作成日
:2018.11.15
2021.08.31 15:27
世界200か国以上1,1000もの金融機関が利用する国際決済システムを提供する国際銀行間通信協会(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)【以下、SWIFTと称す】が、米国の経済制裁の影響で、イラン中央銀行の国際決済システムの利用を正式に禁止した。これを受けて、イラン政府は、国家主導の仮想通貨Crypto-Rialの開発を決定したことが明らかになった
イランはSWIFTネットワークから除外されたことにより、輸出入時の国際間決済手段が封じられた状況に追い込まれているが、その打開策として仮想通貨開発の動きが活発になったと考えられている。Crypto-Rialは、イラン中央銀行を中心に、民間の非公開企業のInfomatics Servies Corporation(本社:Marjan Building, No.6, Khajavi Junction, Madadkaran Street, Shah-Nazari Street, Madar Square, Tehran, Iran
)【以下、ISCと称す】の協力のもと開発されているという。ISCのCEOであるSeyyed Abotaled Najafi氏によると、Crypto-RialはSWIFTと同様のメッセージングと決済機能を有しており、SWIFTを利用する必然性はもはや存在しないと述べている。報道によると、しかるべき時が来れば、イラン政府は、Crypto-Rialを発行し、商業銀行などで決済手段としての利用を開始するとのことだ。Najafi氏は、Crypto-Rial開発の目的はもとより、ブロックチェーンテクノロジーや仮想通貨を軸とした、小売りから法制度までを網羅する全ての金融システムの可能性を模索することであり、構想や計画自体は以前から存在していたことを主張している。あくまでもこの度の経済制裁の回避策ではないことを強調しているが、この主張に関して一部のアナリストは懐疑的に捉えているようだ。
Crypto-Rialは、世界の外国為替市場で流通するイランリアルには影響を及ぼさないとされており、米ドルと実質的に交換するため発行されている法定通貨のイランリアルと、1対1の比率でその価値を保証されているという。なお、市場がCrypto-Rialの価値を認めた場合はこの限りではない。
このような国家主導の仮想通貨プロジェクトは、ブロックチェーン業界では話題のひとつとしては取り上げられていたものの、これまでほとんどの先進国で実際に取り組まれてこなかった。新興国の例では、今年ローンチされたベネズエラのペトロなどが注目を集めた。今年初めにロシアのプーチン大統領も、CryptoRubleを導入することにより、経済制裁を回避できる可能性があると言及している。
release date 2018.11.15
仮想通貨を運営するにあたって、ユーザーや投資家の信頼を得るためのガバナンスやレギュレーションの構築は重要な要素として認知されているが、特に他国との取引での利用が想定されるCrypto-Rialは最重要課題だと言えるだろう。これまでに仮想通貨業界は、安定資産のリザーブと監査スキームを基盤としたステーブルコインなどで、信頼性の高い仮想通貨の開発を試みてきた。米ドルに連動したテザー(Tether)やジェミニドル(Gemini Dollar)、 ユーロや日本円に担保されるLCNEMなどがそれに該当する。10月中旬に6つの取引所で取り扱いが開始されたことが大々的に報道されたベネズエラのペトロも、同国に大量に埋蔵されていることが知れている原油を後ろ盾とした国家主導の仮想通貨として当時は期待されていた。しかしながら、実態は、詐欺通貨としての定評がついており、当初の目論見とはかけ離れたものとなった。国家主導のプロジェクトといえども信頼を得ることは容易ではないことは明白だが、イラン政府がCrypto-Rialでこの課題をどのように乗り越えていくか注目していきたい。
作成日
:2018.11.15
最終更新
:2021.08.31
米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。
大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。
金融ライターとして独立後は、暗号資産およびブロックチェーン、フィンテック、株式市場などに関する記事を中心に毎年500本以上執筆。
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