作成日
:2018.12.14
2021.08.31 15:27
米国・ニューヨークを拠点とする巨大投資銀行であるMorgan Stanley(本社:1585 Broadway, New York, NY 10036, United States
)【以下、モルガン・スタンレーと称す】が12月13日、近日中に同社ロシア法人の為替・株式部門のトレーディング及びセールスデスクを閉鎖する意向であることが明らかとなった。金融・経済情報の配信を手掛けるブルームバーグが報じた匿名の関係者の話によれば、スタッフの一部をロンドンオフィスへと配置転換を行うと共に、その他のポジションは全て削減される模様だ。なお、モルガン・スタンレーロシア法人には、株式・為替部門のトレーディング及びセールスデスクに40名のスタッフが在籍しているとのことである。
モルガン・スタンレーでは、引き続きロシア事業にコミットすると共に、モスクワの地で長期的な観点に立ちプレゼンスの維持を図る意向を持っている。また同社顧客に関しては、今後も企業の合併・買収(M&A)アドバイザリーサービスを中心とした投資銀行業務や、資金調達アドバイザリーサービスなどを手掛けるグローバルキャピタルマーケッツ業務などの金融サービスを利用頂くことが可能とコメントしている。
モルガン・スタンレーがロシア事業を縮小させる背景には、2014年にロシアがクリミアを併合したことをきっかけに、米国とEU(欧州連合)がロシアに対し制裁を科したことが端を発していると考えられる。また、いわゆるロシアゲートと呼ばれる、2016年米国大統領選挙において、ドナルド・トランプ大統領を勝たせるためにプーチン政権が介入した疑惑がもたれているが、実際にはトランプ大統領はロシア経済に打撃を与えるべく制裁を続けていることも、モルガン・スタンレーの経営判断に大きく影響していると伺える。例えば2018年8月には、トランプ政権はロシアに対し米国のクレジットサービスへのアクセスを制限し、その他米国の政府機関によるロシアへの融資や財政支援を禁じている他、国家安全保障に関わる製品やテクノロジーの輸出も停止する制裁を課している。
ロシアがクリミアを併合した2014年以降、大手金融機関の多くがロシア事業を縮小させており、ドイツ銀行やクレディスイスの両行も過去数年に亘りモスクワでの事業を縮小させている状況だ。米国やEUによる制裁が科せられる中、クリミア侵攻後、ロシア通貨のルーブルは価値が半減している。そのような環境の中、ロシア中央銀行が2018年9月に予想外の金利引き上げを実施したため、金融市場はいったん落ち着いてはいるものの、更なる制裁の可能性もあることから、ロシア経済・金融市場の先行きに対して不透明感が高まっていると見られる。
release date 2018.12.14
今回発表のあったモルガン・スタンレーのロシア事業の縮小により、同社のロシア企業アナリストはすでにロンドンに移っており、同社におけるロシアでの事業は、銀行免許を得てモスクワにフルサービスのオフィスを開いた1994~2008年当時の規模に縮小することとなった。米国が今年、ロシアのエネルギー企業En+とアルミニウム大手ルサールを制裁対象に指定し、上場企業が初めて制裁対象となったことから中堅企業6社がモスクワで予定していたIPO(Initial Public Offering、新規公開株)を取りやめている。ドイツ銀行もまた、米英当局から「ミラートレード(シストレ)」という手法で100億ドル(約1兆1000億円)もの金額をロシアへ資金洗浄していたと告発された後、ロシアの投資銀行部門を閉鎖してモスクワでの事業を縮小している他、米ゴールドマン・サックスなどの投資銀行も人員を縮小している。米ロの政治面の主導権争いが激しさを増す中、制裁を通じたロシア経済への影響も憂慮されており、モルガン・スタンレーに限らずその他の大手金融機関にとっても、ロシアでの経営の舵取りは難局を迎えていると言えそうだ。
作成日
:2018.12.14
最終更新
:2021.08.31
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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