作成日
:2018.12.17
2021.08.31 15:27
現地メディアのCaracas Chroniclesによると、ベネズエラ政府が、独自に発行する仮想通貨のペトロ(Petro)での年金支給を実施していることが明らかになった。
今月7日、年金受給者は、Motherlandと名付けられた専用ウォレットサービスを通して、1,800ボリバルを一旦受け取ったものの、同日中に「ペトロでの預金」との但し書きと共に受給者の合意なく口座から資金が引き出され、代わりにペトロが支給されたようだ。ペトロは、銀行取引では利用できず、自国の法定通貨であるボリバルへの両替にも複雑なプロセスがあり、簡単には現金化できないのが現状だ。
それにもかかわらず、ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領は、政府のイニシアティブで積極的な利用拡大を目指すことを表明しており、今年8月には、ペトロを給与支払いや年金分野で採用することを決定している。それ以前には、国民のパスポート取得手続きの手数料をペトロで支払うことを義務付けており、更には、政府機関の従業員に対する給与支払いでもペトロを利用することが現在計画されているようだ。
米国のドナルド・トランプ大統領は、同国が南米諸国に課す金融制裁に反するとして、米国でのペトロの取引を禁止している。経済学者であるSteve Hanke氏によると、今の所、ペトロの取引をサポートする世界の金融機関は現れておらず、ペトロを「存在しない偽物」と痛烈に批判した。 ペトロは、一国の通貨としては悪手なもので、ボリバルのハイパーインフレーションを加速させる可能性があり、ベネズエラ経済を更に苦しめる結果を招くと考えられている。
release date 2018.12.17
ベネズエラ政府の主張によると、ウォレットサービスのMotherlandと政府が推し進めるペトロの利用は、進行するハイパーインフレーションが根源となる負の連鎖から脱却するための施策だという。政府は、国民にペトロでの資産保有を推奨すると同時に、政府機関を中心に国内での実利用も推し進めているが、銀行取引や国際決済に利用できないことから、代替通貨としての機能は期待できない状況となっている。一方で、今年5月には、ベネズエラ同様にハイパーインフレーションに悩まされるアフリカのジンバブエで、金融機関での仮想通貨関連業務が禁止されるという対照的な動きが見られた。これまで、ジンバブエでは、輸入商品への代金支払いなどをビットコインを中心とした仮想通貨に依存していたため、この決定は大きな衝撃となった。現在では、国内大手取引所Golixの提訴により、禁止措置は無効となっているようだが、政府の決定以来、仮想通貨の流通は滞ったままだという。ベネズエラは、国家主導のプロジェクトとして取り組んでいるという点でジンバブエとは異なるが、ペトロに関して早くも国民の不満が噴出しており、現時点では、思い描く成功には程遠い状況だと言えるだろう。
作成日
:2018.12.17
最終更新
:2021.08.31
米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。
大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。
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