作成日
:2022.11.28
2023.03.16 15:30
メタマスクは仮想通貨(暗号資産)市場最大の分散型ウォレットで、月間ユーザー数は2,000万人を超えます。そのメタマスクが、ユーザーデータを収集します。これを受けて、Twitter(ツイッター)などのSNS上では、メタマスクの安全性を危惧する声があがっています。
当記事では、メタマスクの変更の詳細や利用する上でのリスクなどを解説していきます。
メタマスクは分散型ウォレットです。BinanceなどCEX(中央集権型取引所)のウォレットと異なり、管理者が存在しないシステム上で仮想通貨を保有できます。
また、パソコンやスマホアプリで仮想通貨を管理でき、イーサリアム(ETH)などさまざまな仮想通貨に幅広く対応しています。仮想通貨の保管だけでなく、送金したり仮想通貨同士をスワップ(交換)したりする機能もあります。
メタマスクなどの分散型ウォレットは、Web3.0の入り口だと考えられます。例えば、DEX(分散型取引所)やブロックチェーンゲームなどにメタマスクを接続すると、サービスが利用可能になります。
分散型ウォレットはWeb3.0発展の鍵を握っており、その中でもメタマスクは主要な存在です。
Web3.0とは、分権化された次世代のインターネット環境を指します。現代の中央集権型インターネット環境(Web2.0)は、大手IT企業が強い影響力を持っています。その一方、Web3.0では、個々のユーザーが重要な役割を担います。
2022年11月、大手取引所FTXが経営破綻したことを受け、CEXへの不信感が高まっています。結果的に、メタマスクを始めとする分散型ウォレットの需要が高まっています。
分散型ウォレットを使うと企業等に頼らず自分自身で運用・管理できるため、CEXのように出金停止となることはありません。
FTXはハイリスクな経営を行っており、手持ち資金が枯渇して顧客資産を払い出せない状況に陥りました。競合のBinanceが買収による救済を模索しましたが、結局失敗に終わっています。この影響は仮想通貨市場全体に波及しており、CEXの信頼が揺らいでいます。
メタマスクはコンセンシス社(ConsenSys)が開発しており、2022年11月23日、メタマスクの基盤となるInfuraのプライバシーポリシーを改定しました。それによると、メタマスクでInfuraを使用する場合、ユーザーのIPアドレスとウォレットアドレス情報が収集されます。
Infuraは、DApp(分散型アプリ)を稼働させる機能を提供しています。具体的には、RPCという機能を提供しており、アプリ開発者は独自ノードを構築しなくても、DAppとブロックチェーンの間で情報通信させることができます。
Infuraは、同社のRPCでのユーザーデータ収集を明示しました。第三者のRPCで稼働するメタマスクに関しては対象外ですが、メタマスクのRPCはInfuraがデフォルトで設定されており、ほとんどのユーザーが気づかない可能性があります。
ちなみに、Infuraは業界で広く利用されており、イーサリアムの他にもアバランチ(AVAX)など複数のブロックチェーンで用いられています。また、UniSwapやBrave BrowserなどもInfuraを採用しています。その影響力は強く、開発者コミュニティは40万人を超えています。
InfuraはユーザーのIPアドレスとウォレットアドレスを収集します。では、これはユーザーにとってリスクになるでしょうか。
IPアドレスは、インターネットにおける住所のような存在で、アクセス元の相手を識別するために利用されます。市町村レベルの大まかな利用地域や、加入しているインターネットプロバイダなどを知ることができますが、正確な住所やそれ以上の個人情報の特定はできません。
よって、IPアドレスがウォレットアドレスと紐づいても、直接的な危険はないと考えられます。
それでも、ある仮想通貨投資家はウォレットアドレスとIPアドレスから個人を特定され、誘拐・強盗事件が発生した例もあるので、危険がゼロというわけではありません。
米国を拠点にするコンセンシスは、この変更に関して違法行為への対策や法令遵守のためでもあると説明しています。
仮想通貨市場ではハッキングやマネーロンダリングなどが問題となっており、各国の規制当局が頭を悩ませています。プライバシーポリシーによると、KYC(顧客確認)やAML(マネーロンダリング防止対策)の観点から必要な場合に、ユーザーの情報を使用する可能性があります。
その後、仮想通貨コミュニティから批判を受けたことで、コンセンシスはこのプライバシーポリシーの変更が規制当局の問い合わせに対応するものではないと説明しています。
コンセンシスがプライバシーポリシーを変更したことに対して、仮想通貨コミュニティからは批判の声が挙がっています。
