作成日
:2018.10.22
2021.08.31 15:22
10月21日、次世代の金融機関と自称するスイスの仮想通貨取引所のTrade.ioは、同取引所が発行する独自トークンであるTrade Token【以下、TIOと称す】5,000万通貨がハッキングにより不正に流出したことを公表した。被害総額は、ハッキング発生時のレートで1,100万ドル程度だったという。
被害に遭った5,000万TIOは、全てTrade.ioのコールドウォレットから流出しており、その内130万通貨(約197,000ドル)は、KucoinとBancorという2つの取引所にそれぞれ送金されたことが明らかになっている。これに対してKucoinとTrade.ioはTIOの取引を一時停止する対策を打っている。加えて、Trade.ioはハードフォークによって旧通貨を無効化すべきか検討中であるという。翌日には結論が出るというが、ハードフォークが実施される場合、全てのTIO所有者は、新バージョンのトークンに所有通貨を交換する必要がある。今回のハッキング被害は、USBフラッシュドライブなど、ネットワーク上から隔離されたコールドウォレットから不正に流出しただけに比較的珍しいケースで、理論上、ウォレットに物理的にアクセスできる人物の犯行ということになる。ウォレットは、銀行の貸金庫に保管されており、安全性を信頼していたTrade.ioにとっては想定外の出来事となったようだ。
なお、不正に流出したTIOは、取引所の流動資産プールに充てられる予定だったものだという。流動性プールとは、共有のファンドで、Trade.ioが提供する予定だった5,000万通貨に加えて、取引手数料などの売上の一部と、ユーザーから提供される資金などがプールされている。ユーザーは、TIOの2,500通貨をプール金として差し出すことで、この流動性プールの運用スキームに参加が可能となり、利益を配当として受け取るというメリットを享受できる。
脱退も自由で、いつでもプール金は返還されることが約束されているという。なお、Trade.ioは、このスキームが現在でも有効であるとしている。Trade.ioは、2018年7月に開始された新しい取引所で、前年のICO(イニシャルコインオファリング)では5,100万ドルもの資金調達に成功するなど注目を浴び、複数のブロックチェーン関連企業との協業も決めていた。今回の発表の中で、Trade.ioは、ハッキングにも屈さない強い姿勢を示しており、これを糧にサービスを強化することを約束しているが、Bancorからはリスティングを解消されるなど、早速影響が出てしまっているようだ。
release date 2018.10.22
記憶に新しいZaifのハッキング、韓国大手取引所のビッサムやコインレイルでのハッキング、また、昨年12月に破産申請したユービットのハッキング被害は、いずれも外部ネットワークに接続されたホットウォレットで管理する資産が標的となっていた。コールドウォレットでの管理は安全、というのが業界の定説だっただけに、今回のTrade.ioのハッキング被害は衝撃的な例となった。日本国内では、取引に使用しない資産や保有資産の80%から100%をコールドウォレットで保管する取引所も存在しており、安全対策として広く浸透している。確かに、コールドウォレットはネットワークに接続されていないだけに、不特定多数のハッカーに狙われるという心配はないが、今回の件で、施設などの物理的なセキュリティレベルにも気を配る必要性が浮き彫りになったと言える。この衝撃的なニュースを受けて、国内外の取引所はどのような安全対策に打って出るのか、今後の動向に注目したい。
作成日
:2018.10.22
最終更新
:2021.08.31
米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。
大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。
金融ライターとして独立後は、暗号資産およびブロックチェーン、フィンテック、株式市場などに関する記事を中心に毎年500本以上執筆。
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