作成日
:2024.03.13
2024.03.13 16:11
2024年2月26日から、Mantleで「MIP-29」に対する投票が開始されました。当記事執筆時点(2022年3月4日)でほぼ100%の賛成票が投じられており、可決が決定的となっています。
当記事ではMantle EcoFundの現状や、新たな提案の内容、可決によりもたらされる影響について解説します。
画像引用:Mantle
Mantleはイーサリアム(ETH)のレイヤー2プロジェクトであり、MNTはMantleの独自仮想通貨(暗号資産)です。
多くのブロックチェーンは、異なる役割を持つブロックチェーンが階層別に独立して相互通信する「レイヤー構造」になっています。基礎的な役割を担うブロックチェーン層をレイヤー1と呼び、レイヤー1の情報処理を助ける層をレイヤー2と呼びます。
Mantleは、BitDAOが立ち上げたプロジェクトです。BitDAOは大手取引所Bybitが支援するDAOで、DeFi(分散型金融)を中心に多くのプロジェクトに投資しています。2023年6月、BitDAOはMantleにリブランディングしています。
DAOは、Decentralized Autonomous Organizationの略で、日本語で「分散型自立組織」と訳されます。つまり、中央管理者が存在しなくとも、参加者の活動によって機能する組織を指します。中央集権型の組織と比較して民主的で透明性が高いと見なされており、ブロックチェーンの普及で広く採用されています。
DeFi(ディーファイ)とは、銀行や仮想通貨(暗号資産)取引所などの金融サービスの分野でブロックチェーンを活用した、分散型金融と呼ばれる金融エコシステムです。分散型金融を意味する英語の「Decentralized Finance」の頭文字を取ってこのように呼ばれます。
仮想通貨MNTはMantleで使用されるトークンです。ガバナンストークンとしてもユーティリティトークンとしても使用されます。
ガバナンストークンとは、DeFi(分散型金融)のサービスにおいて、プロジェクトの新しい機能の追加・削除・変更や、開発などの方針の提案(投票)を行う権利を持つトークンのことです。ガバナンストークンを多くの利用者に配ることは、プロジェクトの分散化を目的としており、保有者はDeFiサービスの運用に関わることができます。
ユーティリティトークンは何らかの実用性を持った仮想通貨を指します。具体的には、特定のサービスへアクセスしたり決済に利用したりできます。
なお、BitDAOが発行していたBITトークンは、1:1の割合でMNTトークンに交換されました。
画像引用:CoinMarketCap
当記事執筆時点(2024年3月4日)で仮想通貨MNTの価格は約132円で、最高値付近を推移しています。CoinMarketCapによると、時価総額は約4,200億円で全仮想通貨ランキング中43位です。
画像引用:Mantle
Mantle EcoFundは、2023年7月に立ち上げられたMantleの投資ファンドです。Mantleエコシステムを拡大させるために、3年間で合計2億ドルを関連プロジェクトに投資する予定です。
目標としては、40以上のプロジェクトに投資して、MOIC(投下資本倍率)1.5倍が設定されています。
投下資本倍率は、英語でMOIC(Multiple On Invested Capital)と訳せます。投下した資本に対して、どのくらいの利益を生み出したかを測る指標として利用されます。高ければ高いほど、より効率的に利益を生み出したと解釈できます。
Mantle EcoFundの合計2億ドルの資金の内訳は、Mantleが拠出する1億ドルと、戦略的ベンチャーパートナーが出資する1億ドルです。基本的に、戦略的ベンチャーパートナーが投資額の半分を負担する形になっています。
Mantle EcoFundは、これまで10プロジェクトに合計1,000万ドルを投資し、一定の成果を上げています。
2023年9月から2024年1月にかけて、Mantleチームは合計252の仮想通貨プロジェクトを精査しました。
そのうち58(約2割)のプロジェクトでは、創業者の経歴・製品とロードマップ・トークノミクス・Mantleネットワークへの戦略的価値などについて、詳細なデューデリジェンスが行われました。
最終的に10(約4%)のプロジェクトに絞り込まれ、Mantle EcoFundは合計1,000万ドルの投資を実行しています。
デューデリジェンスとは、投資判断を下す際に、どのようなリスクが存在するのかを明確にするプロセスです。仮想通貨投資の場合、規制や開発チーム、パートナーシップの有無などの確認が該当します。
Mantle EcoFundが投資した10プロジェクトは、以下の通りです。
番号 |
項目名 |
説明 |
---|---|---|
1 |
Valent |
固定レートを提供する次世代型レンディングプロトコル |
2 |
Range Protocol |
オンチェーンアセット向けのパーミッションレス管理プロトコル |
3 |
LiquidX |
Web3ゲーム「Pixelmon」などを開発するベンチャースタジオ |
4 |
TsunamiX |
トレーディングにゲーム要素を統合した分散型取引所 |
5 |
Mufex |
CEX(中央集権取引所)レベルのUIを兼ね備えた、マルチチェーン対応のパーペチュアル取引所 |
6 |
Butter |
投機的なトレードに特化したDEX(分散型取引所) |
7 |
INIT Capital |
次世代型マネーマーケットプロトコル |
8 |
Merchant Moe |
革新的な流動性システムを提供するDEX |
9 |
Renzo |
イーサリアムよりも高い利回りを提供するEigen Layerのリステーキングトークン |
