作成日
:2019.07.03
2021.08.31 15:26
英国の金融監督当局である英国金融行動監視機構(Financial Conduct Authority)【以下、FCAと称す】は、個人投資家向け仮想通貨デリバティブ商品の禁止を示唆する諮問書を作成していることを発表した。
FCAの広報担当者によると、当局は仮想通貨に関するレバレッジ取引やCFDの危険性を問題視しており、これら個人投資家向けの取引サービスに対して包括的な禁止措置を講じる動きに出ているという。現在、欧州証券市場監督局(European Securities and Markets Authority)【以下、ESMAと称す】は、仮想通貨取引におけるレバレッジを2倍に制限しているが、規制対象外の仮想通貨取引所は最大レバレッジ100倍などのハイリスクなサービスの提供を続けているのが現状だ。これに対してFCAは、新しい規定を設けることを予定しており、8月1日から英国では仮想通貨取引において50%の証拠金を保持することが義務付けられる。
世界的な法律事務所であるSimmons&Simmons(シモンズ・アンド・シモンズ)のパートナーであるGeorge Morris氏は、このことについて次のようにコメントしている。
この政策的な決定は、FCAが仮想通貨に対する否定的な見解を示した初めての例となり得ます。FCAは仮想通貨の中にはリスクが低いものも存在することを考慮しておらず、微妙な認識の違いが生じている可能性があります。しかしながら本来の目的は仮想通貨を対象としたCFDを禁止することであり、これらデリバティブ商品の利用をできるだけ制限したいという意図が感じられます。
George Morris, Partner of Simmons&Simmons - Crypto Briefingより引用
仮想通貨市場の好調を背景にレバレッジ取引の需要は飛躍的に増加しており、最大100倍のレバレッジでビットコイン(Bitcoin)取引を許可しているBitMEXは、過去1年間で1兆ドルを超える取引高を記録したという。Kraken(クラーケン)やHuobi(フォビ)などの大手取引所も例外ではなく、バイナンスに至っては20倍のレバレッジ取引が可能な招待制の新しいプラットフォームの立ち上げを先月発表したばかりだ。この状況に対して英国の取引所であるLMAXのDavid Mercer氏は、欧州連合加盟国の中にもESMAの規定に準拠しない企業が存在すると強く批判している。
2017年にFCAが仮想通貨を対象としたCFDのリスクを警告する文書を公開するなど、英国政府は仮想通貨に対する危機感を露わにしており、最近ではFacebookの仮想通貨プロジェクトであるリブラ(Libra)の発表が同国で物議を醸している中、FCAがFacebookにリブラの詳細情報を求めていることが報道された。今回のFCAによる規制強化の動きは、これらの仮想通貨を取り巻く環境整備の一環だと捉えることができるが、今後も当局の動きには注目していきたい。
release date 2019.07.03
実際の資産を保有せずともポジションを取ることができるCFDは、効率的な投資手段として広く利用されているが、投資家保護の観点からその危険性への認識が高まってきているようだ。先日、FCAはCFD規制策の最終版を公表しているが、日本や米国では、原資産の特性に合わせて証拠金の額が細かく規定されており、最もハイリスクな商品に分類される個別株関連のCFDなどは20%以上の証拠金の保有が義務付けられている。この例に従えば、大抵の個別株よりもボラティリティが高い仮想通貨関連のCFDは、より多くの証拠金が必要だと考えるのが妥当だが、顧客獲得に走る取引所は安全性を度外視したサービスを提供しているという実態が見受けられる。特に規制が緩いオフショア地域の取引所にはその傾向が顕著で、前述したBitMEXもインド洋に浮かぶセーシェル共和国を本拠とする企業のひとつだ。まず、FCAは英国内での取り締まり強化を目指すようだが、いずれは国際機関や各国政府を巻き込んだ世界的な動きへと発展させることが求められるだろう。
作成日
:2019.07.03
最終更新
:2021.08.31
米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。
大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。
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