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不安定通貨と揶揄されるテザー、運用の不透明さに懸念

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update 2021.08.31 15:22
不安定通貨と揶揄されるテザー、運用の不透明さに懸念

update 2021.08.31 15:22

曖昧な監査結果やポリシー、準備金の実態に疑惑

2014年にTether Limited【以下、テザー社と称す】によって発行されたステーブルコインのテザー(Tether)は、米ドルと1対1の比率でその価値を裏付けされている世界初のペグ通貨として広く利用されているが、最近ではその根本的価値を覆すような議論が展開されている。

テザーは、仮想通貨特有の激しい値動きを解消することを目的に考案され、安全に保有できるデジタル資産としての役割を期待されている。そのため、テザーはBitfinex【以下、ビットフィネックスと称す】などの主要な仮想通貨取引所で採用されており、台湾の銀行では国際取引にも利用されているという。なお、取引量ではビットコインについで第2位に位置するなど、テザーの流通の広さが伺える。

今年10月に入って、テザー(USDT)は急落を見せており、市場の不安を煽っている。価格の下落は初めてではないが、今回の急落はパニックセールを引き起こし、仮想通貨の信用不安までに発展した。今月14日から15日にかけて、テザー(USDT)は0.94ドルまで値を落としており、今現在は0.97ドル付近まで戻している。米大手仮想通貨取引所のKrakenでは、一時0.90ドルの安値をつけたという。中国資本の大手取引所BinanceのCEOであるChangpeng Zhao氏も、自身のTwitterで急落するテザーのチャートを引用し、「規制されたステーブルコイン」と皮肉交じりに投稿している。しかし、一方では、この価格の下落は決して不健全なことではないと論じるアナリストも存在する。現在、テザーの価格は、米ドルよりも多少安い程度で推移しており、ほぼ理論値通りであることを主張しているようだ。

スイスに本社を置く仮想通貨関連の財団であるSaga Foundationは、世界で初めての非匿名の準備金で裏付けされた仮想通貨、SGAを2018年にローンチする予定だ。その創始者であり財団理事長でもあるIdo Sadeh Man氏は、このテザー価格の動きは、市場が透明性と公平な規制の枠組みを求めている現れだとして、以下のようにコメントしている。

仮想通貨市場は成熟の段階に入っても、無理に拡大を続けようとするのであれば、我々は、取引の透明性や抑制と均衡の重要性を今一度思い知ることになるでしょう。規制の枠組みが増加することは、バグというよりも、仮想通貨の特徴そのものです。ステーブルコインは、聖なるものではありません。仮想通貨の本来の価値は、独自の価値を持つ通貨を作ることで、準備金を以てして価値の安定を図ることが最終目的とは言えないでしょう。

Ido Sadeh Man, Founder & Foundation Council President at Saga Foundation - FINANCE MAGNATESより引用

一方で、テザーは初めから破綻していたという見方もある。当初から仮想通貨コミュニティでは、テザーのポリシーに関して違和感を抱く声が上がっていたという。例えばアーカイブに保管されているポリシーには、「テザーは金銭ではなく、金融手段ではありません。金銭的価値を保有する存在でも通貨でもありません。契約上の権利やその他の権利、申し立てによって、我々がテザーを償還または交換することはできません。」との記載があったようだ。コミュニティからの批判によって、テザーは結果的にポリシーを変更しており、「トークンの発行や償還をテザー社が行うためには、テザーの顧客として承認が必要です。この条項に例外はありません。テザーの発行や償還はあなた個人の契約上の権利です。[1]」と定められている。しかしながら、顧客承認の手段となるテザー口座開設は、ここ数ヶ月の間、停止されているという。

2017年ごろから仮想通貨コミュニティは、テザーの価値の裏付けとなる米ドル資産による準備金を、テザー社が本当に保有しているのか疑問を呈し始めている。一部のアナリストは、このコミュニティによる疑念がビットコインの激しい値動きを支えた要因になっていると分析する。今年6月にはテキサス大学の研究者が、テザーへの深まる疑念に対して報告書を発表し、ニューヨークタイムズ紙にも掲載されたが、調査結果は十分に審査されていなかったことから、信憑性を得るまでには至らなかった。