メタマスクはWeb3.0を推進する分散型ウォレットなのに、既存のWebサービスのように個人情報を収集しかねないことに批判が集まっています。
Yearn FinanceなどのDeFiプロトコル開発に携わる@fubuloubu氏は、「サービスのためにデータを集めたいのであれば、IPアドレスとウォレットアドレスを紐付けるのではなく、匿名性が保たれた方法で行うべきだ」とTwitter上で主張しています。
また、Cinneamhain Venturesのパートナーであるコクラン氏は、「メタマスクは長い間、無料で優れたサービスを提供してきました。しかし、IPアドレスを記録してトランザクションに関連付けるという決定は受け入れられない」と批判しています。
その他、日本の仮想通貨コミュニティでも、メタマスクに対する否定的な投稿が数多く見られます。
データがある程度収集されても構わないのであれば、メタマスクを利用し続けても大きな問題はないといえそうです。しかし、プライバシーを守りたい場合は対策が必要です。
その方法は簡単で、RPCの設定をデフォルトから変更するだけです。初期設定ではInfuraに設定されていますが、任意のRPCを入力できます。
メタマスクのRPCを変更するには、メニューから「設定」「ネットワーク」の順に進んで「新しいRPC URL」にURLを入力すれば完了です。新しいRPCの候補としては、Ankr(ANKR)やAlchemyなどが挙げられます。
プライバシーポリシーの更新に関して、コンセンシスはメタマスクのRPCが変更可能であることを教育する目的もあったとしています。すなわち、コンセンシス自身もRPC変更をひとつの手段として認めているわけですが、注意すべきこともあります。
RPCはイーサリアムブロックチェーンのノードであれば、指定することができます。しかし、そのノードがどのような企業や団体、個人によって運営されているか、そしてどのようなプライバシーポリシーを持っているのかについて、ユーザー自身で確認しなければなりません。
信頼できるノードであれば問題ありませんが、信頼できないノードを利用すべきではないでしょう。
ノードとはブロックチェーンのネットワークを構成するコンピュータを指し、パソコンやスマホなどを含みます。ブロックチェーンを稼働させるために、ブロックの検証だけでなく取引情報の記録や情報伝達などの機能を提供します。
仮想通貨市場には、メタマスク以外にも分散型ウォレットが存在します。独自ノードを利用する分散型ウォレットの例としては、以下のようなものがあります。
SafePalは多機能な分散型ウォレットです。ユーザーは、仮想通貨の保管や送金などに加え、クレジットカードによる購入、NFT取引、DeFi関連サービスなどを利用できます。安全性にも優れており、独自のハードウェアウォレットも販売しています。
ハードウェアウォレットとは、仮想通貨の秘密鍵をインターネットから切り離して保管できるウォレットです。USBタイプのデバイスで、コンピュータに差し込んで利用します。
Trust Walletは、大手取引所Binanceが買収して話題となった分散型ウォレットです。スマホ版とデスクトップ版のアプリをリリースしており、幅広い用途で利用できます。
特徴としては、DeFi関連サービスとの連携性が高く、手軽に仮想通貨を運用できる点が挙げられます。その他、Trust Wallet内に仮想通貨を保有するだけで、収入を得ることが可能です。
FTXが経営破綻した際、BinanceのCEOチャンポン・ジャオ氏が、CEXのウォレットから分散型ウォレットに資産を移行するよう言及したことで注目が集まりました。その結果、Trust Walletの独自仮想通貨TWTは、300円を超える高値を更新しました。
画像引用:CoinMarketCap
メタマスクは仮想通貨市場最大の分散型ウォレットです。しかし、Infuraのプライバシーポリシーが変更されたことで、ユーザー離れが起こるのではないかと心配されています。多くのインフルエンサーがメタマスクの動きに否定的な意見を表明しており、代替となる分散型ウォレットの利用を促しています。
プライバシーを気にしないのであれば、メタマスクを使い続けるのも選択肢ですが、別の分散型ウォレットを検討してみるのも良いかもしれません。
作成日
:2022.11.28
最終更新
:2023.03.16
米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。
大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。
金融ライターとして独立後は、暗号資産およびブロックチェーン、フィンテック、株式市場などに関する記事を中心に毎年500本以上執筆。
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