作成日
:2019.05.07
2022.05.20 13:33
ソーシャルトレーディング・プロバイダーのeToro(UK)Ltd.(本社:24th floor, One Canada Square Canary Wharf E14 5AB London, United Kingdom
)【以下、eToroと称す】は5月6日、株式及びETF取引手数料無料サービスを提供することを発表した。発表によると、eToroは欧州在住で同社の英国またはキプロス法人に口座を設ける顧客に限定し、株式とETFの取引手数料もしくは管理手数料及び印紙税を無料とするサービスを提供するとしており、現状においては、レバレッジをかけずロング(買い)ポジションをとる場合にのみ株式取引手数料が無料になる模様である。なお、eToroのマネージングディレクターを務めるIqbal Gandham氏は、多くの顧客に株式投資を促すべく、サービスの第一段階として手数料を無料にすることを決定したが、顧客からの投資を更に呼び込むにはそれだけでは不十分であるとコメントしており、eToroが一層の顧客サービスの強化を図る意向を持ち合わせていることが伺い知れる。
多くの競合企業がCFDサービスの充実を図っているが、予てよりeToroは株式取引手数料無料サービスを開始する意向を示していた。更に今回、ETFも取引手数料無料サービスを提供することで他社と明確に差別化した戦略を打ち出していると見受けられる。また、欧州ブローカーは顧客重視のサービスが求められる中、特に英国においては個人投資家向けの投資関連手数料体系をどのようなものにするか度々議論の的となっている状況だ。2019年2月に英国行動監視機構(Financial Conduct Authority)【以下、FCAと称す】は、多くの投資サービス会社が提供する手数料体系は不明瞭であるため、投資家が各社のサービスを比較することが困難になっていると指摘している。更に3月にFCAは個人投資家向けの解約手数料を課すことを禁止する意向も示している。そのような市場環境下において、eToroは取引手数料無料サービスを開始することで、価格面の競争優位性を得ようと試みている模様だ。
欧州地域ではFXとCFD取引のレバレッジ制限を課す新規制が導入されたことでブローカー各社はその対応に苦慮している状況である。一方で、マルチアセットクラスの取引環境を整備したり株式取引手数料無料サービスを導入したりするなど顧客志向のソリューションを提供する企業が散見され始めているのも事実だ。例えば米国を拠点とするRobinhoodは株式取引手数料無料サービスを提供することで、高頻度取引を行うトレーダーの莫大な資金の取り込みに成功した最たる企業と言えよう。そして今回、eToroが業界の大きな流れに沿う形で株式及びETF取引手数料無料サービスを開始することにより、更なる顧客取引の拡大が期待できるであろう。
release date 2019.05.07
欧州の金融業界は、欧州証券市場監督局(The European Securities and Markets Authority)による新規制の発表以降、欧州圏からオフショアブローカーへの資金流入が継続している他、ブレクジットに向けての対応に迫られた結果、OctaFXが英国子会社を閉鎖したように、閉鎖へと追い込まれるブローカーも少なくなく、ブローカー各社にとって変化と苦難を強いられる、決して好ましいとは言えない状況が続いている。FX・CFD市場がブローカーの過当競争によりトレーダーを奪い合う市場構造となる中、各社は新しい収入源として株式市場に注目しているようだ。世界株の60%が価値を失ったとも言われるリーマン・ショックから早10年以上が経過し、アベノミクスに代表される株式相場を重視する各国の金融政策により株価が好調な水準を示す中、個人トレーダーも株式取引への信頼を十分回復しつつあると言えるであろう。リーマン・ショック後の10年にてスマートフォンが世界中で爆発的に普及したことにより、トレーダーの取引環境にも大きな変化があり、今後革新的な株式取引サービスが開発されることにより株式市場が改めて活性化されることが期待される。今回のeToroが提供開始するサービスは欧州在住のトレーダーに限定して提供されるようだが、米国と比べ投資文化が根付いていないと言われる欧州において、eToroがどのようにサービスを展開していくのか、今後の動向に注目していきたい。
作成日
:2019.05.07
最終更新
:2022.05.20
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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