作成日
:2020.01.15
2021.08.31 15:29
欧州証券市場監督局(The European Securities and Markets Authority)【以下、ESMAと称す】は、オルタナティブ投資ファンド(Alternative Investment Fund)【以下、AIFと称す】に関する第2回調査レポートを公表した。
ESMAは、2018年の欧州AIFの純資産額が、欧州ファンド業界全体の約40%を占める5.8兆ユーロになると試算した。同レポートは、ほぼ全てのAIFである30,357ファンドからデータを抽出したという。AIFの種類別構成割合を確認すると、ファンズオブファンズが14%、不動産ファンドが12%、ヘッジファンドとプライベートエクイティファンドが共に6%となり、残りの3分の2を債券や株式などに投資するAIFが占めている。AIFの販売先としては、84%がプロフェッショナル投資家であり、残りの16%が個人投資家で構成されている。
個人投資家向けのAIF販売比率を見ると、ファンズオブファンズが31%、不動産ファンドが21%を占め、両ファンドが最も高いシェアを握っているが、共に流動性リスクを抱えている状況とのことだ。多くの不動産ファンドが、日々流動性を供給する仕組みをとる一方で、非流動性資産である不動産に投資するという構造的な脆弱性リスクを内包している。またファンズオブファンズに関しても、純資産額の35%が1日以内の償還が可能な商品設計である一方で、僅か24%のファンドが1日以内での償還が可能という流動性のミスマッチが生じているという。
ヘッジファンドの純資産額は、3,333億ユーロになる。但しデリバティブを積極的に活用していることから、全てのAIFに占める総エクスポージャーの割合は67%に上るとのことだ。3分の1のヘッジファンドは、オーバーナイトで資金を手当てしており、ファイナンスリスクを抱えているという。
AIF関連レポートの公表に際し、ESMAの局長であるSteven Maijoor氏は以下のようにコメントしている。
AIFからデータを集計した第2回統計分析において、我々はファンド市場の99%を網羅しており、AIF業界を包括的に概観することができるようになりました。個人投資家保護の徹底と、秩序があり安定した欧州金融市場の形成を目指す我が局と各国規制当局にとって、集計したデータと分析情報が役立つと考えております。AIFの流動性リスクに関する詳細な分析において、特に個人投資家向けのファンドは、同リスクが高まっていると認識しております。またこれらのデータが、各国規制当局によるAIFの監督サポートと、EU全域をカバーする監督体制の強化に寄与すると見ております。
Steven Maijoor, Chairman of ESMA - ESMAより引用
今回ESMAが公表したAIF関連レポートは、欧州AIFのスキームやトレンドの分析、AIFの分類及びレバレッジドローンや証券化商品を活用するAIFのエクスポージャーなどの統計的分析手法、ESMAによる監督の際のインディケータの開発などにフォーカスしたという。
尚、ESMAは2022年までの戦略プランを公表したほか、CRAとTRに関してESMAはフォローアップレポートを公表するなど、ブレグジット後を見据えた監督強化を図っている。そして今回、欧州域内外で拡大するAIF市場に関する調査を行ったことで、ESMAが今後如何なる規制策を講じるか注目したい。
release date 2020.01.15
AIFは、多くの投資家から資金を調達したうえで、一定の投資方針に基づく運用がなされるファンドのことであり、EUファンドパスポート制度(UCITS)に基づくファンドや、年金、従業員退職プランなどを除く集団投資スキームを指す。欧州金融危機後の2014年7月に、ヘッジファンドやプライベートエクイティファンドなどのAIFを包括的に規制するオルタナティブ投資ファンド・マネージャー指令(AIFMD)が適用開始された。その後、英国のEU離脱が決まったことを受け、ESMAはEU域内外の投資会社のファンド運用状況を詳細に分析することで、ブレグジット後を見据えた強固な監督スキームの構築を目指していると推察される。また、AFMとSFCが覚書を締結し、相互に投資ファンドの提供を推進するなど、実際にEU域内外でファンドの運用及び販売が活発化している状況だ。今回の調査結果をもとに、ESMAがAIFの実態を正確に把握し、投資家保護に寄与する効果的な規制策を講じることに期待したい。
作成日
:2020.01.15
最終更新
:2021.08.31
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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