作成日
:2021.07.02
2022.04.20 12:28
デンマークを拠点とする投資銀行Saxo Bank Group【以下、サクソバンクと称す】は6月29日、株式やFX、コモディティ、債券といったグローバル金融市場に関する2021年第3四半期見通しを公表した。
自由・平等・博愛というスローガンの下、18世紀後半にフランス革命が起こった。そして現在、欧州各国では、投票権を持つ若者を中心として再び革命機運が高まっている状況だ。目下、市場では、9月26日に実施されるドイツ連邦議会選挙に注目が集まっている。アンゲラ・メルケル首相が同月に4期16年間にわたり務めてきた首相を退任することを表明しており、連邦議会選挙にてメルケル首相率いるキリスト教民主同盟(Christian Democratic Union, CDU)と緑の党(Green Party)が連立を組む可能性が出ているためだ。サクソバンクのチームエコノミスト兼CIOを務めるスティーン・ヤコブセン氏は、緑の党は親EU派である一方で反ロシア及び反中国であると共に、ドイツの財政バランスの安定化機能である債務抑制(Debt brake)制度の廃止を強く支持しており、同党が今回の連邦議会選挙で革命を巻き起こす可能性があると指摘する。メルケル首相は輸出主導の好景気を演出したが、その政策はビジョンや希望を抱かせるものではなかった。一方、若者はより環境対策を推進させるビジョンを持つと共に、好条件の就職先や不動産所有などを欲しており、そのギャップが選挙結果に影響を及ぼすと見ている。また、同社のマーケットストラテジストを務めるエリナー・クレイ氏は、キリスト教民主同盟と緑の党が連立を組むか、ドイツ初の緑の党出身の首相が誕生する場合、それは同国にとって歴史的な構造転換が始まる可能性があると言及している。緑の党は1990年比で2030年までに温室効果ガスを70%削減することを公約としている他、構造的財政赤字の上限をGDP比0.35%と規定する債務抑制制度を修正し、年間500億ユーロに上る投資プログラムの実施を目指している。更に、財政拡大を伴う欧州統合深化と域内連携強化を支持しており、これらの取り組みを推進することで財政規律を保つ一方、低成長が続いてきた今までとは異なる欧州の新たな時代を迎える可能性があるという。
欧州はギリシャ財政危機を発端とするユーロ危機により大打撃を受け、2007年後半以降、欧州株式は米国株式に対して常にアンダーパフォームしている。そして現在は、これまで先送りしてきた脱炭素に向けた動きが加速しており、このことが株式投資家にとってトレード機会を生み出しているという。サクソバンクの株式戦略部門ヘッドを務めるピーター・ガーンリー氏は、欧州が2050年までに域内の温室効果ガスの排出を実質ゼロにするという政策に対するエクスポージャーを持つべく、風力や太陽、水力、燃料電池、バイオプラスチックなど、40銘柄に上る欧州企業をピックアップしたと言及している。また、同氏は環境関連銘柄は2021年にボラティリティが高まっているが、長期的な投資テーマになると指摘している。
サクソバンクの債券ストラテジストを務めるアルテア・スピノッジ氏は、欧州当局が2020年に、新型コロナウイルス(COVID-19)の復興基金となる次世代のEU資金(NextGenerationEU)【以下、NGEUと称す】の創設で合意したことにより、既に革命の準備が整っていると言及している。9月のドイツ連邦議会選挙以降、新政権の下で財政支出拡大の機運が高まり、NGEUが共同債券を大量に発行することで、ドイツ国債の金利上昇と欧州全域で金利スプレッドが圧縮すると見込んでいる。また、同社は欧州中央銀行(European Central Bank)【以下、ECBと称す】が2021年の秋まで緩和的なスタンスを維持すると見ており、インフレ時に利回りがゼロ%近辺で推移するドイツ国債に資金を投じることはリスクを伴うという。しかしながら、ECBがハト派的な金融政策を維持したとしても、長期的には景気回復やインフレ圧力が高まることにより、ドイツ国債のマイナス金利が続くことはないと指摘している。
