作成日
:2019.06.21
2021.08.31 15:26
G20が主導する金融活動作業部会(Financial Action Task Force)【以下、FATFと称す】は、高い匿名性が問題視されている仮想通貨取引への対応案を定めたガイドラインを作成し、仮想通貨市場の監視を強める方針を明確なものとした。
これまでFATFは、顧客確認(KYC)やマネーロンダリング対策(AML)、テロ資金供与対策(CTF)など、仮想通貨取引に関する対応に遅れを取っていたが、今回、ブロックチェーン分析を手がけるChainalysisの協力を得て規制案をまとめることに成功したという。FATFの仮想通貨に関するガイドラインについては、今月初めに財務大臣・中央銀行総裁会議で内容の精査が実施されており、最終的には今月28日と29日に大阪で開催されるG20サミットにてその承認可否が決定する見通しだ。
ガイドラインの中でFATFは、取引所やカストディ企業、その他の仮想通貨関連事業者に顧客の取引情報を収集および提供することを求め、加盟国にはそれを実現するための法整備に対応するよう促している。この世界的な規制が成立すれば、対象となる企業は1,000ドルまたは1,000ユーロ以上の仮想通貨取引に紐づいた顧客情報や送金先を政府当局に報告することが義務付けられる。これを受けて主要な仮想通貨取引所や仮想通貨関連企業は、V20サミットと銘打った議論の場を設定し、政治家や金融当局関係者、その他専門家と共にFATFの提案に対する問題点を話し合うことを決定した。
大手仮想通貨取引所の幹部たちは、V20サミットに先駆けて既にFATFに対するコメントを発表しており、BittrexのCCO(Chief Compliance Officer)であるJohn Roth氏は、この規制を実現するためには、完全かつ根本的な市場の再構築を行うか、全世界に200以上存在する取引所を管理するグローバル基準の共通システムを作る必要があるが、それは非常に難しいとの見解を示している。同じくKrakenの顧問弁護士であるMary Beth Buchanan氏も、コンプライアンスを成立させるためのソリューションがなければ、前時代的なルールを21世紀のテクノロジーに適応することは困難であると述べている。また、コインベースのCCOであるJeff Horowitz氏は、仮想通貨市場に銀行業界の規制を押し付けようとすれば、個人間取引を加速させることとなり、結果的に不透明な市場環境を作り出す可能性があると言及した。
一方、HuobiグループのCCOであるPer Elaine Sun氏は、FATFと直接対話することが仮想通貨業界の独自性を明確にし、相互理解を深めると同時に業界全体が抱えるリスクに対するソリューションを模索する手助けになると、ガイドラインに対して比較的友好的な姿勢を見せている。現在、Circle、コインベース、bitFlyer、Kraken、Huobiなどの企業がV20サミットへの参加を表明しているが、妥協点を見つけることはできるのか、今後の展開に期待して状況を見守っていきたい。
release date 2019.06.21
世界的なマネーロンダリング対策に力を入れるG20は、仮想通貨が犯罪組織やテロリストなどの資金洗浄手段となることを恐れており、特に日本を含む首脳国のリーダーたちは仮想通貨市場における規制の厳格化を望んでいるようだ。しかしながら、このような規制は同時に個人の自由や権利を奪うことにもなるため、仮想通貨コミュニティからの激しい反発があることが予想される。事実、ICOや仮想通貨取引が全面禁止された中国では、取り締まりが強化された結果、オフショアの取引所やP2P(ピアトゥーピア)の個人間取引を介して大量のテザー(Tehter)が流通しているという。取引所の締め出しで仮想通貨へのアクセスが難しくなったことは確かだが、それでも自由な取引を求める人々の動きを止めることはできず、結果的に人民元とテザーの市場に数パーセントのプレミアを発生させるほど膨大な規模の違法取引が生じる状況を招いた。中国の例を見ると、コインベースのHorowitz氏が抱える懸念は現実に起こり得ることだと認識できるが、G20は強硬な姿勢を貫くのか、今後も同組織の動向には注目していきたい。
作成日
:2019.06.21
最終更新
:2021.08.31
米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。
大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。
金融ライターとして独立後は、暗号資産およびブロックチェーン、フィンテック、株式市場などに関する記事を中心に毎年500本以上執筆。
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