作成日
:2019.05.16
2022.07.08 10:55
欧州域内随一の経済大国にして、最大規模のFX市場を誇るドイツは、欧州証券市場監督局(European Securities and Markets Authority)【以下、ESMAと称す】が2018年8月から導入した新規制策により、ブローカー各社の売上高の減少やコンプライアンス費用の増加といった形で多大な影響が出てきている模様だ。
ドイツは欧州の経済面において最も重要な役割を担っており、欧州域内各国のまとめ役として機能していると考えられている。また、市場規模ベースで世界10番目の規模を誇るフランクフルト証券取引所を有し、強固な金融システムを構築してもいる。そのドイツの投資環境を概観すると、OANDA EMEA(欧州・中東・アフリカ地域)のCEO兼チーフマーケティングオフィサーを務めるDavid Hodge氏は、インデックス投資という側面において、ドイツのトレーダーはDAXとNYダウ(US30)を選好しているという。また、過去5年間のドイツのトレーディング業界における大きなトレンド変化として、急速なテクノロジーの発展と4Gのカバー領域の拡大により、FXブローカーが高機能で快適なモバイル取引環境を提供できるようになったと指摘している。従来トレーダーはデスクトップPCを利用できない場合、ポジションを閉じる際にモバイルを頻繁に利用していたが、現在は取引の多くの場面でモバイルが利用されているとのことだ。更に、金融関連のリサーチ情報を提供するInvestment Trendsによると、2018年3月末までの1年間にドイツのトレーダー数は23%増の76,000人に達したとのことである。トレーダー数の年間増加率に関しては同社が2012年に調査を開始して以来最大の伸び率になるが、ESMAが新規制策を導入した期間を含む次回の調査レポートにおいては個人投資家数の減少が示されると予想されている。
またある調査によると、CFDの取引量が多いCMC Markets(本社:133 Houndsditch London EC3A 7BX
)とIG、それにComdirect bank、flatex、WH SelfInvest、Plus500を加えた5社がドイツのトップブローカーであるようだ。ドイツの顧客の取引動向を探ると、CMC Marketsは、ユーロ/米ドルと英ポンド/米ドルが最も人気の高い通貨ペアであるが、興味深いことにそれに続くのがユーロ/英ポンドではなくユーロ/トルコリラであるという。OANDAにおいては、ユーロ/米ドルが最も取引される通貨ペアであり、次にユーロ/英ポンドとのことである。そしてESMAの新規制策の影響を受けるブローカー各社は、規制対応コストの増加に加え、ボラティリティの低下や個人投資家数の減少も重なり、収益が低迷する苦境に立たされている状況だ。また、ESMAは欧州各国当局に永続的なCFD規制策の導入を要請している他、ドイツ連邦金融監督局(Die Bundesanstalt für Finanzdien Stleistungsaufsicht)も2019年にESMAの新規制策を恒久化する意向を示している。直近ではオーストリア金融市場庁がESMA新規制策を恒久化させる意向を示しており、欧州域内各国で規制が強化される環境に変わりはなさそうである。
そのような市場環境下において、ドイツにおいて上位に位置付けるブローカーの一つであるCMC Marketsは2019年度のトレーディング概況を報告し、ESMAの新規制策が導入されて以降、顧客の取引が減少したことに加え、規制の影響を全ての期間において受けた2018年第4四半期は厳しい市場環境であったとコメントしている。
業績面においては、2019年度のCFD及びスプレッドベッティング取引収益が前年比37%減の約1億1,000万ポンドに、純営業収益は1億3,100万ポンドほどになると見込んでいる一方で、アクティブ顧客や新規顧客数が安定的に推移していることから2020年度の市場コンセンサスを達成できるとも予想している。なお、CMC Marketsのドイツ・オーストラリア地域ヘッドを務めるCraig Inglis氏は、ESMAが導入したCFD取引のレバレッジ制限により、顧客が損失を被るリスクが限定されると共に、トレーダーが無鉄砲にリスクをとることも減少しているとコメントしている。また欧州域内で規制が強化される現状においては、ブローカーにとって多岐に亘る規制に対応する必要があると共に運営コストも増大しているため、ドイツのみならず欧州全域でブローカレッジサービスを提供することは困難な状況となっているという。規制強化の波は止まらないことを前提に、規制に柔軟に対応しつつ取引需要を喚起する画期的なサービスの提供が求められているといえそうだ。release date 2019.05.16
2018年7月、 ESMAが2017年度年次報告書を公表し、投資家保護に向けた規制を強化する方針を発表して以降、実際に最大レバレッジの制限や強制ロスカット割合の制限などの新規制が順次実施され、各ブローカーが対応に追われたことは記憶に新しい。CMC Marketsはプロトレーダー層を設けハイレバレッジの提供を維持するなどの顧客流出対策を早期に実施したものの、2019年度上半期決算は低調に終わるなど、各ブローカーが対応に苦心していることが窺える。また、レバレッジダウンやオフショア市場へのシフトなどの対応に追われた末、個人顧客へ一切のアナウンスがされないまま取引条件の改定を行ったブローカーもあり、近年のESMA新規制によって顧客サポート体制の質の低下が浮き彫りになることとなった。 2019年3月には、ESMAの議長が仮想通貨市場においても投資家保護のための規制が必要であるとの考えを示している。公的な発行主体を持たない仮想通貨への規制がどのように行われるかに注目が集まるが、顧客側としては、これに伴う各ブローカーの収益体制の確保や、各種サービス維持への対応策に関心を寄せたい。今後、各規制当局の締め付け強化は必至であり、海外FX業者を選ぶ際の条件として、取引条件はもちろんだが、顧客サポート体制も重要な条件のひとつとして念頭に置く必要がありそうだ。
作成日
:2019.05.16
最終更新
:2022.07.08
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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