作成日
:2020.03.10
2021.08.31 15:33
日本銀行の雨宮正佳副総裁は、国際決済銀行(Bank for International Settlements, BIS)が主催したFuture of Payments Forumで、日本などの先進国にとって中央銀行発行の独自デジタル通貨(Central Bank Digital Currency)【以下、CBDCと称す】があまりメリットになり得ないとの考えを示した。
雨宮副総裁によると、CBDCはカンボジアのように金融インフラが未発達な国で大いに力を発揮する可能性があるが、先進国ではそのコストがメリットを上回ってしまうという。実際にカンボジア国立銀行は今四半期中のCBDC発行を計画しており、安価かつ安全な決済手段の普及に期待が高まっているようだ。しかしながら、雨宮副総裁は既存の金融システムが十分に安全で安定的なものであると言及し、新しい技術を導入する必要はないと指摘している。さらに、日本がデジタル円を発行した場合、日本銀行が全国の取引情報を掌握することになり、個人情報保護に関する懸念が高まると述べた。
中国政府がデジタル人民元の発行を計画していることを受け、今年2月、自由民主党の政治家がCBDCの発行に向けた正式な提案を行ったため、デジタル円が発行されるとの憶測が飛び交っていた。これに対して雨宮副総裁は、安定性をもたらしてきた2層構造の金融システムを脅かす可能性があるとし、国家全体が現金を代替する準備が整っている場合にのみCBDCを発行すべきだと主張している。現金の利用が減少している国家では、CBDCが有効なソリューションとなり得るが、スウェーデン国立銀行が開発中のイークローナがその一例だと言えるだろう。
雨宮副総裁はCBDCの発行を支持しているわけではないものの、引き続きその検証を続ける必要があることを訴えている。今年初めに日本銀行は、CBDCを取り巻く環境を調査することを目的に、6カ国の中央銀行とワーキンググループを立ち上げるなど、積極的な動きに出ているが、最終的に同行はどのような判断を下すのか、今後も国内での展開に注目していきたい。
release date 2020.03.10
日本銀行はCBDC発行に対して懐疑的な姿勢を見せているが、昨年6月にFacebook(フェイスブック)がリブラ(Libra)をローンチすることを発表して以来、CBDCを含めた世界的なステーブルコインの誕生が現実味を帯びてきているようだ。ECBはCBDCの開発活動拡大を検討しており、更に中国では習近平国家主席が仮想通貨およびブロックチェーン技術を広く採用する意向を示しており、年初から中国政府が暗号法を施行するなど、CBDC導入に向けた具体的な行動に出ているという。雨宮副総裁が語るように、CBDCのリスク要因が既存の金融システムを脅かす可能性があるのは事実だが、ビジネストランザクションや国際送金の効率化が社会全体に恩恵をもたらすことも否定できない。しかしながらFacebookがリブラのローンチ時期の再考を余儀なくされるなど、様々な不確定要素を抱えていることは間違いないだけに、今後もその進捗を見守っていく必要があると言えるだろう。
作成日
:2020.03.10
最終更新
:2021.08.31
米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。
大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。
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