作成日
:2020.05.29
2021.08.31 15:33
ロシア中央銀行は、米国・ニューヨークを拠点とする投資銀行のMorgan Stanley(本社:1585 Broadway, New York, NY 10036, United States
)【以下、モルガンスタンレーと称す】のロシア法人であるLimited Liability Company Morgan Stanley Bankが保有する銀行ライセンスを、2020年5月27日付で取消す決定を下した。今回の決定は、ロシア中央銀行の第一副総裁兼銀行監督委員会(Banking Supervision Committee)の委員長を務めるD. Tulin氏の指示に従って行われたという。モルガンスタンレーはロシア事業を縮小させるものの、長期的観点からモスクワでのプレゼンスを確保すべく、同国の拠点を維持し雇用を継続すると共に、投資銀行とキャピタルマーケッツ業務は継続してサービスを提供する方針だ。
モルガンスタンレーは1990年代からロシアに進出し、2005年6月に銀行ライセンスを取得している。2018年12月に、モルガンスタンレーはロシア事業を縮小する意向を示した後、ロシア中央銀行が同行のライセンスを取消す流れとなった。関係者の話によると、モルガンスタンレーが事業縮小を明らかにした際には、為替・株式トレーディング及びセールスデスクを閉鎖する方針とのことであった。また、同行のロシア法人は事業の再構築案をまとめ、2020年3月31日に任意清算を決断し、銀行ライセンスと証券市場ライセンスの取消し申請をロシア中央銀行に行っていた。
尚、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大により、ロシア通貨のルーブルは売りを浴びている。また、ファンダメンタルズが脆弱なトルコも同様に資金流出が鮮明だ。新型コロナ禍においてトルコリラの流動性リスクが高まる中、BNPパリバがトルコリラの新規注文停止をしたほか、ThinkMarketsとOANDAジャパンはトルコリラ関連の取引制限措置を講じている状況である。
ロシアが新型コロナウイルスの感染拡大による経済低迷にあえぐ中、モルガンスタンレー以外の金融機関も、同国において難しい経営の舵取りを強いられていると言えそうだ。
release date 2020.05.29
ロシアの金融市場は、欧米など他のグローバル金融市場と比較して、競争力が大きく低下している状況だ。モルガンスタンレーが同国での事業縮小を決断した背景として、2014年にロシアがクリミアを併合したことをきっかけに、欧米諸国による制裁などを受け、ロシア経済の先行き不透明感への懸念が強まっていることが挙げられる。また2018年12月には、ロシア中央銀行がAlpariなど複数の海外FXブローカーのライセンスを剥奪したことで、多くのブローカーが隣国のベラルーシなどにシフトしており、ロシアFX市場の競争力は大きく低下している。更に、新型コロナウイルスの感染拡大により、同国の実体経済及び金融市場に甚大な影響が及ぶ中、未認可ブローカーによるFXサービスが急増しており、ロシアの金融市場は健全性を失い、安定的にサービスを提供できる環境が整備されていないと言えるであろう。投資銀行の事業縮小や海外FXブローカーによる同国からの撤退が相次ぎ、同国の金融市場の魅力や競争力が大きく低下する中、政府及び規制当局が如何なる策を打ち出すか注目したい。
作成日
:2020.05.29
最終更新
:2021.08.31
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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