作成日
:2020.10.28
2022.01.12 10:56
欧州証券市場監督局(The European Securities and Markets Authority)【以下、ESMAと称す】は、ブレグジットの移行期間が終了する2020年12月31日後におけるEUの株式取引義務(Share Trading Obligation)【以下、STOと称す】の適用に係る声明文を公表した。
EU圏内の投資会社が、英国を拠点とする取引施設を通じてEEA(European Economic Area、欧州経済地域)の証券識別コードを付与された企業のポンド建て株式取引を行う場合、ESMAはEUのSTOを適用しない方針であるという。EU圏内の取引施設における取引義務を定めた金融商品市場規則(Markets in Financial Instruments Regulation, MiFIR)下において、このような不定期且つ不規則となる特別な取引状況に対応すべく、同局はガイダンスを修正したとのことだ。
ESMAはブレグジットに伴う金融市場の混乱を最小限に抑え、STO関連の規制重複や市場参加者に悪影響を及ぼすことを回避すべく、欧州委員会(EC)と緊密に連携して出来る限りの策を講じているという。今回、同局が通貨に基づく規制アプローチを採用する一方で、EEAの証券識別コードが付与された企業の株式取引を含めないSTOを英国が採用する場合、規制を重複させない効果が見込めると主張している。
英国に対する同等性評価が認められない場合、移行期間終了後におけるSTOの適用は、ハードブレグジット時と同程度の悪影響を及ぼす可能性があると見られている。ESMAは2017年11月13日に公表したガイダンスを考慮の上で、証券識別コードに基づく株式取引に関連したSTOの適用を引き続き検討していくとのことだ。
release date 2020.10.28
英国とEUは10月21日、貿易協定などの将来関係協定交渉を再開したものの、両者の間で必要な合意が得られるかは見通しが立たないままである。また、ESMAは英国が策定するSTOの範囲が現状においては不透明なものになっていると指摘しており、同規制策を巡る欧州及び英国当局の動向を引き続き注視する必要がありそうだ。他方で、ESMAはブレグジットに伴う金融市場の分断を回避すべく、多岐にわたる分野で様々な施策を打ち出している。例えば、ESMAは2021年の監督業務計画を公表し、第三国中央清算機関や証券化商品の取引情報蓄積機関などに対する監督強化など、ブレグジット後を見据えた多数の施策を実施する方針である。またESMAはCCP監督委員長と独立委員を任命した他、ESMAはCCP向けのストレステストを実施している。金融市場に甚大な影響を及ぼし得るブレグジットを巡り、英国とEUの間で複数の分野における大きな隔たりが解消されていない中、引き続き当局の動向を見守る必要がありそうだ。
作成日
:2020.10.28
最終更新
:2022.01.12
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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