作成日
:2019.06.14
2022.01.27 13:18
キプロスの金融監督当局であるCySECが個人投資家向けFX・CFD新規制策の導入を検討していることが明らかになった市場環境下において、FXブローカー各社にとっては信頼の置けるパートナーとなるレグテック(フィンテックを活用して規制対応に関する課題解決を図る技術)企業や決済サービスプロバイダー(Payment Services Provider)【以下、PSPと称す】を見つける必要が出てきているようだ。
東地中海上に位置するキプロスは数多くのFXブローカーが進出していることで知られ、欧州証券市場監督局(European Securities and Markets Authority)【以下、ESMAと称す】による規制強化の推進に歩調を合わせている。そのため、過去5年間ほどに亘り、FXブローカーや個人投資家は次々と打ち出される金融規制に翻弄されている状況だ。一般的に監督当局が導入する規制策は投資家保護や企業倒産防止等を目的とする善意のものであるが、当局の圧力が強まると、流動性の低下や、個人投資家のトレードに悪影響を及ぼす可能性もある。そこで規制強化によるネガティブな影響を緩和すべく、CySECは統制下にあるブローカーのレバレッジシステムに多少の柔軟性を持たせると共に、個人投資家を3つの階層に分類するスキームの導入を検討している。投資家を分類する際は、様々な金融商品取引のリスクを重視し、知識や経験、リスク許容度、市場のボラティリティ動向、年収、純資産といった基準を用いることで、階層が違えば異なるレバレッジが提供されるようになっている。
更に、CFD商品を取引する顧客は、適合性によってポジティブもしくはネガティブに区分けされると共に、知識やリスク許容度などを考慮した結果ハイレバレッジの提供はリスクが高いと見なされる投資家層はグレー・カテゴリーに振り分けられる。また、1年間に最低でも4万ユーロの収益をあげているか20万ユーロの純流動資産を保有している場合は最上位カテゴリーの投資家層に分類され、主要通貨ペアに関しては最大レバレッジ50倍と、ESMAが導入した最大30倍よりも高い基準を設けている。一方でグレー・カテゴリーに分類される顧客は、最大20倍に限定するとのことだ。
投資家を階層別に分類する目的は、CySECが特に注意深く監督する階層を明確にするためであり、今回の規制策の正式導入が明らかになった際は、他の監督当局も同様のルールを採用すべくCySECの規制動向を注視している状況である。なおCySECはその他にも、上位階層のポジティブ・カテゴリーに分類される投資家に対して、バイナリーオプション取引を縮小し、仮想通貨等の高リスクな商品取引を規制する方針も示している。更に各ブローカーに対して、顧客の証拠金維持率が50%を下回った場合はロスカット対象とし、ゼロカットシステム(negative balance protection)の採用や顧客に対する全てのインセンティブ提供の禁止と共に、顧客の利益・損失割合を含むリスク警告の掲載なども求める見通しだ。
CySECが一部柔軟性を持たせつつ規制強化を推し進めようとする中、ほとんどのブローカーが新たな規制に対応すべく信頼の置けるレグテック企業やPSP、もしくはレグテックや決済機能などを包括したパッケージソリューションを求めているようである。イスラエル・テルアビブを拠点とするフィンテック企業Leverate Financial Services(本社:Derech Sheshet Hayamim 30 Bnei Brak
)のエグゼクティブディレクターであり、CySECの規制動向に精通するAlkis Hilton氏は、欧州全域で求められるFX業界の規制対応はキプロスも例外ではなく、また規制の変更点を認識し、新たな規制環境に適切に備えることが非常に重要であるとの認識を示した。そして同社が提供するレグテック関連ソリューションであるLXLiteは、直近の規制策にも完全に対応した業務運営を遂行でき、ブローカー需要を的確に満たすことが可能になるとアピールしている。今後は、CySECが採用したトレードのリスク面にフォーカスする柔軟なレバレッジシステムが機能するかどうか、動向を注視する必要がある。トレーダーやブローカー、個人投資家は、CySECが新規制策の最終版を公表する前である6月14日までに自らの意思を示さなければならない。また、全ての欧州各国がESMAの新規制策を導入する期限は7月30日となっている。ブローカー各社にとって、多岐に亘る規制を的確に遵守し業務の効率性を高めると共に主力事業に注力すべく、レグテックなどのサービスを適宜活用することが求められているといえるであろう。
release date 2019.06.14
CySECの規制緩和の背景には、ESMAの規制強化によってトレーダーが金融ライセンスの低いオフショアブローカーへ流れたことで、規制の本来の目的である投資家保護の観点から逸脱してしまったため、ESMA管轄内へトレーダーを呼び戻そうとする意図がある。EU圏内でESMAの規制に準拠しつつ高レバレッジを提供するためには、コンプライアンスコスト増大の問題が避けられないとの見方が強まっており、資金力のある有力ブローカー以外での積極的な施策展開はまだうかがえない状況である。CySECが専門スタッフの拡充を計画するなど、規制範囲の拡大や取引環境の複雑化に対応する人的リソースやコストの増大が問題となる中、近年注目されているのがレグテックである。最近では、レグテックにブロックチェーン技術を採用する動きも見られており、例えば、各企業ごとに独自に保有しているAML情報やKYCプロセスをブロックチェーン上で共有することで、過去の取引記録や不正行為の追跡等に活用できる他、コスト削減も期待されている。業務効率化によって社内リソースを顧客サービス等に回すことで優位性をアピールするなど、各ブローカーがレグテックを必要とする動きは今後益々活発化していきそうだ。
作成日
:2019.06.14
最終更新
:2022.01.27
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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