作成日
:2020.04.10
2022.01.13 14:02
バーゼル銀行監督委員会(Basel Committee on Banking Supervision, BCBS)【以下、バーゼル委員会】は4月8日、2019年6月30日時点のデータに基づく最新のバーゼルⅢモニタリングレポートを公表した。
バーゼル委員会によると、同レポートは2010年にバーゼルⅢが制定された後、2017年12月に同規制の最終化の合意がなされ、2019年1月にマーケットリスクの自己資本規制枠組みの最終化を受けたバーゼルⅢの影響をモニタリングするものであるとのことだ。ただし、2019年6月末基準のデータであるため、モニタリング結果には新型コロナウイルス(COVID-19)が対象金融機関に与える経済的影響が反映されていないという。
今回のモニタリングにおいては、グローバルなシステム上重要な銀行(Global Systemically Important Banks)【以下、G-SIBsと称す】に位置づけられる30行や、ティア1(最高クラス)の資本額が30億ユーロを超え、国際的に活動している銀行を指すグループ1に属する105行、ティア1の資本額が30億ユーロ未満もしくは国際的な活動を行っていない銀行を指すグループ2に属する69行からデータの提供を受けたとのことである。バーゼル委員会によると、最終化されたバーゼルⅢ基準の完全実施による、グループ1に属する銀行に求められるティア1の最低所要資本(Minimum Required Capital, MRC)規制が与える影響は、2018年12月末時点と比較すると小さくなった模様だ。尚、G-SIBsのうち2行に関しては、マーケットリスクの枠組み改定時において過度に保守的な見積もりをしたため、全体から大きく外れた結果になったという。
2019年6月末時点の最低所要水準及び資本保全バッファーの合計に対する資本不足額は、バイアス縮小推定に基づく場合、グループ1全体で166億ユーロ、保守的な概算に基づくと203億ユーロとなり、2018年12月末時点の247億ユーロより減少したとのことだ。また今回のモニタリングにおいては、バーゼルⅢ基準の流動性規制に関するデータも各行から集計されたという。グループ1の流動性カバレッジ比率(Liquidity Coverage Ratio, LCR)の加重平均値は136%、グループ2は177%であり、モニタリング対象の全行が100%以上に達していた模様だ。加えて安定調達比率(Net Stable Funding Ratio, NSFR)の加重平均値に関しては、グループ1が116%、グループ2が120%であったという。また、2019年6月時点においては約96%の銀行が、バーゼルⅢで求められる100%以上であり、全行が90%以上に達していたとのことである。
尚、バーゼル委員会の上位機関にあたる中央銀行総裁・銀行監督当局長官グループ(Group of Central Bank Governors and Heads of Supervision, GHOS)は、2017年12月に最終化されたバーゼルⅢ基準の段階適用及び完全実施を共に1年間先送りし、それぞれ2023年1月1日、2028年1月1日までとすることで合意に達している。今後も、バーゼル委員会の強固な金融システムソリューションに向けた取り組みに期待したい。
release date 2020.04.10
バーゼル委員会は、グローバル金融機関を対象とした国際的なルールの取り決めを行う機関である。同委員会は国際展開をする金融機関の健全性・強靭性の強化を図るべく、自己資本比率及び流動性比率の国際基準を定めたバーゼルⅠ、その見直しを行ったバーゼルⅡに続き、自己資本規制の厳格化などが決められたバーゼルⅢを公表した。その後、リスク計測手法などの見直しを行った上で、バーゼルⅢは2022年からの段階的導入及び2027年からの完全実施で合意されていた。しかしながら、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を大きく受ける市場環境に鑑み、1年間の実施先送りが決定されている状況だ。他方で実体経済及び金融市場が混乱する中、世界各国の規制当局が金融市場の安定化に向けた施策を矢継ぎ早に講じている。例えば、MASが為替介入データの公表を前倒ししたほか、FCAは最良執行の報告義務要件を緩和している。また、EU各国当局は空売りを禁止する緊急措置を講じた。新型コロナウイルスが金融市場に甚大な影響を及ぼしている中、今後もグローバル規制当局の動向を注視する必要がありそうだ。
作成日
:2020.04.10
最終更新
:2022.01.13
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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