作成日
:2019.04.10
2022.01.27 14:48
オーストラリアの財務大臣を務めるJosh Frydenberg氏は4月6日、同国の金融機関の不正行為を調査するために立ち上げられた王立委員会(Royal Commission)の勧告に基づき、効果的に金融分野の紛争解決を図るべく新たな規制策を導入することを発表した。
オーストラリアが今回採り入れる新規制策では、金融サービスライセンス保有企業やクレジット分野のライセンスを取得する業者(クレジットライセンシー)、登録可能なスーパーアニュエーション(退職年金)関連の事業体(Registrable Superannuation Entities)の全てが、消費者や小規模事業者との間に生じた紛争解決を図る際、金融分野の紛争解決機関であるAustralian Financial Complaints Authority【以下、AFCAと称す】の調査及び手続への協力を求められるとのことだ。またAFCAの権限強化を図ることで、係争中の事案に関連した全ての文書や記録を閲覧することができるようになるという。なお、新規制策は法的拘束力を有しており、違反する企業に対してはオーストラリア証券投資委員会(Australian Securities and Investment Commission)【以下、ASICと称す】により制裁が課せられる可能性があるとのことだ。
AFCAは政府の決定への支持を表明しており、AFCAのチーフオンブズマン兼CEOであるDavid Locke氏は、消費者や小規模事業者が関わる金融関連の苦情及び紛争を効率的且つ効果的に解決すべく大きな一歩を踏み出したとコメントしている。またAFCAは紛争解決に繋がる文書の提出をしない場合、当該企業に不利な事実を推定する(adverse inference)権限を有してもいるという。
事業更に消費者向けサービスを提供する全ての金融サービスライセンス保有企業、クレジットライセンシー、スーパーアニュエーション・トラスティ(退職年金資産管理を行う受託者)及びその他の金融機関は、AFCAへの加入が強制される。ASICも新たな紛争解決スキームを効果的に適用させるべく、金融サービスを手掛ける企業がAFCAの会員になることの重要性を強調しており、まさに政府と規制当局が足並みを揃えて新規制策の推進を図っている状況だ。ASICは2019年3月下旬に、AFCAに加入しない金融サービスプロバイダー2社の金融サービスライセンスを剥奪しており、制裁を科すことも辞さない確固たる厳しい姿勢を示している。政府・監督当局が一丸となって新規制策を遂行することで、効果的な紛争解決や不正防止に繋げると共にオーストラリアの金融システムへの信頼回復を図っていると推察できる。
なお、AFCAが開設された2018年11月1日から2019年3月31日までの5か月の間に、29,873件の苦情が持ち込まれたとのことだ。クレジットや損害保険分野の苦情が最も多く、投資分野は全体の5%を占めている模様である。
他方で、2019年3月にASICがFortradeにライセンスを発行したことが明らかとなり、ASICの規制スタンスに変化の兆しが見え始めてもいる。ブローカー各社にとっては、顧客からの信頼を勝ち取ると共に継続性のある事業経営を実践するためにも、新たな規制策に柔軟に対応していく姿勢が求められているであろう。
release date 2019.04.10
近年のオーストラリア金融業界への信頼低迷の背景には、国内4大銀行の不祥事が重なり、政府や世論からの不信感が高まっていることが挙げられる。中でも、2017年8月に国内最大手のコモンウェルス銀行(CBA)がマネーロンダリング疑惑のある取引について、当局への報告義務を怠ったとして提訴された際には、その後最高経営責任者(CEO)が交代する事態にまで発展した。相次ぐ金融業界の不正発覚を背景に、オーストラリア政府は2017年12月14日に王立委員会を設置しており、銀行の不正に対する本格的な調査に乗り出すことを決定している。加えて、近年の住宅価格の下落がオーストラリアの経済全体に悪影響を与え減速の兆しが表れつつある中、今年5月に総選挙実施を控える現モリソン政権は、経済・金融政策を最重要政策とし、今回の新たな規制策の発表により国内の金融業界の信頼性回復を図るとともに、消費者にとってより安全な金融サービスの提供環境を整備したい考えであるようだ。ASICはブレグジット対応策を公表(するなど国内外の様々な政策への対応が迫られているが、新規制をきっかけに、オーストラリア金融業界に良い変化の波が訪れ、消費者、金融業者の両社にとってメリットのある政策が実施されることを期待したい。
作成日
:2019.04.10
最終更新
:2022.01.27
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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