作成日
:2020.10.22
2022.01.12 11:02
オーストラリア・シドニーを拠点に取引関連レポーティングサービスを手掛けるTRAction Fintech(本社:Level 22, 85 Castlereagh Street Sydney NSW 2000 Australia
)【以下、TRActionと称す】の共同CEOを務めるQuinn Perrott氏が、欧州市場インフラ規則2.2(European Market Infrastructure Regulation 2.2)【以下、EMIR2.2と称す】及び金融商品市場規則(Markets in Financial Instruments Regulation)【以下、MiFIRと称す】において求められるレポーティング規制動向に関する見解を示した。Perrott氏によると、英国金融行動監視機構(Financial Conduct Authority)【以下、FCAと称す】が、EMIR2.2及びMiFIR規制下におけるレポーティング規制に注力しているという。同機構の定期刊行物であるMarket Watchでは、2019年4月以来3度にわたりレポーティング規制が特集されている。中でもMarket Watch 59において、FCAはデータの質及び取引レポートを提出する市場参加者の対応について言及している。現行のバリデーション(入力検証)ルール下において全ての誤記脱漏を検出できないことを踏まえ、同機構は市場参加者に対して、市場データ処理業者(Market Data Processor)が提供するレポートをそのまま活用するのではなく、取引記録をサンプルデータと定期的に照合するよう促している。
またFCAは、取引時間や価格、取引主体識別子(Legal Entity Identifier)【以下、LEIと称す】、リファレンスデータにおいて多くの誤りが見られているという。EMIR2.2及びMiFIR規制下においては、協定世界時(Coordinated Universal Time, UTC)によるレポーティングやLEIの記載に加え、ポンドやドルなどのメジャー通貨を用いた価格及び金額単位の表記、取引商品に係る正確なリファレンスデータの提供が求められている。尚、同機構によると、誤記脱漏を認識しているにも関わらず、修正したレポートの再提出を怠る企業が散見されているという。Market Watch 62に鑑みると、FCAは市場参加者に対し、レポーティングの誤りを認識した際には同機構へ遅滞なく報告することを求めている模様だ。
2020年9月に公表されたMarket Watch 65において、FCAは市場参加者に対し、レポーティング規制の適用範囲、取引の当事者を識別する取引識別子、売買取引した支店が所在する国名、レポーティングシステム、レポーティング遅滞などに注意を払うよう促している。またCMEがEU及びオーストラリアの取引情報蓄積機関(Trade Repository)【以下、TRと称す】を閉鎖したことを受け、同機構はデータレポーティングサービス業者がサービスの提供を停止する際、市場参加者に対して継続的なレポーティングを行う体制を整備するよう求めている。尚、FCAはブレグジットによる不完全で不正確なレポーティングを回避すべく、企業や認可報告機関(Approved Reporting Mechanism, ARM)に対し、移行期間が終了する2020年12月31日までに各種規制策の変更に対応するよう要請している。
またキプロス証券取引委員会(Cyprus Securities and Exchange Commission)【以下、CySECと称す】も、デリバティブ取引データ関連レビューに関するC356通知において、FCAと同様にレポーティングのタイミングに加え、標準とする取引時間や価格項目を注視しているという。報告企業(Reporting Entity)【以下、REと称す】が修正したレポートの再提出漏れや、翌営業日(T+1)を期限とするレポートの提出遅滞が生じている市場環境下において、同委員会は市場参加者によるレポーティング規制の遵守に腐心している模様だ。尚、規制に対応できていないREは、是正措置が講じられる前にCySECへ所定の報告書を提出しなければならない。
欧州証券市場監督局(The European Securities and Markets Authority)【以下、ESMAと称す】は、MiFIRのQ&Aを更新している。例えば、非金融機関が提出を求められる詳細なレポーティング情報に加え、非金融機関がLEIを更新しない場合やステータスを変更した際、及び2か所のTRへレポーティングする際の対応などに関して情報がアップデートされている。また同局は、EMIR2.2のQ&Aも更新しており、クレジットデリバティブ取引における国や地方公共団体などの取り扱いに加え、金利先渡取引(Forward Rate Agreement, FRA)に係る時刻印や適用日、満期日、決済日に関する指針を提供している。
更にESMAは、取引レポーティングの徹底的な見直しを求める諮問書を公表している。諮問書には、取引施設を通じた取引(Traded on Trading Venue)【以下、ToTVと称す】に関する概念の見直しや、EU金融ベンチマーク規則(EU Benchmarks Regulation, BMR)下でレポーティング規制対象となるインデックスの範囲などが検討事項として盛り込まれている。特にToTVに関しては、レポーティング対象の金融商品と判断する際、商品特性ではなく取引施設の決定を基準とするなど非常に複雑なため、見直す必要があるという。
ブレグジットの移行期間終了が数か月後に迫る中、英国及びEU各国当局の規制動向を引き続き注視したい。
release date 2020.10.22
2015年に創業したTRActionは、MiFIRやEMIR2.2、最良執行報告義務など、グローバル各国市場における規制に対応したレポーティングサービスを提供するフィンテック企業だ。グローバル規制環境が目まぐるしく変化する中、Perrott氏がハードブレグジット後のレポーティング規制動向を考察している他、TRActionはUnaVistaと提携を強化するなど、効率的な規制対応レポーティングサービスの提供を推進している。他方で、多くの市場参加者がレポーティング規制への対応に苦慮する中、複数の金融サービスプロバイダーが関連ソリューションの活用を試みている。例えば、FXCM ProがCentroidと提携し、単一フレームワーク上で規制対応レポーティングの提供を実現させている。またArdent FinancialがSteelEyeのコンプライアンスソリューションを採用し、取引レポーティングやレコードキーピング(取引記録・管理)など、規制対応プロセスの自動化を図っている。ブレグジットをきっかけにEUの規制環境の変化が見込まれる中、多くの海外FXブローカーが効率的な規制対応レポーティングを実践すべく、関連ソリューションの活用を進めると予想される。
作成日
:2020.10.22
最終更新
:2022.01.12
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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