10 |
未公開 |
未公開 |
Mantle EcoFundが投資した上記10プロジェクトは、Mantleエコシステムの成長を牽引しています。
例えば、Merchant Moeはローンチ当日に4,700人のアクティブユーザーを記録し、最初の1週間で2,500万ドルのTVL(預かり資産)を集めました。また、INIT Capitalはローンチから2週間で4,900万ドルのTVLを集めたようです。
TVLはTotal Value Lockedの頭文字をつなげた言葉で、ブロックチェーンやDApps(分散型アプリケーション)に預け入れられた仮想通貨の総額を示します。この金額は人気のバロメーターとしても使用されます。
また、上記10プロジェクトはMantle EcoFundからの「お墨付き」を得たこともあり、提携ファンドなどから合計3,000万ドル以上の追加出資を受けたようです。具体的には、Bankless VenturesやNomad Capitalなどが投資を行いました。
2024年2月26日からMantleで「MIP-29」に対する投票が始まり、可決される見込みです。
そもそもMIPとは「Mantle Improvement Proposal」の略で、MIP-29は「Mantleエコシステムを改善するための29個目の提案」という意味です。
MIP-29の提案はMantle EcoFundに対するもので、内容は以下3点になります。
Mantle EcoFundは、3,000万ドルの新規投資を行います。
Mantle EcoFundはすでに合計1,000万ドルの投資を10プロジェクトに実行しています。数百におよぶプロジェクトを精査したうえで投資が行われたこともあり、投資先プロジェクトの経過は順調のようです。
MIP-29では前回の3倍規模の投資が承認されるため、Mantle関連プロジェクトへのさらなる資金流入が期待できます。
Mantle EcoFundは、アクセラレーター・インキュベーター・ベンチャースタジオ・ファンドに投資対象を拡大します。これらは、立ち上がったばかりの新規プロジェクトに資金提供やアドバイスを行うベンチャーファンドです。
これまでMantle EcoFundは、Mantle関連の仮想通貨プロジェクトに直接投資してきましたが、今後はファンドにも投資していくようです。
ファンドへ投資対象を広げる理由は、新しい仮想通貨プロジェクトの安定供給や、業界でのコネクションの獲得などが挙げられています。
Mantle EcoFundのガバナンス体制が変更されます。
Mantle EcoFundの「投資委員会(Investment Committie)」メンバーが変更されます。投資委員会は、Mantle EcoFundの投資判断を行うなど重要な役割を持ちます。
新しい投資委員会は、下記のメンバーで構成されます。
投資委員会の投資承認プロセスが、下記のように変更されます。
キャピタルコールとは「ファンドへの資金提供を呼びかけること」です。Mantle EcoFundが新たな投資を行う際には、キャピタルコールが行われることになります。
Mantle EcoFundのキャピタルコールを行うための条件が、下記のように変更されます。
MIP-29が可決されることで、以下の影響が考えられます。
MIP-29が可決されると、合計3,000万ドルがMantle関連プロジェクトに投資されることになります。これがインセンティブとなり、多くの開発者がMantle関連プロジェクトに参加すると、エコシステムの拡大が期待できます。
Mantleのようなイーサリアムレイヤー2のプロジェクトが成功するためには「多くの開発者を呼び込むこと」が重要です。レイヤー2は市場に多数存在しており、DApps(分散型アプリケーション)を構築する開発者の取り合いとなっています。
そのような中Mantle EcoFundは多額の資金を使い、開発者を呼び込めることが強みとなるでしょう。
MIP-29の可決後は、Mantle EcoFundはアクセラレーターなどのベンチャーファンドに投資することが可能となります。
これまでMantle EcoFundは、Mantle関連の仮想通貨(暗号資産)プロジェクトに直接投資してきました。しかし、ファンド単体では安定的かつ継続的に投資を実行していくためのリソースが限られています。
その点、ベンチャーファンドは数多くのスタートアップや仮想通貨プロジェクトに投資しています。Mantle EcoFundはベンチャーファンドに投資することで、間接的に多くのプロジェクトに対してエクスポージャーを獲得できます。
これからは、Mantle EcoFundの四半期報告書がコミュニティに共有されます。四半期報告書とは、3ヶ月ごとの運用パフォーマンスなどを記載したものです。
Mantleコミュニティは、定期的にMantle EcoFundの運用状況を把握可能になります。透明性の高いファンド運営により、コミュニティとの信頼関係の向上が期待できます。
2023年7月に始動したMantle EcoFundは、これまで順調に拡大を続けてきました。大規模なエコシステム投資を行っていることに加え、ファンドの運営方法を継続的に改善しています。
2024年は仮想通貨市場全体が活気づいていることもあり、MIP-29をきっかけとしてMantle EcoFundはさらに躍進しそうです。
作成日
:2024.03.13
最終更新
:2024.03.13
元証券会社勤務。2017年から仮想通貨に投資し、バブルとどん底の両方を経験する。2020年からは海外スタートアップや仮想通貨関連のライターとして独立。海外移住が趣味で、カナダ・オーストラリア・アメリカ・オランダなどを転々としている。
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