作成日
:2020.02.21
2021.08.31 15:33
欧州証券市場監督局(The European Securities and Markets Authority)【以下、ESMAと称す】は2月19日、同局初となる市場のトレンド、リスク、脆弱性(Trends, Risks and Vulnerabilities)【以下、TRVと称す】に関するレポートを公表した。
TRVレポートは、2020年1月1日より新ESA規則が施行されたことに伴い、ESMAにサステナブルファイナンスや個人投資家保護に関連した新たな任務が課されて以降、初のレポートになる。同局は市場が依然として地政学リスクに対し過度に反応していることを背景に、リスクが高水準で推移することに加え、経済が弱い成長に留まるとの認識を示している。リスクは安定的であるものの、特に証券市場及び個人投資家に対するリスクは高まっていると指摘している。
ESMAは金融市場に関連したリスクとして、市場リスクやクレジットリスク、個人投資家リスクなどを挙げている。具体的には、弱い経済成長や緩和的な金融政策、ブレグジットや米中貿易交渉などの不透明感が漂うなか、資産のバリュエーションは大幅に上昇したことから、2019年下半期は市場リスクが高水準で推移したと見ている。株式市場は高ボラティリティが継続する一方で、債券市場は投資家が利回りを求め、スプレッドがタイト化したという。また、市場は原油価格の急落や米国のレポ金利上昇などに対して過度に反応していると指摘している。
クレジットリスク及び流動性リスクも高水準を維持しているという。特にクレジットリスクに関しては、債券のフォーリンエンジェル(Fallen Angel、投資不適格債への格下げ)リスクが高まり、企業の債券クオリティの悪化が目立っているとのことだ。また市場リスクの高まりに伴い、個人投資家リスクは主要な投資商品全般にわたり広がっているという。概して個人投資家は慎重な姿勢を崩しておらず、大半が資産を銀行に預金している模様だ。ESMAは弱い経済成長見通しを持つと共に、新型コロナウイルス(COVID-19)やグローバル貿易交渉及びブレグジットに関連した不透明感が継続すると見ている。
ESMAは債券格下げリスクやビッグテック、ショートターミズム(短期志向)に関連したリスクに対しても注視していくという。同局は債券ファンドのフォーリンエンジェルの影響をシミュレーションしており、ファンドの運用パフォーマンスに与えるインパクトは限定的であるとのことだ。また広範な顧客ネットワークやデータ分析、高いブランド認知度を活かした金融サービスを提供するビッグテックの存在感が増しているという。ESMAはビッグテックによる市場集中度が高まるなか、ファイナンシャルスタビリティリスクを管理すべく、産業界と協働した規制フレームワークを講じる必要があると結論付けている。更に、同局は投資家とファンドマネージャー及び企業の経営層との報酬スキームが異なることにより、ショートターミズムが生じる要因になっている可能性があると見ている。
ESMAはサステナブルファイナンス関連レポートを公表するなど、欧州全域をカバーする統一的な規制フレームワークの構築を目指している。市場に混乱をもたらしうるこれらのリスクを限定すべく、同局が新たな規制策を講じると予想される。
release date 2020.02.21
Googleが個人向け当座預金口座サービスを開始したほか、FacebookがFacebook Payを発表したように、ビッグテックがIT業界のみならず金融業界においても勢力を拡大させている状況だ。また、ゴールドマンサックスがApple(アップル)とクレジットカードを共同開発したことに加え、シティグループがGoogleと手を組み、Googleの利用者向けの当座預金口座サービスを立ち上げる方針であるなど、大手金融機関とビッグテックの戦略的提携も活発化している。データは21世紀の石油と言われ、新たな付加価値を生み出す源泉になっている。そのため大手金融機関にとっては、膨大な顧客データベースを誇るプラットフォーマーとの提携は、多様なニーズにマッチしたソリューションを開発するうえで喫緊の経営課題になっているのかもしれない。eIDと協働し、ATFXが生体認証を活用した取引口座開設サービスを開始するなど、海外FXブローカーも優れたテクノロジーを有するフィンテック企業との提携を積極化させている。今後も、投資家の利便性向上に繋がる画期的なソリューションが開発されることを期待したい。
作成日
:2020.02.21
最終更新
:2021.08.31
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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