作成日
:2019.03.26
2021.08.31 15:26
株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループの連結子会社である三菱UFJ証券ホールディングス株式会社(本社:東京都千代田区大手町1-9-2 大手町フィナンシャルシティグランキューブ
)【以下、MUFGと称す】は3月25日、オランダ王国・アムステルダム市に証券現地法人のMUFGセキュリティーズ・ヨーロッパを開設したことを発表した。MUFGは、新たに開設したアムステルダム現法を通じ、ブレグジット(英国のEUからの離脱)後も欧州顧客に継続的な証券サービスの提供が可能となるとコメントしている。なおMUFGでは、ブレグジット動向が如何なる結果になろうとも万全な対応策を講じており、これまでにも欧州全域のオフィスをリース契約とすると共に数百名にも上る従業員を英国・ロンドンから配置転換を行い、且つ多額の資産を英国からシフトさせるなど企業としてのコンティンジェンシープラン(緊急時対応)を綿密に計画したうえで実施に移している状況だ。そのため、この度のMUFGによるアムステルダム現法の開設は、大きなサプライズとはならないであろう。
オランダのアムステルダムは、ブレグジット後の業務の混乱を避けたい多くの金融機関が、事業拠点を英国から欧州域内へとシフトする際に選好している人気の拠点先だ。2019年3月初頭には、世界最大のデリバティブ取引所であるシカゴ・マーカンタイル取引所を運営するCME Group Inc.【以下、CMEと称す】が、オランダの金融規制当局であるオランダ金融市場庁(Netherlands Authority for the Financial Markets)【以下、AFMと称す】から取引所ライセンスを取得している。これによりCMEは、EU域内の金融・資本市場の包括的な規制策である第二次金融商品市場指令(Markets in Financial Instruments Directive Ⅱ, MiFIDⅡ)遵守の下、アムステルダムの地で金融サービスの提供が可能となり、債券トレーディングとレポ取引(債券貸借取引)機能を英国からシフトさせる意向である。
更にシカゴ・ボード・オプション(Cboe)ヨーロッパもAFMからオランダにて子会社設立の認可を受けたことにより、投資家保護や情報開示及び市場統制など幅広い分野でルールの共通化が図られる規制市場(Regulated Market)やデリバティブ取引関連の多目的取引施設(Multilateral Trading Facility)、及び店頭取引(OTC取引)データの開示に関連した認可公表機構(Approved Publication Arrangement)の運営を行えることができるようになっている。その他にも、債券関連電子取引プラットフォームのグローバル展開を図るMarketAxessやブルームバーグ、ロンドン証券取引所などがブレグジット後の事業拠点としてオランダを選好している。
既に多くの欧州企業がFCAによる金融パスポート継続措置の申請を行っていることも報じられており、ブローカーにとっては混沌とするブレグジット動向を鑑みた柔軟な対応が求められる展開が続きそうだ。
release date 2019.03.26
ロンドンは名実ともに世界の中心的な金融センターとして機能しており、グローバルに事業を行う企業にとって、ロンドンに本拠地を構えることはこれまで当然のことと捉えられてきた。しかし、トップを飾っていた金融センターの国際競争力を示す世界金融センター指数(GFCI)ランキングにおいて、2018年には2位に転落しており、英国のEU離脱に備えた大手金融機関の流出が大きく影響していることがはっきりと表れている。ブレグジットの実現が目の前に迫ってきた今、これまでロンドンを拠点として事業を行ってきた企業は、その代わりとなるEU内の拠点を求め、各地に現地法人を設立する動きがさらに活発化している。特にアムステルダムは、既に多くの大手企業がブレグジット後のEU内の拠点として現地法人を設立しており、これによりオランダの2018年対内投資は前年比71%増となるなど、ブレグジットの思わぬ影響が及んでいるようだ。企業にとって広大なEU圏での事業規模は英国一国における事業規模を大きく上回るものであることから、EU圏で新たな拠点を確保し、事業を安定的に継続していくことは合理的な判断だと言えるであろう。今後ますます企業によるブレグジット対策が進んでいくものと思われるが、思わぬところに発生する経済的影響にも注視していきたい。
作成日
:2019.03.26
最終更新
:2021.08.31
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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