作成日
:2019.01.02
2021.08.31 15:27
アブハジア共和国で運営する電力会社Chernomorenergoは、15社に及ぶ国内の仮想通貨マイニング企業への電力供給を一時的に停止することを発表した。Facebookページでの情報によると、これら企業のマイニング施設での総電力使用容量は8,950kWtに達し、1,800世帯分または、首都のスフミ周辺の行政地区が消費する電力に等しいという。
この動きは、グルジア内部で独立を宣言しているアブハジア共和国の政府が、国内で発電された電力の消費を抑えることを目的に、昨年末、電力供給の停止を許可したことが発端となっている。これに関して、政府は、一般家庭や公的機関、および重要な生産施設などへの電力供給を保証するために必要な措置であることを説明している。アブハジア共和国では、気温が下がる冬季に電力消費が大きくなることで、国内の電力システムの負担となっているという。
アブハジア共和国の電力供給のほとんどは、グルジアとの国境にある共有の大規模水力発電施設であるEnguri Hydroelectric Stationと、Vardnili Plantと呼ばれる小規模な発電所で賄われている。経済情報メディアによると、2018年3月のグルジア領内での電力消費量は11億1,600万kWhを記録しており、そのうち約19%の2億700万kWhがアブハジア共和国で消費された電力であるという。
また、Chernomorenergoによれば、すでに国内のマイニング企業に対し、電力消費を抑制する旨の令状が発行されており、各企業はそれを厳守していたという。法規制の緩さや電力などの運用コストの低さを背景に、アルメニアなど近隣の南コーカサス諸国では、グルジアやアブハジア共和国と同じように仮想通貨のマイニング事業が急速に拡大している。これまでアブハジア共和国は、仮想通貨のマイニングに関して友好的な立場をとってきたが、この流れを受けて、同国のRaul Khajimba大統領は、仮想通貨の規制に関して議論するための政府会合を予定しているという。
これらの地域の国々は、仮想通貨分野の産業に恩恵を受けており、例えば、ソビエト連邦崩壊後に独立を宣言した沿ドニエストル・モルドバ共和国なども海外の投資を呼び込む好機として、マインングや仮想通貨関連事業を企てる企業を支援するための予算を増やしている。また、マイニング施設もソビエト時代の廃工場の敷地を利用するなど、企業の誘致を目論む独立政府と安価な運用場所を求める企業の予想外のマッチングも生んでいるようだ。
release date 2019.1.2
仮想通貨やブロックチェーン技術の発展は、産業が乏しい小国にとって、新しい産業を生み出す思わぬチャンスとなっている。特に欧州や旧社会主義圏内の地域では、法規制の緩さも相まって、多くの仮想通貨関連企業が事業を立ち上げる結果となった。例えば、スイスのツークには豊富な人材と世界中の企業が集まっており、エストニアでは国家独自の仮想通貨エストコインによるICOプロジェクトがエストニア政府の主導により発足している。また、ウクライナでは、今後3年で仮想通貨を合法化することで、仮想通貨市場を拡大する方向に動いているようだ。日本や米国をはじめとする先進国では、マネーロンダリングやテロ組織への資金供与、詐欺行為での利用など、負の側面ばかり議論されがちだが、前述した国々では仮想通貨がもたらす恩恵を最大限生かす方向性で規制が模索されている。現時点でどちらのアプローチが正しいか判断はできないが、これらの小国が市場で優位性を得るための戦略としては有効なのかもしれない。
作成日
:2019.01.02
最終更新
:2021.08.31
米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。
大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。
金融ライターとして独立後は、暗号資産およびブロックチェーン、フィンテック、株式市場などに関する記事を中心に毎年500本以上執筆。
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