作成日
:2020.10.07
2022.01.12 12:03
欧州証券市場監督局(The European Securities and Markets Authority)【以下、ESMAと称す】は、投資家保護の徹底及び秩序と安定性ある金融市場の構築を目標として掲げる2021年の監督業務計画を公表した。
ESMAが策定した同計画においては、規制環境の変化を考慮に入れ、資本市場同盟(Capital Markets Union, CMU)を構築するための基礎となる個人投資家基盤の形成に加え、サステナブルファイナンスや長期視点に基づく市場形成の促進が挙げられている。更に、デジタル化による機会とリスクへの対応、グローバル資本市場におけるEUの役割強化、均整の取れた規制策の導入など、多岐にわたる課題へ取り組む方針が示されている。同局は監督基準の収斂性(しゅうれんせい)の確保や投資家保護に加え、ベンチマーク・アドミニストレーターやデータサービス提供業者に対する直接監督の徹底を図るべく、ESAレビューに基づく法律の改正を踏まえた戦略的方向付けを行っていくという。
ESMAは組織横断的な課題への対応を図る他、ファンドの流動性リスクや個人投資家向けの金融商品、ESG(環境・社会・ガバナンス)レポーティングなどの分野を重点的にモニタリングし、クロスボーダー投資に関するピアレビューを実施する意向だ。また同局は、金融イノベーションやESGの視点を採り入れたリスク分析に加え、第二次金融商品市場指令(Markets in Financial Instruments Directive Ⅱ, MiFIDⅡ)やオルタナティブ投資ファンド・マネージャー指令(Alternative Investment Fund Managers Directive, AIFMD)のレビュー、第三国中央清算機関(Third-Country CCP)【以下、第三国CCPと称す】の直接監督などを注力分野として挙げている。
監督業務計画の公表に際し、ESMAの局長を務めるSteven Maijoor氏は以下のようにコメントしている。
ESMAにとって2021年は、規制当局としての責務だけでなく、組織としても変化を迎える年となります。規制面においては、ESAレビューに基づき、中央清算機関(Central Counterparty)【以下、CCPと称す】やベンチマーク・アドミニストレーター、証券化商品の取引情報蓄積機関(Securitisation repositories)に対する監督権限が強化されます。欧州金融市場の単一ルールブック(Single Rulebook)の策定や監督基準の収斂性の確保においては、資本市場同盟の構築に加え、新型コロナウイルス(COVID-19)及びブレグジットへの対応に注力します。組織面では、私とVerena Ross氏が10年に及ぶ任務を終え、2021年第2四半期までに新たな経営陣に加えて、CCP監督委員会の各委員と多くのスタッフの方々を迎え入れる予定であります。2021年の監督業務計画は野心的なものであり、欧州資本市場が直面する様々な課題に対応することができると確信しております。
Steven Maijoor, Chair of ESMA - ESMAより引用
ESMAが多岐にわたる課題に対応した効果的な規制策を導入することで、より安心・安全な取引環境が構築されることに期待したい。
release date 2020.10.07
今回ESMAが策定した監督業務計画には、欧州市場インフラ規則2.2(EMIR2.2)に基づく第三国CCPの直接監督やクロスボーダー投資を試みる投資会社へのモニタリング強化など、ブレグジットを意識した様々な施策が盛り込まれている。同局はブレグジットに伴う欧州金融システムの混乱回避に向け、市場参加者に対して2020年末とされる移行期間終了に向けて、準備を徹底することを要請している他、英国を拠点とするCCP3社に第三国CCPとしての認可を与える方針を示している。またESMAはCCP監督委員長と独立委員を任命したことに加え、ESMAはAIF関連レポートを公表するなど、ブレグジット後を見据えて万全を期している状況だ。他方で、INTLがGIROXXを買収し継続的なサービス提供を目指すなど、民間企業の動きも活発化している。ESMAが2021年の監督業務計画を下に、投資家保護及び秩序と安定性ある金融市場構築に向けて如何なる規制策を講じるか注目したい。
作成日
:2020.10.07
最終更新
:2022.01.12
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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