作成日
:2022.04.28
2022.09.13 18:04
2022年3月、大手仮想通貨(暗号資産)取引所のBybit(バイビット)が、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイでライセンスを得ました。これに伴い、シンガポールからドバイに本社機能を移転します。
近年、ドバイは経済特区のDWTC(ドバイ世界貿易センター)を中心に、仮想通貨関連企業の誘致に注力してきました。仮想通貨の世界で世界的な中心地になるためです。その甲斐もあってか、リップル社を始め有力な仮想通貨関連企業が、ドバイでの拠点設置を決定しています。取引所でも同様の動きが見られ、ドバイは盛り上がりを見せています。
2022年3月9日、ドバイ政府は暗号資産規制法を交付し、仮想通貨市場の規制機関としてVARA(Dubai Virtual Asset Regulatory Authority)を設置しました。ドバイ政府はVARAを核に法的な枠組みを制定しており、仮想通貨市場を成長させる方針です。これに関して、ドバイの首長は「組織やガバナンス、セキュリティ面で、最も先進的な仮想通貨のエコシステムを提供します」とコメントしており、暗号資産規制法とVARAの設立が成長の礎になるとの考えを示しました。
VARAの役割は、ドバイで活動する取引所や仮想通貨関連企業を監督することです。従って、ドバイでライセンスを取得するには、ドバイに拠点を設置するのに加えて、VARAが課す要件をクリアする必要があります。具体的には、十分なセキュリティシステムや運用体制を構築することや、投資家保護、マネーロンダリング防止(AML)、テロ資金調達対策など、国際的な基準に準拠することだと考えられます。
2022年3月、国際機関のFATF(金融活動作業部会)は、UAEをグレーリストに加える見込みとなりました。グレーリストとは、マネーロンダリング対策で改善が必要な国の一覧です。UAEにとってマネーロンダリング対策は重要な課題となっており、ドバイのVARAにも厳格な対応が求められるかもしれません。
このような状況下、Bybit(バイビット)以外の取引所も、続々とVARAのライセンスを取得しています。そこで、ライセンスを得た取引所の例を紹介します。以下の取引所の中には、準備段階で暫定的に承認されたものもありますが、問題がなければ正式なライセンスを取得する見込みです。
Binance(バイナンス)は世界最大の取引所であり、全世界でサービスを展開しています。既に米国・プエルトリコ・カナダなど様々な国と地域でライセンスを取得しており、VARAから承認を受けた最初の取引所となりました。また、2021年からDWTCに協力して仮想通貨規制の環境構築などに貢献しており、ドバイでも大きな存在感を発揮することになるでしょう。
FTXは、2019年設立の大手取引所です。2022年2月、Liquid(取引所Quoineを運営)を買収したことで、日本でも有名になりました。本社はバハマにあり、多くの国と地域に積極的に進出しています。ドバイでは欧州支部のFTX Europeを通じてライセンスを取得しました。FTX Europeは、企業向けサービス提供も視野に入れる方針を表明しています。
Crypto.comはウォレットアプリがサービスの中心であり、香港で創業してシンガポールに移転しました。ウォレットアプリは取引機能も搭載しており、独自仮想通貨「CRO」を含む約200種類の仮想通貨が取引可能です。Crypto.comはドバイにオフィスを設立すると共に、今後、大規模な採用活動を開始すると発表しました。ドバイを足掛かりに中東地域に進出する意向です。
BitOasisは、2015年にドバイで設立された取引所です。40種類以上の仮想通貨を取り扱っており、中東地域でサービスを提供しています。中央銀行に事業者として登録されていましたが、VARAの設立で暫定的に認可を受けることになりました。VARAが課す要件を満たせば、正式にライセンスを得られる見込みです。
なぜこれらの大手取引所は、ドバイでライセンスを取得するのでしょうか。ドバイでライセンスを取得するメリットとして、以下の例が挙げられます。
近年、国際的な仮想通貨規制の構築が望まれる一方、オフショア取引所は規制が緩い国から全世界に向けてサービスを展開しており、風当たりが強くなっています。それぞれの国が全てのオフショア取引所を規制するのは難しく、犯罪の温床になるとして問題視されています。実際、米国ではBinanceのグローバル向けサービス「Binance.com」へのアクセスが禁止されるなど、いくつかの国でオフショア取引所の締め出しが始まっています。
複数の意味があり、金融の世界では「外国人向けにビジネスを展開する海外企業に税制優遇する国や地域」を指します。しばしばタックスヘイブンとも呼ばれ、各種規制が緩いことが特徴です。この緩さが、犯罪の温床になると危惧されています。
そこでオフショア取引所は、信頼を得るために適切なライセンスを得ようとしています。米国・日本・シンガポールなど、ライセンス取得が比較的難しい国では、現地向けの法人を立ち上げる場合もあります。また、仮想通貨関連企業に寛容な国でライセンスを取得しようともしています。ドバイは仮想通貨関連企業に友好的であり、ライセンスの取得は比較的容易な模様です。
ドバイには、仮想通貨取引にかかるキャピタルゲイン税や法人税がありません。従って、取引所がドバイでライセンスを取得して事業を展開すれば、税制面で大きな恩恵を受けられます。ちなみに、個人の所得税もないので、仮想通貨取引にかかる税金はゼロです。最近では、インドの大手取引所WazirXの幹部ニシャル・シェティ氏とシッダールト氏がドバイに移住して、話題となりました。
画像引用:DIGITAL DUBAI
ドバイは「ドバイ・ブロックチェーン・ストラテジー」を公開し、ブロックチェーン関連産業の発展を目指しています(上の画像はストラテジー紹介動画の一場面)。その結果、400社ほどの仮想通貨関連企業が存在しており、VARAは2022年末までに1,000社にする目標です。ドバイは中東の仮想通貨先進国としての地位を確立しつつあり、ライセンスを取得して市場に参入できれば、パートナーシップなどのチャンスにも恵まれるでしょう。
プロジェクト例として、現地のレストランやホテル、小売店などの決済ソリューションを構築する「Nexus Dubai(NXD)」、火星を舞台にしたメタバースの「エバードーム(EVERDOME)」などがあります。
出典元:
作成日
:2022.04.28
最終更新
:2022.09.13
米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。
大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。
金融ライターとして独立後は、暗号資産およびブロックチェーン、フィンテック、株式市場などに関する記事を中心に毎年500本以上執筆。
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