作成日
:2020.11.06
2022.01.06 18:02
シンガポール金融管理局(Monetary Authority of Singapore)【以下、MASと称す】は11月4日、不正行為や市場阻害行為(Market Abuse)及びAML(アンチマネーロンダリング)に関連したエンフォースメントレポートを公表した。
エンフォースメントレポートは、2019年1月から2020年6月までを対象としている。MASは違法行為を犯した金融機関及び個人に対し、同期間に民事罰として1,170万シンガポールドル、AML関連で330万シンガポールドルの罰金を科したという。同局は違法行為に対して厳格な措置を講じることにより、調査時間の短縮を図っているとのことだ。実際に、刑事事件の調査時間は前回のレポート対象期間における33か月から24か月へ、民事事件も30か月から26か月に短縮されている。また、MASは複数のステークホルダーと協働する他、ブローカーによるモニタリング業務の改善に寄与するトレードサーベイランス指針を、シンガポール取引所(Singapore Exchange, SGX)と共同で公表するなど、不正行為の早期検知に向けた取り組みを強化している。
エンフォースメントレポートの公表に際し、MASのエンフォースメント部エグゼクティブディレクターを務めるPeggy Pao氏は以下のようにコメントしている。
厳格な調査及びエンフォースメント(規則の執行)を実践することは、不正行為の検知や投資家保護、市場の信頼を維持する上で必須となります。中央集権型の組織であるエンフォースメント部を立ち上げて4年が経過しましたが、我々は今後もエンフォースメントに関する機能及び専門性を高めていく考えであります。シンガポールの金融業界が拡大し、より洗練された市場になる中、厳格なエンフォースメントスキームを構築することは、同国が信頼の置ける金融センターとしての評価を維持する上で重要となるでしょう。
Peggy Pao, Executive Director(Enforcement)at MAS - MASより引用
MASは2021年のエンフォースメントにおける優先事項として、企業開示と金融アドバイザリー行為及び上級管理職の説明責任を挙げている。また、同局はAML及びCTF(テロ資金供与対策)の強固なシステムを構築していない金融機関の監督に注力するとのことだ。更に、2020年7月にMASは国外で活動の仮想通貨関連企業を規制する意向を示している。同局はこれらの取り組みを推進し、アジア地域の金融ハブとしての地位確立を目指す方針だ。
release date 2020.11.06
グローバル金融機関による不正行為が後を絶たない。直近では、2020年9月に 米財務省の資金情報機関である金融犯罪捜査網(Financial Crimes Enforcement Network, FinCEN)の内部資料が流出したことをきっかけに、ドイツ銀行やJPモルガンチェース、スタンダードチャータード銀行など、世界の大手金融機関が総額2兆ドルに上るマネーロンダリングを黙認していたことが明らかになった。一方、不正を取り締まる各国当局は、金融市場において不正行為や詐欺などが多発している現状に鑑み、規制を強化する姿勢を強めている状況だ。直近では、香港SFCが全仮想通貨取引所を規制する方針を示した他、ASICが個人投資家向けCFD規制策を導入した。スペイン政府も、AML及びCTFに関連した法改正に取り組んでいるという。世界各国で規制強化の流れとなる他、新興フィンテック企業などとの顧客獲得競争も激化している。グローバル金融機関は市場からの信頼を維持すべく、強固なコンプライアンス体制の構築が必須となっていると言えそうだ。
作成日
:2020.11.06
最終更新
:2022.01.06
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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