サクソバンクのFX戦略部門ヘッドを務めるジョン・ハーディー氏は、第3四半期には米国で新たな給付金小切手の支給が予定されていない他、バイデン政権によるインフラ投資計画の規模縮小が見込まれることから、米ドルは第4四半期まで弱含みの展開になると予想している。また、同社のコモディティ戦略部門ヘッドを務めるオレ・ハンセン氏は、ポートフォリオのヘッジを試みる投資家らの需要を背景に、インフレ圧力は一時的なものではなく、より長期間続くと言及している。また、同社はドルが下落するとの見方から、貴金属に投資家需要が向かうという。尚、欧州連合(European Union)【以下、EUと称す】が2030年までの新たな温暖化ガス削減目標に合意して以降、欧州連合排出権取引制度(European Union Emission Trading Scheme, EU ETS)のカーボンクレジット(European Union Allowance)【以下、EUAと称す】先物価格は、強い相場展開となっている。投機筋の取引需要が増加する中、EUAは2021年5月に1トン当たり55ユーロを超え、史上最高値を更新する展開が続いているが、サクソバンクでは2030年前に100ユーロに達すると見込んでいる。
サクソバンクのシニアクオンツアナリストを務めるアンダース・ナイスティーン氏は、EUがデジタル資産やブロックチェーン技術分野のリーダーを目指す中、デジタルトランスフォーメーションの時代において、テクノロジーによる革新性発揮を促す欧州全域を網羅した統一的な規制が策定されることが最高のシナリオになると言及している。また、仮想通貨(暗号資産)市場の急速な発展が続き、EUが仮想通貨規制の整備を飛躍的に進めることで、欧州はデジタル資産におけるグローバルスタンダードを獲得できる可能性があるという。尚、EUはデジタルレジリエンスの強化や投資家保護などを目的としたデジタル金融システムの規制策となるデジタル・ファイナンス・パッケージ(Digital Finance Package)を導入するなど、デジタルトランスフォーメーションの推進に向けた取り組みを着実に進めている状況だ。その他、同社のグローバルマクロストラテジストを務めるカイ・ヴァン・ピーターセン氏は、アジアの投資家はEUから離脱した英国の経済及び金融商品に強気の姿勢を示していると言及している。同国は新型コロナウイルスのデルタ株が猛威を振るっている他、アイルランド国境へのハードボーダー(物理的国境)設置を巡る北アイルランド問題や強いポンドなどのリスクを抱えている。しかしながら、英国のアセットに対する強気の姿勢をサポートする複数の要因もあり、例えば、ブレグジットを背景に英国株式は世界で最もアンダーウェイトされている市場の一つであるが、上昇余地もあるという。実際に、FTSE100は新型コロナウイルスが猛威を振るう以前の水準である7,500ポイントを回復していない一方、金融やコモディティといったシクリカル銘柄のエクスポージャーが高く、インフレや金利上昇時に高パフォーマンスになると見込まれる。
サクソバンクはドイツ連邦議会選挙が相場を大きく動かすカタリストになると指摘しており、同選挙を巡るニュースヘッドラインを材料に、FXや株式、債券市場などのボラティリティ拡大が予想される。
release date 2021.07.02
出典元:
ニュースコメント
金融政策スタンスに格差が生じる欧米
ECBが6月10日に現行の大規模金融政策を維持する一方、米連邦準備制度理事会(FRB)は6月16日に利上げ前倒しを示唆した。これにより、欧州と米国の金融政策スタンスに格差が生じ始めており、ユーロに買いが入りづらい展開となっている。また、欧州では新型コロナウイルスのデルタ株への感染が拡大し、景気正常化に向けた動きが遅れかねないとの懸念が広がっていることも、ユーロの重しとなっている模様だ。他方で、サクソバンクがドイツ連邦議会選挙後の市場環境が激変する可能性を指摘する中、欧州関連の株式やFX取引サービスを強化する海外FXブローカーが散見されている。例えば、独自性の高い取引サービスを提供するeasyMarketsはMT4上で欧米株式の取り扱いを開始しており、欧州風力発電首位のイベルドローラ(Iberdrola)や環境対策に積極的なシーメンス(Siemens)などを取引することができる。また、ベストFXブローカー賞を受賞したFBSがユーロ/ドル(EUR/USD)のスプレッドを縮小した他、2020年12月に日本人受け入れを開始したばかりの新鋭海外FXブローカーであるExclusive Marketsも主要通貨の取引手数料を削減し、顧客取引の活性化を図っている。欧米の金融政策スタンスに格差が生じる中、グローバル投資家がユーロや欧州株式を積極的にトレードすることに今後も期待したい。
作成日
:2021.07.02
最終更新
:2022.04.20
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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