作成日
:2020.11.05
2022.01.07 10:28
欧州証券市場監督局(The European Securities and Markets Authority)【以下、ESMAと称す】は、ドイツを拠点とするフィンテック企業のWirecard AG【以下、Wirecardと称す】の破綻を受け、ドイツ連邦金融監督局(Die Bundesanstalt für Finanzdien Stleistungsaufsicht)【以下、BaFinと称す】と財務報告規制パネル(Financial Reporting Enforcement Panel)【以下、FREPと称す】の財務報告スキームに関する審査結果を公表した。
欧州委員会(EC)による要請を受け、ESMAはドイツの財務報告制度を審査する意向を示していた。修正版のESMA規則と新たなピアレビューメソドロジーを導入した規制下において、ESMAは単一規制市場と発行体1社のみを対象とした初めてのピアレビューを実施したという。
今回の審査においては、BaFinとFREPによる財務情報の執行に関するガイドライン(Guidelines on the Enforcement of Financial Information, GLEFI)の適用動向や、財務報告分野においてドイツが導入する2層制の監督システムの問題点を主に調査したとのことだ。そしてピアレビューの結果、複数の監督不備や非効率性、法的・手続き面における問題が認識されたという。具体的には、従業員株主情報の欠如に加えてBaFinが同国財務省(Ministry of Finance, MoF)の影響を受けていることに鑑み、BaFinの発行体及び政府からの独立性を疑問視している。また、BaFinとFREPによるリスクベースの市場モニタリングや、FREPによるWirecardに対する審査プロセスに加え、財務報告分野における監督システムの有効性に関しても問題点として指摘している。
審査結果の公表に際し、ESMAの局長を務めるSteven Maijoor氏は以下のようにコメントしている。
Wirecardの破綻は、質の高い財務報告の重要性に加え、EU圏内で一貫した効果的なレポーティング規制を確立する必要性を再認識させるものであります。今回のピアレビューにおいて、同社の財務報告に関する監督及びエンフォースメント(法執行)の問題点を把握したことにより、ドイツの財務報告制度の見直しに寄与することができるでしょう。
Steven Maijoor, Chair of ESMA - ESMAより引用
ESMAによるピアレビューの結果報告を受け、BaFinを始めとするドイツ当局が如何なる監督スキームを構築するか注目したい。
release date 2020.11.05
ドイツ検察当局によると、Wirecardは2015年から粉飾決算を行ってきたと見られ、以前より大手メディアや内部告発によって同社の不正が指摘されていた。一方、ESMAが今回公表した審査結果においては、BaFinとFREPの連携不足やBaFinによる独自調査権限の欠如が問題点として挙げられており、ドイツの金融監督体制が十分に機能していなかったと言わざるを得ない。他方で、コロナ禍でフィンテック企業が存在感を増す中、海外FXブローカーが優れたテクノロジーを誇るフィンテック企業と提携し、利便性向上やコスト削減などに寄与するソリューションの提供を試みている状況だ。直近では、EuropeFXがTradencyと提携し、FX向けロボアドバイザーであるRoboXを導入している。テクノロジーの進化に伴い市場環境が目まぐるしく変化する中、グローバル規制当局は新たなイノベーションの創出促進に加え、市場で影響力を強めつつあるフィンテック企業を含む包括的な規制スキームの構築が求められていると言えそうだ。
作成日
:2020.11.05
最終更新
:2022.01.07
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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