作成日
:2019.12.20
2021.08.31 15:29
世界最大のデリバティブ取引所を運営するCME Group Inc.(本社:20 South Wacker Drive Chicago, Illinois 60606 USA
)【以下、CMEと称す】が、1日当たりと累積のFX取引高及び未決済建玉データを発表した。これらの取引データは2017年の過去最高記録を更新したものの、ボラティリティが低水準で推移する市場環境下において、一部のエコノミストは、2020年にリセッション入りする可能性があると警鐘を鳴らしている。CMEは、12月11日のFX先物取引高が270万枚と、2017年6月14日に記録したこれまでの過去最高である250万枚を更新したという。また、FX先物未決済建玉は230万枚と、従来の220万枚から増加しているほか、メキシコペソとノルウェークローネに関しては、12月10日に1日当たりの取引高が過去最高を更新したとのことだ。更にCMEは、機関投資家の大口未決済建玉が前年比18%増となったという。同社は12月初頭に、11月の平均日次取引量が前年同月比24%減少していたことを発表していたため、数週間の間で取引高が大きく増加したことはサプライズとして受け取られるであろう。
グローバル中央銀行による金融政策の影響を一部受ける形で、FX市場のボラティリティは2019年を通じて低下傾向にある。このような市場環境下において、CMEのFX取引高と未決済建玉が過去最高を更新した背景として、同社のFX部門グローバルヘッドであるPaul Houston氏は、ユーロや日本円、英ポンドのスプレッド縮小に伴う取引コストの低下や、豊富な流動性の供給及びFX取引のエクスポージャー管理に寄与する取引ツールの有効活用などを挙げている。市場関係者のなかには、ブレグジットを巡る緊張緩和や米中貿易交渉進展の可能性などを背景として投資環境が明るくなるなか、グローバル株式市場が史上最高値を更新しており、投資家にとって一足早くクリスマスが訪れたとコメントする者がいる。
しかしながら、2020年にリセッションが起こる可能性が高まっていると指摘するエコノミストも出てきている。Nasdaq.comのアナリストたちは、2009年の金融危機以後の、主要FX通貨ペアのボラティリティと経常収支が強い相関を示しており、その現象は金融危機前に出現しているという。2007年から金融危機が起きるまで、市場のボラティリティと経常収支は急騰したのち、大きく落ち込んだ。足元のボラティリティは2000年以後の低水準で推移しているものの、グローバル経済に危機が迫る前兆として捉えられ、まさに嵐の前の静けさとして市場動向を注視する必要がある模様だ。
市場の不確実性が高まると、ボラティリティとFX取引リスクをヘッジするソリューションツールへの需要が拡大する傾向にある。長期投資家にとって、ボラティリティは投資収益の不安定性をもたらすものとして捉えられるが、より短期的な取引志向であるFXトレーダーにとっては、収益をもたらす機会になるといえるであろう。2014年にボラティリティが急騰したのち、新興市場とコモディティ市場が大幅下落した。他方で、3週間前に、ロイターが足元におけるFX市場のボラティリティは過去最低水準に落ち込んでいると報じた。ただし、低ボラティリティが永遠に続くことはない一方で、今後起こり得る金融危機に備える必要があり、FXトレーダーにとっては多くの取引機会をもたらす新たな1年が迫っているといえそうだ。
release date 2019.12.20
FXトレーダーにとって、ボラティリティの高まりは、取引コストに当たるスプレッドや取引手数料を上回る利益をあげるうえで、収益獲得の源泉といえるであろう。実際に、12月12日に実施された英国の下院総選挙の結果を受け、強気相場の英ポンド通貨ペアのボラティリティが大きく高まっていることを背景に、FXトレーダーに多くの取引機会を創出している模様だ。他方で、ユーロネクストFX、Cboe FX、FXSpotStreamの取引高が低迷したほか、11月期のGAINの業績では取引量が前月比26.9%減少するなど、市場ボラティリティの拡大を顧客取引の拡大に結びつけられていない企業も散見されている。2020年には、引き続き米中貿易交渉の行方が気になるところであるが、多くのFXトレーダーが注目するビッグイベントである米国大統領選挙も控えており、FX市場のボラティリティが大きく高まることが予想される。各金融サービスプロバイダーが、これらの経済イベントを収益拡大のための機会として確実に捉えることを期待したい。
作成日
:2019.12.20
最終更新
:2021.08.31
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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