作成日
:2018.09.04
2022.01.27 17:52
先週、欧州の規制監督当局である欧州証券市場監督局(The European Securities and Markets Authority)【以下、ESMAと称す】は、個人投資家向けに定めた新規制であるバイナリーオプション取引の禁止を3ヶ月間延長することを発表した
が、先週ESMAが発表した内容には、CFDのレバレッジ規制に関するコメントがなく、業界内では様々な憶測が飛び交っている。新規制は、3ヶ月毎に見直されることになっており、介入の範囲や内容などを検討した上で、さらに期間が延長される可能性もあるとしていたため、バイナリーオプションに関しての決定自体は、驚くべきことではないものの、業界内では、8月1日よりリテール顧客を対象に導入されたCFDのレバレッジ規制に関して、何らかのコメントが行われることが期待されていたようだ。
なおバイナリーオプションとは、あらかじめ決められた金額を満期日に差金決済するオプションをいう。また、CFD(Contract for Difference)とは、証拠金をベースとして現物株、指数、先物、通貨などを取り引きすることができる投資商品であり、差金決済により売買を行う取引のことである。
ESMAが主導するレバレッジ規制は、これまでも業界内で広く議論され賛否両論様々な声が挙がっており、当局からの正式な発表が待ち望まれていた。しかし、近年の複雑なルールを伴う規制策を鑑みるとESMAが規制の手を簡単に緩めるとは考えられず、さらにESMAが長期間に渡り検討を行った末に導入を決定した規制をたった3ヶ月間だけで終わらせる理由はほとんど見当たらない。むしろ考えられることは、CFDレバレッジ規制に関して期間延長を見込んでいるだけではなく、より広範囲の欧州全域にわたる金融規制の枠組み構築のためのきっかけとするのではないだろうか。
元々、規制当局によるレバレッジ規制は、高いリスクを伴うCFDやバイナリーオプション取引を行った顧客の約80%が資金を失っているという収益性に対する懸念が理由であり、加えてブローカーによる詐欺や違反行為が目立ってきたことを踏まえ、ESMAは投資家保護や安定した金融市場の推進を図るために監督業務を強化していく方針を掲げた。
以前は、レバレッジを最大でも100倍とし、スプレッドを広く設定するブローカーが一般的であったが、市場の成熟に伴い、競争が激化し、多くの新規参入業者が狭いスプレッドを提供するようになった。これに対してブローカーは薄利となることを避けるため、今度はレバレッジを高く設定するようになった。勿論これはすべてのブローカーが同様の戦略をとるわけではないものの、たとえば、最大500倍のレバレッジが一般化してしまうと、投資初心者やギャンブル好きにとってとてもリスクの高い取引となってしまうのである。また、元々そうでなかったとしても、リスクを顧みずレバレッジ500倍の魅力だけに取りつかれてしまうと、丁半張ったの世界であるギャンブラーのような投資行動をしてしまう可能性がある。一方で、顧客がハイレバレッジで取引を行うと、ブローカーとしては利益があがる。そのため、規制当局は投資家保護を目的に様々な対応策を講じており、現在は顧客自身もハイレバレッジで取引を行うことが資金を失う主な要因であることを認識し始めているようだ。
また、ESMAはレバレッジ規制や、バイナリーオプション取引の禁止以外ににも新規制の下、ブローカーへトレーダーの損益割合のデータ開示を義務付けている。ESMAの新規制については、様々な意見が飛び交っているが、海外FXブローカーにとっては厳しい内容のため、各ブローカーは存続のため対応に追われている毎日だろう。
release date 2018.9.4
欧州では規制当局によるブローカーへの監視がますます厳しくなっている。規制強化の背景として、未登録ブローカーの急増によりライセンスを保持するブローカーらによる違法行為が増えたことによる投資家の被害増加が挙げられ、規制当局は既存の規制では投資家保護が不十分であるとの見解を示し投資家のリスクを最小限に抑えるべく動き出した。欧州においては、今年から導入されている第二次金融商品市場指令(MiFID II)にてESMAの権限が拡大され、これに伴い、ESMAはバイナリーオプションの禁止をはじめ、レバレッジの引き下げやゼロカットシステムの適用などの様々な新しい規制を検討しだし、今年8月にはバイナリーオプション取引禁止とリテール顧客に対するCFDレバレッジが最大30倍に制限された新規制の導入が正式に発表された。このような欧州における規制強化によって、すでに欧州を拠点とするブローカーらは別のマーケットへ移行するなどの新たなビジネスプランを模索し始めており、今後欧州市場はFX・CFDブローカーにとって魅力的なマーケットではなくなっていく可能性が考えられる。
作成日
:2018.09.04
最終更新
:2022.01.27
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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