作成日
:2020.01.09
2021.08.31 15:29
1月8日、米軍によるイラン精鋭部隊のガセム・ソレイマニ(Qasem Soleimani)司令官殺害の報復として、イランは米軍が駐留するイラクの基地に弾道ミサイルを発射した。中東情勢を巡る緊張が高まるなか、リスク回避の動きが強まり、円が急騰(米ドルは急落)したほか、金が大幅高となる場面が見られた。
イランによる報復を受け、安全資産とされる円は、一時0.6%高の1米ドル=107.74円と、3か月ぶりの高値水準まで上昇したほか、スイスフランも0.3%高の1米ドル=0.9674フランまで上昇した。また金が18ドル上昇し、1オンス=1,592.50ドルと、2013年以来の高値水準まで買われた。これに加えて、中東情勢が緊迫するなか、原油供給が滞る懸念が浮上していることを受け、原油価格も直近の下げを帳消しにしている。一方で、株式は大幅下落している。CMC Marketsシドニーのアジアパシフィック部門セールストレーディングヘッドを務めるAshley Glover氏は、市場は急速にリスクオフ姿勢を強めているが、早朝のアジアの取引が始まったばかりで、今後流動性が増すことが予想されるほか、新たな報復が生じる可能性もあり、トレーダーは米国動向を見守るべく様子見姿勢でいるとコメントしている。
イランによる弾道ミサイル攻撃は、アサド空軍基地(al Asad airbase)など複数箇所が狙われたと、米政府当局者が匿名を条件にロイターに明らかにした。また米国防総省(Pentagon)は、イランから弾道ミサイルが発射されたと声明を出す一方で、イランのメヘル(Mehr)通信は、イラン指導部直轄のイスラム革命防衛隊(Islamic Revolutionary Guard Corps)が攻撃を行ったと報じている。尚、イランによる米国への攻撃は、ソレイマニ司令官の葬儀が行われた数時間後に実行に移された模様だ。
現状、イランによる攻撃を受けた米軍基地の具体的な被害状況や犠牲者などは明らかとされていない。ホワイトハウス(White House)のスポークスパーソンであるStephanie Grisham氏によると、ドナルド・トランプ大統領にイランの攻撃を説明し、同大統領は状況を精査するとのことだ。尚、米国防長官のMark Esper氏は、ソレイマニ司令官の殺害を受け、イランからの報復に備えるべきだとコメントしていた。同司令官は、イラクに駐留する米国軍の追放を宣言しているイラン革命防衛隊の中核人物であり、中東全域にわたる民兵組織を作り上げたとされる。あるイラン政府高官は、同司令官殺害の報復のため、複数のシナリオを検討中だという一方で、別の政府高官は中東及びアフリカのイスラム圏に広がるイスラム共和制国家(Isramic Republic)が報復ターゲットになるであろうが、時期や場所に関しては検討の余地があるとコメントしていた。
今後に関しては、イランによる報復を受け、トランプ大統領が指揮を執る米国がどのような動きに出るのか見守る必要がありそうだ。
release date 2020.01.09
トランプ大統領はツイッターに、イランによる報復行為に関して、被害は限定的であったとの認識を示すと共に、日本時間8日夜から9日未明に声明を発表すると投稿した。一般的に、他国からの攻撃による米国の対応は、米国人死傷者の有無などの被害状況に応じて異なってくるという。今後、トランプ大統領が如何なる発言をするのか、市場関係者にとっては予断を許さない状況といえるであろう。一方で、イランの政府高官が、米国との戦争を望んでいないと発言したことを受けて円が急落(ドルが急騰)したように、引き続き米イラン情勢を巡るニュースヘッドラインに振り回される展開となりそうだ。また、ウォール街ではイランのサイバー攻撃への警戒も高まっており、米イラン間の緊張状態が続く見通しである。他方で、ビットコイン価格が過去30日間の高値に到達するなど、仮想通貨市場では買いの勢いが強まっている模様だ。今後も地政学リスクの高まりを受け、FX市場のボラティリティが大きく高まることが予想される。OANDAがFieldsと提携し、高ボラティリティ時の取引コスト削減を目指すなど、効率的なリスク管理ソリューションを提供する海外FXブローカー動向にも注目したい。
作成日
:2020.01.09
最終更新
:2021.08.31
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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