作成日
:2020.02.03
2021.08.31 15:29
カンボジア国立銀行(National Bank of Cambodia)【以下、NBCと称す】は、今四半期中に中央銀行発行の独自デジタル通貨(Central Bank Digital Currency)【以下、CBDCと称す】を発行する準備を整えていることを明らかにした。
NBCのChea Serey総裁によると、同行はP2P(ピア・ツー・ピア)ベースのブロックチェーンプラットフォームを基盤とし、国家主導の決済ゲートウェイを開発しているという。Serey総裁は具体的なローンチ時期について言及しなかったものの、近日中にこのCBDCが発行されることがわかっている。2019年7月、NBCはProject Bakongと呼ばれるイニシアチブの下、プノンペン商業銀行(Phnom Penh Commercial Bank)【以下、PPCBankと称す】を含むパートナー企業の協力を得てCBDCのトライアルを実施しており、同行の代表であるShin Chang Moo氏は、これがクレジットカードやデビットカードなどと比較して安価かつ利便性が高い決済方法であると評価している。
また、Chang Moo氏は、PPCBankの全ての支店でこのシステムを導入すると言及しており、CBDCの発行が実現すれば、直ぐにその利用を開始すると述べた。これで利用者は銀行口座に自動的にリンクされたBakongウォレットを介して、CBDCと法定通貨をリアルタイムに両替することが可能になるという。Project Bakongは、全国にQRコード決済の導入を目指すカンボジア政府の支援を受けており、利用者がモバイルデバイスから毎日の支払いにCBDCを利用できる環境を構築することも視野に入れている。NBCはこのプラットフォーム上の全てのトランザクションデータを保存すると公言し、同行が利用者の決済を完全に追跡できることを明らかにした。Project Bakongの設計を担当したSoramitsuのCEOである武宮誠氏は、このCBDCがNBCの準備金である米ドルとカンボジアリエルをトークン化したものであると説明している。
これまで、カンボジア政府は仮想通貨取引を厳しく取り締まってきたが、NBCは少なくとも2017年ごろから銀行間決済ソリューションの構築を念頭に、ブロックチェーン技術の開発を進めていたようだ。既にProject Bakongは、11カ国の国立銀行と提携しており、Serey総裁はこれが国際送金向けのプラットフォームとして利用される可能性もあることを示した。実際にProject Bakongで開発されているシステムは、仮想通貨を含む複数の通貨に対応することができるという。しかしながら、Chang Moo氏がカンボジアの金融システムが未成熟なことを指摘し、同国の金融市場に悪影響を与える可能性があると警笛を鳴らしているだけに、利用までに適切な運用基準を制定することが必要だと言えるだろう。
release date 2020.02.03
成長著しい東南アジアでは、シンガポールなどを中心にフィンテック分野が盛り上がりを見せており、隣国のマレーシアは仮想通貨取引所の登録制度を導入するなど、仮想通貨を受け入れるための動きが加速している。それに加え、モバイルベースの決済ソリューションが爆発的に普及し、アウトバウンドをターゲットとした観光業を後押しすると同時に、人々の生活にも徐々に根付きつつあるようだ。タイではサイアム商業銀行がリップル社と提携しており、ブロックチェーンや仮想通貨をこれらのソリューションに統合することで、効率的な決済システムを実現しようとしている。また、タイ初となるICOポータルが誕生するなど、仮想通貨関連企業への投資を促進するための試みが進んでいるが、NBCのCBDC発行は東南アジアの仮想通貨市場にどのような影響をもたらすのか、今後もその動向に注目していきたい。
作成日
:2020.02.03
最終更新
:2021.08.31
米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。
大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。
金融ライターとして独立後は、暗号資産およびブロックチェーン、フィンテック、株式市場などに関する記事を中心に毎年500本以上執筆。
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