作成日
:2019.04.05
2022.01.27 14:52
シンガポールの中央銀行として機能している金融管理局(Monetary Authority of Singapore)【以下、MASと称す】は4月4日、カンボジアの中央銀行であるカンボジア国立銀行(National Bank of Cambodia)【以下、NBCと称す】と、フィンテック分野の発展に向けた関係強化を図る覚書(MoU)を締結したことを発表した。
MASとNBCは今回のパートナー契約を通じて、フィンテック分野のトレンドや技術動向などに関する情報共有を図るとのことだ。またフィンテック関連の規制策の導入に向けた専門知識・ノウハウの共有や、より効果的なクロスボーダー(多国間で行われる)の協力体制を構築すべく共同研修会を実施する見通しである。
MASとNBCのMoU締結に際し、MASのデピュティ・マネージングディレクターを務めるJacqueline Loh氏とNBAのデピュティ・ガバナーであるH.E. Neav Chanthana氏は、それぞれ以下のようにコメントしている。
今回の覚書の締結をきっかけに、NBCと長期的な協力体制を構築し、両国の個人及び法人の利益となる新たな機会の創出に向けたフィンテックの活用に注力する意向であります。そしてNBCと協働し、両国だけに留まらずASEAN地域における金融業界の発展を促す規制枠組みを構築することを検討しております。
Jacqueline Loh, Deputy Managing Director of MAS - MASより引用
この度のMoUを通じて、我々はMASとフィンテック分野における新たな協力体制の構築に向けた一歩を踏み出しました。今後はフィンテックを活用して、より効率的な決済システムやファイナンシャルインクルージョン(誰もが金融サービスへのアクセスと恩恵を受けられるようにすること)を促進すべく、MASとフィンテック分野の様々なノウハウや情報を共有する計画であります。
H.E. Neav Chanthana, Deputy Governor of NBC - MASより引用
フィンテックの分野は目覚ましい勢いで技術革新及び金融サービスへの活用が進んでおり、フィンテック企業が絡んだM&A(企業の合併・買収)も活発な状況だ。足元ではTradingViewがTradeItを買収したことに加え、BroadwayはBarracuda FXを買収している。今回のMASとNBCによるパートナー契約を通じた関係強化のように、各国規制当局が連携する形でいち早く経済やビジネス慣行にマッチした規制枠組みを構築することが期待されよう。
release date 2019.04.05
2017年の世界銀行の発表によると、カンボジアの成人国民の銀行口座保有率は22%となっており、国民の多数が銀行口座を保有していないという結果になっている。カンボジアに限らずASEAN地域の発展途上国では国民の銀行口座保有率が高いとは言えない状況だ。経済発展に伴い、送金や決済などの金融サービスへのニーズが高まる中、近年では銀行に変わってフィンテックがその役割を果たしている。今回のMASとNBCのMoU締結の趣旨はASEAN地域全体でのフィンテックのさらなる発展のためとされているが、本質は両国の金融規制当局が、銀行の代わりとなり人々に浸透しつつあるフィンテックサービスへの規制及び監視強化を強めて行くことと見ることができる。スマートフォンの普及により、多くの国民がフィンテックサービスを利用する機会が増えているが、マネーロンダリングなどの犯罪防止のため、サービス利用開始時には金融規制当局の規制の元、銀行口座同様にKYCによる本人確認手続きを行うなどのノウハウが必要となってきており、ASEAN地域の金融センターであるシンガポールの持つ規制ノウハウを、ASEAN地域の国々へ技術移転することが目的であると捉えられよう。手軽で簡単に利用できることが特徴であるフィンテックであるが、その反面犯罪に利用される機会も多いため、金融当局の適切な規制により、安全な利用環境が確保されることを期待したい。
作成日
:2019.04.05
最終更新
:2022.01.27
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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