作成日
:2019.12.24
2021.08.31 15:29
欧州証券市場監督局(The European Securities and Markets Authority)【以下、ESMAと称す】は、信用格付機関(Credit Rating Agency)【以下、CRAと称す】と取引情報蓄積機関(Trade Repository)【以下、TRと称す】の手数料に関するフォローアップレポートを公表した。
同レポートにおいて、ESMAはCRAに対し、手数料体系構築プロセスの透明性を高めると共に、裁量余地がなく実際のコストに基づくスキームの確立を求めている。また、CRAはサービス提供に係るコストに見合った手数料を提示するために、コストの記録及びモニタリングを実践しなければならないという。その際、CRAはカテゴリー別で詳細にコストのモニタリングを行うと共に、定量化できないコストも手数料設定プロセスにおいて考慮すべきであるとのことだ。更にESMAは、CRA各社のウェブサイトのアクセス向上と、規制目的の制限なくユーザビリティの改善を図ることに加え、格付情報の公表の管理を徹底する必要があると指摘している。
また、ESMAはTRに対し、欧州市場インフラ規則(European Market Infrastructure Regulation, EMIR)とESMAが求める基準を満たした手数料体系の構築を求めている。TRがコストに基づく手数料を提示するため綿密に手数料上限をチェックすると共に、定期的に文書によるコストのモニタリングを行うとのことだ。更に、ESMAはCRAとTRに対し、エンドツーエンドの手数料設定とコストモニタリングプロセスの監督フレームワークの構築と、コンプライアンスや内部監査などを通じた積極的な監督機能の実践を求めている。
一方でESMAは、両機関による透明性ある手数料体系の構築に向けた改善例も公表している。CRAの既存及び見込み顧客に対する、手数料の透明性確保やディスクロージャー面での施策を挙げ、CRA関連規制を遵守した手数料体系の改定とウェブサイトでの公表、より詳細な手数料表及び体系の簡素化や標準化、手数料見積もりツールやオンライン手数料計算機能などの提供、スタッフの教育などで改善が見られるという。また、コストモニタリングや手数料設定に関しては、規制を遵守し統制のとれた手数料プロセスを実践するうえでのポリシーや手続きの確立に加え、ガバナンスの強化、コストに基づく明瞭な手数料表の提示がなされているとのことだ。更にCRAへのアクセスやユーザビリティについては、CRA各社がウェブサイトを内部もしくは規制レポーティング目的で利用する一方で、CRA関連の情報サービス会社からサービス提供を受ける顧客に対しては、規制レポーティングの際に情報の使用料を課していないと指摘している。
また、TRは全てのサービスに関連した手数料表の提示や料金改定の事前通知、顧客フィードバックなどを通じて透明性のある手数料体系を適用しているという。加えてESMAは、TRが作業量に応じて手数料を定めた固定型手数料上限スキームや、アセットクラスもしくはサービスにより手数料が変わる変動型手数料上限スキームに改訂すると共に、手数料設定プロセスを監督する専任スタッフの設置などが実践されていると指摘している。
レポートの公表に際し、ESMAの局長を務めるSteven Maijoor氏は以下のようにコメントしている。
CRAとTRは、透明性ある手数料の提示や設定及びコストモニタリングプロセスにおいて改善が見受けられます。しかしながら、コストの記録やモニタリング、コストに基づく手数料の提示などの面で更なる改善が求められているほか、CRAに対しては、アクセスとユーザビリティの向上を期待しています。我々は投資家保護と安定的で秩序ある欧州市場の構築に寄与すべく、両機関の課題解決に向けた法令遵守の取り組みを一貫して行うために、進捗状況を監督していく考えであります。
Steven Maijoor, Chair of ESMA - ESMAより引用
なおESMAはフォローアップレポートを補うべく、両機関の手数料に係る顧客の要望や更なる改善箇所に関するファクトシートも公表している。
今後に関してESMAは、CRAとTRが規制を遵守した形で、手数料体系とその評価システムを運用しているか否かモニタリングするほか、CRAへのアクセス及びユーザビリティの向上に向けた監督業務を遂行していく見通しだ。
release date 2019.12.24
ESMAは厳格な監督フレームワークを構築し、透明性が高く強固な欧州金融市場の形成に向け、様々な規制策を講じている。今回CRAとTRに対し、よりシンプルで明瞭な価格体系の構築を求めるほか、ESMAを始めとするESAがAML及びCFT関連のガイドラインを公表し、欧州初のコンプライアンス専門監督カレッジの創設などを提案している。また、ESMAはエクイティ性商品に統合テープの導入を推奨していることに加え、ESMAはECに第三国CCPの監督スキームを提案するなど、矢継ぎ早に新たな規制策案を打ち出している状況だ。これらのことから、権限強化を図るESMAが欧州全域にわたる統一監督スキームの構築に向け、海外FXブローカー各社への影響を強めていると推察される。他方で、サクソバンク証券がTorstoneと提携しクラウドベースの規制対応レポーティングの実践を試みているように、目まぐるしく変化する規制環境下への対応を図る海外FXブローカーとレグテック企業による提携動向にも注目したい。
作成日
:2019.12.24
最終更新
:2021.08.31
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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