作成日
:2018.12.03
2021.08.31 15:27
シンガポール金融管理局(Monetary Authority of Singapore)【以下、MASと称す】は、国内市場でのトークンの運用を明確にするために、先日、企業向けのICOに関するガイドラインを発行した。
2017年8月、ICOが証券としての特性を持つことから、株式や債券、信託、デリバティブなどと同様の法律で規制されるべきと、MASはICOを規制対象とする立場を表明しており、 今回のガイドラインはそれに準ずるものとなった。なお、ガイドラインによると、発行されるトークンの価値が500万シンガポールドル(約360万米ドル)以下、配布の対象となる投資家が50人以下、または機関投資家および認定された投資家の間のみで配布が実施される場合など、ICOプロジェクトが特定の条件を満たす場合は、既存の法規制の対象から除外されるようになっている。また、MASによると、トークンが証券に分類されない場合でも、マネーロンダリングやテロリズム関連の規制に準拠するためにライセンスの取得が義務付けられる可能性があるが、これには、疑わしい取引を警察に報告する義務や、テロとの関与が疑われる組織との取引の禁止などが含まれているという。
また、ガイドラインでは、トークンの販売者の分類についても言及されており、トークンの発行者、トークンの取引所、トークンに関する金融的アドバイザリー業務を行う事業者のそれぞれ3つが定義されている。MASによると、この3つに分類される販売者は、全て現行法での規制対象になるという。つまり、ICOプロジェクトの主催者は、資本市場のサービスライセンスを取得することが必要となる。加えて、金融アドバイザリー業務を行うものは別に専用のライセンスが求められ、取引所は、MASによる事業の承認と認知を受けなければならない。これらの規制は、シンガポール国内で金融アドバイザリーサービスを提供する海外事業者にも適応されるようだ。
ICOに関わる事業は、法律の解釈が難しく、ケースバイケースで対応が必要になることが考えられるが、今回のガイドラインは、11もの異なる状況を想定して制定されている。例えば、発行されるトークンが、ブロックチェーンを利用したサービスへの支払いを目的としたもので、取引や投票権など他の機能を持たなければ、ペイメントトークンとは分類されないケースとなる。一方で、トークンがビジネスの所有権を保証するものであれば、シンガポール国内で取り扱いを認可されるための要件を満たす必要があるといった要領だ。国内の企業が海外市場向けのみに発行するトークンの多くは法規制の対象外となっているが、その場合は別途、ファンド管理者としての特定のライセンスが必須となることも付け加えられている。
シンガポール政府は、仮想通貨普及の必然性を受け入れており、今回のガイドラインも仮想通貨を法定通貨と同等の枠組みで管理するためのものではないという。最近では、日本のLINE株式会社や香港のバイナンスが国内市場で大規模な仮想通貨事業を展開することを支持しており、両社への資金提供も実施した。11月末には、シンガポールでは初となるビットコイン関連で初の裁判が行われ、国内市場は活発に動き出している。
release date 2018.12.3
シンガポールは、アジアでも有数の仮想通貨先進国として知られ、世界的にも大規模なICOプロジェクトを数多く成功させるなど、業界注目の市場となっているようだ。例えば、大手仮想通貨取引所のバイナンスも東南アジア市場へのゲートウェイとして、シンガポールに進出しており、シンガポールドル建ての取引テストなど実施している。仮想通貨にシンガポール政府も、バイナンスのシンガポール進出は好意的に捉えており、国営のベンチャーキャピタル、Vertexからファンド提供を実施している。また、バイナンス側もシンガポール政府を含む世界の規制当局の悩みの種となっている仮想通貨利用に対して、KYCシステムを強化することでお互いにより良い環境を構築することを目指しており、業界の規範となっている。MASは9月にもシンガポールのトークン規制に関して見解を示しているが、バイナンスやシンガポールの関係を見る限り、今のところ良好に保たれており、何かとトラブルを生んでいる国家と仮想通貨やICOといった問題へ対するモデルケース的存在になっていると言えるだろう。今回のICOに関するガイドラインを発行により、シンガポールでICOがさらに健全に活発に行われることも予想される。
作成日
:2018.12.03
最終更新
:2021.08.31
米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。
大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。
金融ライターとして独立後は、暗号資産およびブロックチェーン、フィンテック、株式市場などに関する記事を中心に毎年500本以上執筆。
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