作成日
:2019.01.09
2021.08.31 15:27
調査会社であるCryptoSlateが発行した最新のレポートによると、ビットコインと株式市場の関連性が低いことが明らかとなり、ビットコインなどの仮想通貨はポートフォリオの多様性を高めるために有効な投資先だということが結論づけられている。
株式市場とビットコインの相関性を表すひとつの指標としてベータと呼ばれるテクニカル指標が存在する。ベータは、S&P500などのベンチマークと比較して、ある資産の価格変動の大きさと方向性の傾向を表し、投資家にポートフォリオのリスク分散を計る尺度としても利用されるものだ。ベータが正の値であれば、その資産はベンチマークに対して正の相関を持ち、ベンチマークの価格が上昇すれば、その資産の価格も上がる傾向にあることを意味する。対照的に負の値であれば、その動きと逆になる傾向だということを示す。また、ベータがゼロであれば、その資産とベンチマークの間での相関性は理論上ないということになる。ちなみに大手テクノロジー企業などのベータは1.0を超えるほど大きくなりがちで、金などのコモディティは-1.0に近い。加えて、社債などはほぼ0に近い値となることが多いようだ。ベータは、絶対値が大きくなるほど、ベンチマークに対して対象の資産の値動きが大きいということを表している。
別の角度からの分析として、Pearson Correlation Coefficient【以下、PCCと称す】という指標もビットコインと株式市場の関係を検証するのに用いられている。この指標は、2つの異なる資産の相関関係の強弱を計るもので、完全相関の1.0から負の完全相関を意味する-1.0の間の値で表される。一部の見方では、PCCが0.8を上まらなければ、相関関係はそれほど強くないと判断されるという。ポートフォリオ管理の観点では、この値が低い、または負の値を持つ資産に投資することがリスク回避につながるとされている。
CryptoSlateの分析は、米国株式市場の全体のパフォーマンスを投影するS&P500をベンチマークに実施されており、2015年からのベータとPCCの算出結果が公開されている。分析によると、2018年のビットコインとS&P500のベータは、0.3を記録していることから緩やかな相関性があるということが読み取れる。しかしながら、株式市場と仮想通貨市場が堅調だった2017年のベータは、0.92でほぼ完璧な相関性があることを表している。また、2015年からの通算では、弱い相関性を示す0.24で、年によって波があり、大きく変動していることがわかる。この分析結果は、ビットコインが株式市場に連動していない、または、価格変動が大きいために推定が困難な状況にあることを示唆している。
次にPCCの動きを見てみると、2015年から2018年の間、最高でも0.2に留まっており、ほとんどの年でも、-0.1から0.1程度に収まっていることから、ベータ同様にビットコインと株式市場の相関関係は弱いことを示す結果となった。よって、ビットコインはどちらかというと債権や不動産といったオルタナティブなカテゴリーに分類される存在だといえるだろう。
この度の調査により、少なくともこれら2つの指標では、ビットコインと株式市場の関連性は低いことが示された。ビットコインやその他仮想通貨はボラティリティが高く投機的な利用に向いているということもあり、うまく利用すればこの特性をポートフォリオ投資の新しい選択肢としても成り立つだろう。しかしながら、ビットコインが弱気な株式市場にどのように反応するかなどのデータが不足しているのも事実であり、今後も検証を実施する余地もありそうだ。
release date 2019.1.9
今回のCryptoSlateの調査では、ビットコイン、ひいては仮想通貨市場の関連性の低さが統計的に明らかにされたが、通貨取引としての共通点を持つ外国為替市場とは局部的な価格連動が観測されている。今月3日、米国の金利政策や中国との貿易戦争、Apple, Inc.の業績不振などの影響で、ドル円相場ではフラッシュクラッシュが発生しており、それにつられる形でビットコイン価格も一時的な急落を見せた。この価格の連動は、アルゴリズムの暴走や投資市場全体のリスクオフの流れが発生したことが原因と推測されている。今の所、仮想通貨は決済向けの金融インフラとして浸透していないため、米ドルやその他法定通貨の需要や供給量へ直接的に干渉することは考え難いが、将来的には相関性や相関関係が高まってくることも考えられる。株式市場に関しても、金融企業の参入や一般企業のブロックチェーン利用が進めば、ベータやPCCといった指標にも変化が現れるかもしれない。
作成日
:2019.01.09
最終更新
:2021.08.31
米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。
大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。
金融ライターとして独立後は、暗号資産およびブロックチェーン、フィンテック、株式市場などに関する記事を中心に毎年500本以上執筆。
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