作成日
:2019.01.31
2022.11.10 13:39
1月3日東京市場が開く前の早朝に起きた日本円のフラッシュクラッシュは、STP方式を採用する日本のブローカー及び円通貨ペアを取引するトレーダーに甚大な損失をもたらした。
約10分間に発生したこの度のフラッシュクラッシュは、ニュージーランド取引時間では非常に流動性が低い時間帯であったことから、スリッページの拡大と共に、次々にロスカット注文を巻き込み、クロス円主導で全ての主要通貨ペアが急落(日本円は急騰)する形となった。
日本のブローカーは、日本特有の規制枠組みの下で追証なしのゼロカットシステム(negative balance protection)を適用していないことから、甚大な損失を被る結果になったと言えよう。2015年1月に、スイスの中央銀行であるスイス国立銀行がユーロ/スイスフランの上限撤廃を決定したことをきっかけとするスイスフランショックとは影響の度合いが違うとしても、ゼロカットシステムを適用しないブローカーやトレーダーが巨額の損失を負ったという点では同じことを繰り返していると考えられている。
金融先物取引業協会によれば、日本のブローカーは、2019年最初の取引日において、合計9億4,300万円(8,600万ドル、月次速報値)に上るロスカット等未収金が発生しているとのことである。
顧客区分別に見ると、個人・法人のロスカット等未収金発生件数はそれぞれ6,389件、209件となり、発生金額にして、個人が8億800万円(740万ドル)、法人が1億3,500万円(120万ドル)に上る。なお、スイスフランショック時のロスカット等未収金額は、合計で約34億円(現在の為替レート換算で3,100万ドル)となり、まさに甚大な損失であったことが見てとれるであろう。また、日本のブローカーにとっては、FX相場の急変動により再び多額の損失を被った事実から、リスク管理の脆弱性という課題が浮き彫りになったと言える。一方で、海外FXブローカーは、円通貨ペアの取引量がさほど大きくないことから、1月3日のフラッシュクラッシュによる影響は限定的なものであった模様だ。また、マーケットメイキング(値付け)業務を手掛けるブローカーの中には、膨大な利益を上げるところも出ていたようである。
この度のフラッシュクラッシュをきっかけに、金融庁(Japan Financial Services Agency, JFSA)が個人投資家向けのレバレッジ制限やゼロカットシステム適用の有無を議論する可能性が浮上したと考えられる。多額の損失を被ったブローカーにとっては、ゼロカットシステムを適用するか、再び損失を受けることを良しとするか2者択一の選択に迫られている状況だ。なお歴史を振り返れば、ヨーロッパで起きたスイスフランショック以降、リテールブローカーの間でゼロカットシステムを適用する機運が高まったことは確かであろう。
release date 2019.01.31
1月3日に起きた日本のフラッシュクラッシュでのロスカット未収金として報告された9億4,300万円は、2015年のスイスショックの約34億円、2011年の東日本大震災の約17億円に次ぐ規模となる。2015年、中国人民元の切り下げや中国株の大暴落が要因となって起きたチャイナショックでのロスカット未収金は9億2,200万円と報告されており、今回のフラッシュクラッシュはチャイナショックよりも未収金額が大きいものとなった。このような大規模なボラティリティは頻繁に発生するわけではないものの、Bloombergによれば、日本の3日以上の連休に相場の急変動が起こりやすい傾向にあるのではないかと推測されており、日本では月曜が振替休日になる政策の影響で3連休が多いことに加え、今年は皇位継承に伴う一連の儀式もありゴールデンウィークが10連休になるという長期休暇も控えている。年初のフラッシュクラッシュから始まり、ボラティリティが高くなることが予想されている2019年の相場の動きには今後も注意が必要のようだ。
作成日
:2019.01.31
最終更新
:2022.11.10
国内及び外資系金融機関に15年弱勤務し、現在は独立。
執筆と翻訳は、海外FXを始めとする金融分野を専門とする。
慶應義塾大学卒。
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