作成日
:2019.02.28
2022.01.27 15:09
欧州委員会(European Commission)【以下、ECと称す】が、英国の金融サービス会社とEU(欧州連合)域内の投資会社に対し、より厳格な監督体制を敷くべく新たな規制策の導入に向け、欧州議会及びEU加盟国と合意に至ったことが明らかとなった。
EUの新規制策は、EU域内で事業を営むもののEUの規制枠組みから外れるプロップトレード(証券会社などにおいて自己資金での運用)を行う金融機関やアンダーライター(有価証券の引受業者)といった投資サービスを手掛ける企業を、より厳格な監督下に置くことを目的として、2019年1月に制定されていた。また新規制策においては、EU域内を拠点とする投資会社が、流動性や資本、リスク管理といった面から厳密な調査の対象に含まれることになる模様だ。
ECは、投資サービスを手掛ける企業は銀行と同様な業務を手掛け、銀行が内包する様々なリスクを同じように抱え得る可能性があることから、この度新規制策を課す運びとなったと説明している。これらの投資サービスを行う企業には、常に安定的な資金調達源を確保したうえで業務を行うことを促す安定調達比率(Net Stable Funding Ratio)や、十分な流動性確保を求める流動性カバレッジ比率(Liquidity Coverage Ratio)といった銀行が遵守すべきコンプライアンスやリスク管理体制と同様の規制策が適用される見通しだ。ただしECによれば、EUの新規制策は全ての投資サービス会社に適用されるものではなく、小規模の投資サービス会社に関しては、たとえ銀行と類似する業務を行っていたとしても、リスクを勘案したうえで比較的緩い規制策が適用されるとのことである。
欧州域内の投資会社への新規制策を導入するに際し、ECの副委員長を務めるJyrki Katainen氏は以下のようにコメントしている。
この度欧州議会及びEU加盟国との間で、投資会社への新規制策の導入に向け合意したことは、EU域内の強固な資本市場の形成を図るうえで大きく前進したと思われます。投資サービスを手掛ける大企業とメガバンクの公正な競争を促すため、投資サービス会社にもメガバンクと同様の規制策を適用させる意向であります。これにより、EU域外の企業によりEU域内の投資家へサービスを提供するうえで、投資サービス会社に対し最適なルールブック(規則書)を提示することができるようになるでしょう。
Jyrki Kataine, Vice President at EC - Global Fund Mediaより引用
欧州では監督当局による規制強化の流れが進んでいる。最近では、欧州証券市場監督局(ESMA)がプロフェッショナル顧客の動向調査に乗り出したほか、CySECが仮想通貨規制に関する諮問書を公表し、仮想通貨及び関連の金融商品に対する監督を強化する方針も示されている。欧州全体で規制強化の波が押し寄せる中、金融サービスを手掛ける企業にとっては、顧客満足度の高いサービスを提供するだけでなく、コンプライアンスやリスク管理の徹底といった多角的視野を持った経営のかじ取りが求められていると言えよう。
release date 2019.02.28
欧州において、金融業界の規制の厳格化は加速度的に進んでいる。目まぐるしい変化を遂げるグローバル金融業界において、規制の強化は避けられないことである。その対象となる範囲は仮想通貨や海外FX業界にまで及び、世界的に見ても欧州がリードしていると見られる中、昨年末にはG20で仮想通貨規制に関する声明が発表されている。今回の規制強化では、銀行と同様のサービスを提供する投資会社や資産管理会社が対象となっており、金融システムの安定維持や、公正な競争の実現が狙いのようだが、このような状況下で、企業は新たな規制に素早く順応し、対策を講じることが求められる。今後金融業界での競争がますます激化する中で、顧客にとって付加価値の高いサービスを提供することに対する重要度は増すであろう。しかし、同時にコンプライアンスやリスク管理体制の強化にも注力することで、顧客からの信頼度が高まることに期待したい。
作成日
:2019.02.28
最終更新
:2022.01.27
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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