作成日
:2020.01.31
2021.08.31 15:29
中国の中央部に位置する武漢市を発生源とする新型コロナウイルス(2019-nCoV)の感染者は、同国内において5,000人を超えた。米中貿易交渉の第一段階が合意に達した数週間後、新型コロナウイルスの拡大は、着実に中国経済へ悪影響を及ぼしていることに加え、グローバル経済への波及懸念が浮上している。
新型コロナウイルスへの感染が初めて報告されたのは、2019年12月31日のことであり、現在、製造業が集積する武漢市は隔離状態とされ、中国経済への悪影響が強まっている状況だ。同ウイルスは、既に中国のみならず、香港や日本、ベトナム、マカオ、ネパール、マレーシア、シンガポール、韓国、台湾、タイ、オーストラリア、米国、カナダ、ヨーロッパにまで拡散している。そのため、一部の投資家は、同ウイルスによるグローバル経済への影響を懸念し、アジア株式への投資を控えている模様だ。また、新型コロナウイルスの発生及び拡散は、中国の大型連休に当たる旧正月と重なった。この時期には、何百万人もの中国人が故郷へ戻り家族と会うほか、ホテルやレストランが多くの旅行者で埋め尽くされるものと予想されていた。しかしながら、足元では同ウイルスが猛威を振るっていることから、旅行関連業界は多大な損害を被ると見込まれている。
新型コロナウイルスが急速に拡散していることは、2002年と2003年に発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)を想起させる。SARSにより約800人が死亡したが、新型コロナウイルスはそれを上回る勢いである。また、SARSは中国経済にも甚大な影響を及ぼしており、2003年第1四半期のGDP成長率(年率)が11.1%であったのに対し、同第2四半期には9.1%まで低下した。但し、同国経済は一時的に成長が鈍化したものの、すぐに景気は持ち直していた。
複数の専門家は、仮に新型コロナウイルスが、より伝染力及び致死率が高いウイルスに変異したとしても、数年前に猛威を振るったエボラ出血熱(Ebola hemorrhagic fever)や、SARSへの対処を経験していることから、新型コロナウイルスによる経済への影響を懸念していない模様だ。JPモルガンチェースのエコノミストであるBruce Kasman氏は、新型コロナウイルスの発生は、2020年上半期に中国とアジアの新興国経済へ大きく影響を及ぼすが、仮にSARSのケースを想定したとしても、通期の経済成長に与える影響は非常に小さいものであるという。また、香港を拠点とするオックスフォード・エコノミクスのアジア経済地域ヘッドであるLouis Kuijs氏は、中国に与える影響は大きいものの、比較的短期なものになるであろうと指摘している。
新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、適切な投資判断を下すうえで、被害状況や各国当局の対応策などをつぶさに確認していく必要がありそうだ。
release date 2020.01.31
新型コロナウイルスが拡散する中、現在においてはグローバル経済の底堅さが試されている状況だ。複数の専門家が、同ウイルスが経済に与える影響は短期的なものと見ている。実際に、伝染病が発生した後のグローバル株式の値動きを確認すると、SARSやMERS(中東呼吸器症候群)、ジカ(Zika)ウイルス、豚インフルエンザ(Swine flu)など、過去に伝染病が大きく拡大した3か月後、もしくは6か月後には、世界の主要国の株式を対象とするMSCIワールド・インデックスは上昇したというデータがある。但し、2018年10月のエボラ出血熱による被害が拡大した際は、6か月経っても同指数はマイナス圏に沈んだままであった。他方で、コロナウイルス流行でビットコインが上昇しており、世界情勢と仮想通貨価格の相関性が高まっている模様だ。グローバル投資家は貿易問題を懸念するなか、足元では新型コロナウイルスが拡散しているが、過去の事例と同様に、短期間で経済が持ち直すことを期待したい。
作成日
:2020.01.31
最終更新
:2021.08.31
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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