作成日
:2020.11.02
2021.08.31 15:31
複数の専門家は、2021年のフィンテック業界を見据える上で、仮想通貨取引の拡大やP2P(ピア・ツー・ピア)サービスの増加、フィンテック規制における当局の連携強化など、7つのトレンドが生じているという。
Securrencyの政策・政府関係部門ディレクターを務めるJackson Mueller氏は、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックが世界中の実体経済に甚大な影響を及ぼす中、フィンテック業界における最も重要なトレンドの一つとして、人々の金融に対する認識の変化を挙げている。新型コロナウイルスの感染拡大が長引く場合、貸し出しや決済、ウェルスマネジメント、デジタル資産などの分野において、新たな金融サービスの活用が進む可能性があるとのことだ。既に決済分野においては、キャッシュレスもしくは法定通貨を用いない代替的な手法の活用が活発化している。Mueller氏は、現行のグローバル金融システムが何百万人にも及ぶ米国人の家計・資産形成に悪影響を及ぼしている一方、ポストコロナの世界においては、次のグローバル経済不況に対応すべく、技術的進歩と革新的なプラットフォームが重要な役割を担うことができると指摘している。
伝統的な金融エコシステムからの認識変化により、メリットを受ける業界の一つが仮想通貨だ。AIを活用した仮想通貨分野のリサーチ会社であるToken Metricsの創業者兼最高経営責任者を務めるIan Balina氏は、2021年のフィンテック業界における最も重要なトレンドが仮想通貨になると見ている。同社はビットコイン価格(BTC/USD)が20,000ドルを突破すると予想しており、主要メディアにおいて高い注目を集める可能性があるという。Balina氏はペイパル(PayPal)やスクエア(Square)、フェイスブック(Facebook)、JPモルガンチェース(JP Morgan Chase)、サムスン(Samsung)などの一流企業が仮想通貨分野に多大な投資を行っていることが、同分野の更なる発展に寄与すると指摘している。またDMM Foundationの設立者であるGregory Keough氏は、パンデミックが収束した後、デジタル資産が現行の金融システムに組み込まれる他、中央銀行発行の独自デジタル通貨(Central Bank Digital Currency, CBDC)やDeFi(分散型金融)分野において、USDコイン(USD Coin)などのステーブルコインの活用が進むと見ている。更に、Kick EcosystemとKick EXの創業者兼最高経営責任者を務めるAnti Danilevski氏によると、仮想通貨は売買が簡単であり、国際的に分散され、リスクヘッジに適していることから、急成長する可能性を秘めているという。
LiquidAppsの共同創業者兼最高経営責任者を務めるBeni Hakak氏は、世界中の顧客を対象としたP2Pソリューションの活用が進んでいると述べている。中でもP2Pのレンディングプラットフォームや資産取引自動化などの分野において、分散型台帳技術(Distributed Ledger Technology, DLT)を活用した新たな適用事例や、ビジネスモデルが散見されているという。更に、Hakak氏によると、DeFiシステムにおける利便性は常に向上しており、取引量や顧客基盤が2倍、3倍になるのは時間の問題だという。
また、DeFiに基づく仮想通貨取引量が大きく拡大していることもトレンドの一つと言える。新型コロナ禍において、新たな収益源の獲得を目論む投資初心者が、フィンテックの活用を推し進めている。例えば、TikTokの投稿を基に、多くの投資初心者がロビンフッド(Robinhood)を通じてドージコイン(Dogecoin)を取引しているという。Balina氏は、将来的に投資の世界で中心的な存在となり得る新たな投資家層は、ソーシャルメディアを介して投資分析を行う傾向にあると見ている。
2021年においては、機関投資家によるビットコイン(Bitcoin)投資が拡大すると見られている。METACOのセールス・業務開発部門バイスプレジデントを務めるSeamus Donoghue氏によると、フィンテック業界における最大のトレンドは、ビットコインが世界で最も利用される担保資産として発展すると共に、現行の金融システムとの統合が進むことだという。特に、米国では仮想通貨と伝統的な金融システムとの統合が大きなテーマとなっており、米通貨監督庁(Office of the Comptroller of the Currency, OCC)が米国を拠点とする銀行及び連邦貯蓄金融機関(Federal Savings Association, FSA)による仮想通貨のカストディサービスの提供を認める通知を発令している。
Mueller氏は、パンデミックが終息するか否かに関わらず、2021年に向けてフィンテックの活用を促す規制面における2つのトレンドが続くと見ている。フィンテックが有するボーダレスな特性を活かすと共に、産業のコンバージェンス(融合)が加速する中、州および連邦レベルの規制当局が、デジタルな規制手法の導入と規制の調和を進めるという。
Danilevski氏によると、付加価値の高い個人情報の取り扱いが拡大する中、フードデリバリーやクラウドストレージなど、あらゆる業界及び人々がフィンテックを活用する流れは止まることがないという。一方、米国金融博物館(Museum of American Finance)のコミュニケーションズアドバイザリーパネル共同議長を務めるDaniel P. Simon氏は、テクノロジー企業特有の考えを金融に持ち込むことは、必ずしも成功するものではないため、企業がフィンテック業界に参入する際は十分に注意を払うよう促している。
今回、専門家が挙げた様々なトレンドを基に、フィンテック企業や伝統的金融機関が如何なるソリューションを提供するか注目したい。
release date 2020.11.02
フィンテック業界にとって、2020年は大きなパラダイムシフトの年となっている。新型コロナウイルスのパンデミックをきっかけに、世界中の様々な業界においてボーダレスな特性を持つフィンテックの活用が進む中、現行のグローバル金融インフラを変革する勢いを持っている。フィンテック企業が有する優れたテクノロジーの活用事例は枚挙にいとまがない。直近では、EuropeFXがRoboXを導入し、FX取引の自動化を推し進めている。またペイパルが仮想通貨の取り扱いを開始することを発表している他、FXCM ProがCentroidと提携し、リスク管理関連の自動化ソリューションの提供を試みている。更に、証券投資や資産管理の分野においては、ロビンフッドやレボリュート(Revolut)などの新興勢力が急速に顧客基盤を拡大させている。コロナ禍でフィンテック企業が存在感増す中、多くの金融サービスプロバイダーが、利便性向上に寄与する革新的なソリューションを提供することに今後も期待したい。
作成日
:2020.11.02
最終更新
:2021.08.31
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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