テザー社は、この準備金に関する疑惑を継続的に否定しており、今年6月に公表した独自の報告書では、発行されたテザーよりも多く米ドル資産を保有していることを主張している。監査を担当する法律事務所のFreeh Sporkin & Sullivan LLP【以下、FSSと称す】によると2018年6月1日時点で、準備金として2,545,067,236ドルを保有しており、発行された2,538,090,824ドル分のテザーをカバーする以上の額となっているという。

この報告書が公開された時点で、テザー社のCEOであるJan Ludovicus van der Velde氏は、以下のようにコメントしている。

様々な憶測にも関わらず、我々は継続的に米ドル資産による準備金が、流通するテザーの価値を上回っていることを証明してきました。これに関する独立検証も歓迎し、一般の方からの質問にもお答えします。我々は、テザーの透明性を高める努力を決して怠りません。仮想通貨に対して既存の会計基準や保証基準を当てはめることは難しいですが、監査パートナーと今後も議論を続けていきます。

Jan Ludovicus van der Velde, CEO at Tether Limited - FINANCE MAGNATESより引用

しかし、報告書の中でFSSは、「FSSは会計会社ではなく、今回のレビューは米国会計基準(GAAP)に基づいたものではない。テザーの銀行口座と保有する資産額の承認は、一般的な監査基準(GAAS)に基づいたものだとは解釈されない。」と記載しており、仮想通貨コミュニティはこの結果にまだ満足していないようだ。

これらのように、テザーの信頼性を揺るがす要因が多くあるが、Sadeh氏は以下のようにコメントしている。

対象となる資産の安定性を利用するテザーは、カレンシーボード制と同様の仕組みを採用しています。このようなペグ通貨は、過去の中央銀行の取り組みなどから有効だということは証明されてきました。しかし、何度も言うようですが、それは、裏付けとなる米ドルが準備金として正しく保有されており、流動制や本当に資産を償還するという前提があって初めて成り立つのです。

Ido Sadeh Man, Founder & Foundation Council President at Saga Foundation - FINANCE MAGNATESより引用

Sadeh氏によると、ペグ通貨としての有効性を発揮するためには、2つの要素があるという。ひとつは、準備金の規模が周知されているということ、もうひとつは、資産管理のための組織のガバナンス体制だ。これらの要素を有する証明ができないのであれば、その安定性は失われてしまう。テザーに関して言えば、準備資産が本当に存在するのかを問わず、それを運営会社以外が確認する手段が確保されていない点が本質的な問題だという。利害関係にない複数の有識者によって証明が行われることが理想的で、これらの観点からテザー社の運用は透明性に問題を抱えていることが指摘されている。

release date 2018.10.17

出典元:

ニュースコメント

負のイメージが付き纏うテザーとビットフィネックス

テザー社と仮想通貨取引所ビットフィネックスのCEOは同一人物となり、ビットフィネックスでテザーの取引を行うことはビットコイン価格の変動に関わるのではないかと指摘する声が上がっている。先日ビットフィネックスは出金処理に遅延が生じていることがユーザーから報告され、コミュニティに不安が広がっていることが報道された。ビットフィネックスは、以前から債務超過に陥っていることや銀行との取引に問題を抱えていることがインターネット上で噂されており、ビットフィネックスが問題を起こすたびに、テザー準備資産の疑惑との関連性に焦点が当てられている。今年6月に公開された独自の報告書やポリシーの変更からも見て取れる通り、テザー社の透明性が欠如した運用に対し、コミュニティから批判の声が多く上がっている。現在のテザーの市場価値は24億ドルほどで、ビットコインに次ぐ2番目の取引量を誇り、仮想通貨市場でも大きな役割を果たしているが、仮想通貨コミュニティからの批判の声にはっきりと応えることができれば、他のステーブルコインの追随を辞さない圧倒的な存在になれるだろう。


Date

作成日

2018.10.17

Update

最終更新

2021.08.31

Zero(ゼロ)

米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。
大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。
金融ライターとして独立後は、暗号資産およびブロックチェーン、フィンテック、株式市場などに関する記事を中心に毎年500本以上執筆。
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