作成日
:2019.01.08
2022.01.27 15:37
英国の金融監督当局である英国金融行動監視機構(The Financial Conduct Authority)【以下、FCAと称す】は1月7日、ブレグジット(英国のEUからの離脱)に関するコンティンジェンシープラン(緊急時対応)として、金融パスポート継続措置(the temporary permissions regime)を導入することを発表した。
2018年10月、FCAはブレグジット後の規制策に関する諮問書を公表した際、仮に英国が移行期間なしの合意なき離脱(ハードブレグジット)となった場合に、FCAからの完全な認可が下りるまでの一時的なパスポーティング制度を導入する意向を示し、現行のパスポーティング制度を利用することで、EEA(European Economic Area、欧州経済地域)諸国から英国にて事業を営む金融機関や電子マネー事業者(Electronic Money Institution)、決済サービスプロバイダー、ファンドマネージャーなどが、ハードブレグジット後においても、大きな混乱なく事業の継続性を保ちつつ業務を営めるようにするための対応策として検討していた。
MiFID(金融商品市場指令)に基づく現行のパスポーティング制度は、EEA諸国の規制下にある海外FXブローカーや金融機関が、EU域内の1か国で事業認可を取得した場合、他のEEA諸国それぞれにおいて、再度認可を受けることなく事業を営むことが可能となる制度である。ただし、ブレグジットは3月29日と数か月後に迫ってきており、仮に英国政府とEUの交渉が合意に至らずハードブレグジットとなれば、EUから離脱する英国とのパスポーティング制度を活用できなくなる事態が生じることが危惧されている。そのため、FCAがこの度金融パスポート継続措置を導入することで、現行のパスポーティング制度を利用して英国内で事業を営むEEA諸国の金融機関や投資会社などが、英国のライセンスを取得しスムーズな移行を行えるよう時間的猶予を与える模様だ。
FCAは、金融パスポート継続措置の活用を検討する企業に対し、英国政府が導入した各種情報の共有を図るネットワーク・プラットフォームであるConnectシステムを利用して、速やかに届け出を行うよう求めている。届け出期間は、1月7日から3月28日までであり、届け出手続きに手数料はかからないとのことだ。また、ファンドマネージャー及び投資会社に関しては、Connectシステムを通じ、現行パスポーティング制度の適用を受けるファンドの内、どのファンドを引き続き英国内にてマーケティングを行っていきたいかを明確にする必要があり、もしも3月28日までに届け出を提出しなかった場合、該当ファンドのマーケティングについては金融パスポート継続措置を活用することができなくなるとしている。ただし、例外措置として、EUファンドパスポート制度(Undertakings for collective investment in transferable securities, UCITS)に基づく新ファンドに関しては、ブレグジット後も引き続き金融パスポート継続措置が適用される予定となっている。
release date 2019.1.8
この度、FCAにより一時的な処置が講じられたものの、これまでにブレグジットをめぐる問題がブローカーに与えた影響は深刻であり、事業の閉鎖に追い込まれた企業も少なくない。先日明らかとなった、英国・ロンドンを拠点とするFX・CFDブローカーであるAbshire-Smithが英国事業を閉鎖したことも、ブレグジットがひとつの要因であると考えられている。また、英国政府とEUが離脱条件をまとめた協定案に関しては、英国議会の承認が必要で、その議会採決が12月に行われる予定だったが、その際にも多くのブローカーがレバレッジ規制を設けるなどブローカーは常に対応に追われている状況が続いている。議会採決は結局延期となり、1月14日または15日に行われる見通しとなっているものの、議会より承認を得ることは難航必至と見られており、英国経済の行方はこの協定案の承認を得ることができるか否かに左右され、最悪のシナリオとして合意なきブレグジット、そして来年の英国の景気後退という展開が予想されている。金融当局、金融機関・ブローカー、投資家のそれぞれが適宜に、且つ入念に対応策を実施していく必要があるだろう。
作成日
:2019.01.08
最終更新
:2022.01.27
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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