開発が期待通りに進んでいません。このため、ディフィカルティボムの発動も先送りされてきました。過去の先送りを振り返りますと、以下の通りです。ムーア・グレイシャー(Muir Glacier)アップグレードで、ディフィカルティボム発動を400万ブロック(およそ611日間)延期しました。また、アロー・グレイシャー(Arrow Glacier)アップグレードで2022年6月まで延期しました。
この先送りを実行するには、以下の手続きが必要です。すなわち、コミュニティに先送りを提案し、採用され、プログラムを作り、イーサリアムにそのプログラムを追加してハードフォークするという手続きです。時間も手間もかかりますし、ETH保有者に注意喚起しなければなりません。しかし、ETH2.0が公開される前にディフィカルティボムが本格的に実行されると、ブロックが作られなくなってETHの利用価値がなくなり、価格が暴落してしまいます。そこで、この先送り手続きは必須の作業です。
ちなみに、ハードフォークとは、ブロックチェーンを分岐させて新しいブロックチェーンを作ることを指します(下図)。従来の利用者全員が新しいブロックチェーンに移行すれば、古いブロックチェーンは機能を事実上停止します。
イーサリアムの歴史を振り返りますと、2015年にコミュニティが運営方針を巡って分裂し、イーサリアムクラシック(ETC)が誕生しました。ディフィカルティボムは、コミュニティの分裂を回避するのに役立ちます。
ディフィカルティボムの存在意義には、もう一点、「開発の最終期限を設定する」という意味もあります。期限があると、それに向けて開発活動が活発になります。期限がないと、いつまでたっても開発が完了しないという事態もあり得ます。
なお、2022年6月、イーサリアム開発者のティム・ベイコ氏は、アップグレード「マージ」の開発は2022年6月までに完了しないと発言しています。また、迅速に開発を進めなければ、再びディフィカルティボムを延期する必要があると伝えています。
一方、イーサリアム開発者のプレストン・ヴァン・ルーン氏は、もし全てが計画通りに上手く行った場合、2022年8月にマージが完了すると予想しています。その上で、ディフィカルティボムの予定を変更しなくても良いのなら、できるだけ早く開発完了を目指すべきだと言及しました。
マージとは、イーサリアムにおける5段階アップグレードのひとつです。ETH2.0のテストネットワーク「ビーコンチェーン」とメインブロックチェーンを統合して、PoSを本格稼働させることを目的としています。
ちなみに、マージの完了が2022年8月で、ディフィカルティボムの発動は2022年6月。すなわち、順調に開発が進んでも間に合いません。しかし、マイニング難易度は突然急上昇するのでなく、徐々に上昇します。よって、発動後まもなく開発が完了するなら、開発を優先するのが合理的な可能性があります。
ベイコ氏やルーン氏の発言から、マージの開発は遅れていることがわかります。当記事執筆時点(2022年6月)においてディフィカルティボムの延期は決まっておらず、開発の遅れが拡大すると、送金が困難になると考えられます。実際、既にイーサリアムの送金速度は徐々に遅くなっており、ツイッター等で話題になっています。
下のグラフは、1つのブロックを作るのに必要な時間を示したものです。一番右を見ますと、わずかに時間が伸びている様子が分かります。すなわち、送金速度が少し遅くなっています。これは、過去の送金遅延に比べて小さな動きです。しかし、放置すると所要時間が大幅に伸びることは明らかなため、わずかな動きでもユーザーは敏感になっています。
画像引用:Etherscan
ETH2.0への移行は、最終局面を迎えています。そして、マージの開発とディフィカルティボムは、ETH価格に影響を与えます。そこで、ETHを保有している場合は、価格推移と併せてこれら2つの動向にも注目するのが良さそうです。また、イーサリアムの問題が大きくなると、イーサリアムキラーとして期待されている仮想通貨にも影響があるかもしれません。こちらも注目できます。
作成日
:2022.06.13
最終更新
:2022.08.09
米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。
大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。
金融ライターとして独立後は、暗号資産およびブロックチェーン、フィンテック、株式市場などに関する記事を中心に毎年500本以上執筆。
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